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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第5話 第6章『消えゆく希望』 ①

今週はここまでとなります(*‘ω‘ *)

絶妙なところで終わってしまいました(;´・ω・)

 4人がそれぞれの戦いを始めた頃、アインもヌルと対峙していた。

 ゆっくりと近づいてくるヌルに対して、刀を抜いたアインが向かいあう。


「アイン、私たち2人しかいないからって負けるわけにはいかない。ここで止めるわよ!」


「ああ!!」


 アインが刀を構えたのを見ると、ヌルはにやっと笑って片手を振った。

 手の先から触手が伸びたかと思うと、それは赤黒い刃に姿を変えて剣を模る。


「さあ、アイン、おまえがどのくらい強くなったのか俺にも試させてくれ。

 兄弟だからな。弟の成長がまずは知りたい。」


「行くよ兄さん!!」


「だが、そうだなアイン。気をつけることだ・・・おまえが倒れるということは、そこにいるドライがおまえの望まぬ形になるということなんだからな。」


 斬りかかってきたヌルの攻撃を、アインはカウンターで斬り返す。

 肩口を軽くかすめたその攻撃に、ヌルが楽しげに笑った。


「へえ、さすがだな。やるようになったじゃないかアイン。」


「皆、成長したんだよ兄さん。」


 そんな会話をしている間にも、切り裂かれたヌルの肩の傷はすぐに消えて元に戻ってしまう。


「兄さんは鈍ったんじゃないかい?」


「そうか、だが、おまえの刃は俺には届いていないぞ。

 たとえ俺が鈍っていたとしても、おまえが俺に辿り着くのはまだまだ先だ。」


 互いを試し合うような攻防戦が続く中、ドライはそれを見ていることしかできない。


「なあ、アイン・・・おまえはずっと頑張ってきたようだが。

 それでおまえの理想は叶っているのか?」


「兄さん?いったい何を言ってるんだい。」


「おまえは子供の頃、理想の家族を作りたいと言っていたじゃないか。」


「違うよ兄さん、理想の家族っていうのは作る物じゃないって僕は思う。」


「じゃあどう思うんだ?」


「互いを想いあって寄り添って行けば、きっと作ろうとしなくても理想の家族が出来る。

 だから、僕はそうなることを願っている。

 ただ、それだけを目指して動いてきたつもりなんだ。」


 まっすぐな目で見つめてくるアインを、ヌルは哀れなものを見るような目で見た。


「現実を見てみろ。おまえの家族は好き勝手に動いているだけだ。

 それがお前の理想か?俺と一つになるんだアイン。

 そうすれば俺がお前の理想の家族を実現してやる。俺の中でならそれが可能だからな。」


 ドライが思わず反論しようとすると、アインが片手でそれを制して止める。

 訝しげな表情をするドライに対して、アインは静かに首を横に振ってみせた。

 仕方なく、ドライはアインとヌルを見守ることにする。


「おまえは・・・そういうのが欲しかったんだろう?

