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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第1話 第3章『双頭の竜』 ⑥

※6月