 そこでなら家族はおまえの思い通りに動く。それを俺が叶えてやる。だから、兄弟で争うのなんてやめようじゃないか。」


 ヌルの言葉を目を瞑りながら聞いていたアインだったが、相手の言い分が終わったのを確認すると目を開いてはっきりと言葉を返す。


「兄さんは勘違いしているよ。

 確かに僕の中には理想の家族がある。でもそれは僕だけじゃない。

 家族の皆、ひとりひとりその心の中に皆それぞれの世界を持っていて、それは他人にたとえ無価値なものでも、その人にとってはとてもかけがえのないものなんだ。

 それに無遠慮に踏み入って踏みにじるというのは、とてもひどいことなんだよ。

 たとえ家族でも、いや、家族だからこそ、そんなことをしちゃいけない。

 尊重し合って時にはぶつかり合って一つになって行く。僕が作りたいのは、そんな家族なんだ。」


「ほう?」


「だから今、僕は兄さんと戦う!目を覚ませてやる!!」


 そう言うと、アインは再び刀を構える。


「そうか・・・目を覚まさせると言うならそうしてみるといい。

 おまえにそれが出来るならな。」


 ヌルも交渉の余地はないと悟ったのか、再びアインに斬りかかることで応えた。


「おまえがどんなに覚悟を決めたところで、俺とお前には歴然とした力の差がある。

 おまえのそれは、理想どころか現実味のない夢物語でしかない。

 求めるものは力がなければ手に入らない。」


 だんだんと早くなるヌルの攻撃に、アインは次第に押されていく。


「そして、これがその力の差だ。」


 ヌルの一撃で両手両足が切り裂かれてアインは無様に床に転がった。

 アインは手加減などしたつもりはなかった。

 それなのに、どうしてもヌルに届かない。


「さあ、アイン。まずはおまえからだ。」


 ヌルがそう言ってアインに手をかざそうとした瞬間、魔力で形成された氷の狼が横から飛びかかった。

 アインを守るためにドライが召喚したものだったが、その攻撃が効かないのは目に見えている。

 思った通りヌルはそちらを振り向くこともなく、剣の一振りで狼を斬り伏せた。

 砕かれた狼は空中に霧散して消える。


「いくら紅牙おにいちゃんでも、これ以上犬をいじめると言うなら私が相手になるわ。」


 アインの前に出たドライが、キッとした表情でヌルを睨みつけた。


「やめろ・・・ドライ・・・っ!」


「大丈夫よアイン。あんたはどんなに転んでも立てるやつだから。

 今はそこで休んでなさい。私が皆の長女としての・・・お姉ちゃんとしての力を見せてやるわ。」


「やれやれ、大人しくしていればいいものを・・・」


「行きなさい、フェンリル!!」


 そう言ってドライは再召喚したフェンリルと自身の特殊能力である『悪意の付与』を駆使して戦い始めるが、その勝敗は歴然としたものだった。


「く・・・!?どうして効かないのよ!」


 どんなに悪意をぶつけても、ヌルには通じている様子がない。

 合間に召喚するフェンリルの攻撃も、相手の精神を衰弱させるはずの精神干渉も、全くと言っていいほど効いている様子はなかった。


「どうしたドライ・・・おまえは確かに昔から優しい子だったが、それで俺に攻撃が出来ないというのなら『悪意』の異名が聞いてあきれるな。

 おまえの家族への思いはそんなものか?だったら、もう遊びは終わってしまうぞ。」


 ヌルが無造作に放った拳の一撃が腹部を捕え、ドライはアインの方に吹きとばされる。


「ドライ・・・っ!!」


 近くに転がったドライの元に、アインは動かない手足を無理やりに引きずって床をはいずりながらも何とか近づこうとする。

 そんなアインを見たドライは優しげに微笑むと、両手をついてなんとかその場に身体を起こした。


「大丈夫よ。今の私にとっては紅牙おにいちゃんもあんたも大切だけど。あんたをこのまま失うのは嫌だから。」


 ヌルをにらみつけるようにしながら立ち上がったドライは再び攻撃を仕掛けようと両手をかざす。


 しかし・・・


「あんまり無茶ばかりするものじゃないぞ。

 仕方がない・・・俺だって無駄に家族を傷つけたいわけじゃないからな。」


 肩をすくめてそう言ったヌルの瞳が紅く光ったかと思うと、ドライの髪を結っていたリボンがパンッと弾け、ヒラヒラと床に舞い落ちた。


「え・・・?」


 ドライ自身も何が起こったのか分からなかったのか、微かに声をあげたかと思うとその場に膝をつき、そのまま倒れた。


「あれ・・・?どうしちゃったのかしらね?」


「安心しろドライ。すぐに皆、同じところに行くことになる。

 それまでは、俺と一つになっているといい。」


 ヌルの言葉と同時に、ドライの姿が少しずつ光の粒子となっていく。


「ドライ・・・ドライっ!!」


 身体を引きずってようやくそこまでたどり着いたアインが、倒れたドライの身体を抱き上げようとするが、ようやく触れたところでドライの身体が見る間にかすれて空間に溶けていく。


「まいった・・・わね・・・あんたを守ってあげたかったけれど。」


 困ったような、ほんの少し泣きそうな表情で笑いながら、ドライはアインに手を伸ばす。


「そん、な・・・」


「ねえ、アイン。あんたが家族を守りたいって頑張る姿、私は好きよ。

 だから、頑張りなさい。あんたのこと信じてるから。」


「僕も大好きだよドライ!!君が頑張っている姿を見るのが・・・っ!

 とても大好きだ・・・大好きなんだ。」


 アインは消えて行くドライの身体を必死につなぎ止めようと抱きしめるが、無駄だった。

 腕の中にあるはずの彼女の体温が、重さが、どんなに抱きしめても失われていく。


「信じてるわ・・・」


 にこっと笑いかけたのを最後に、ドライの姿は光の粒子となって散った。


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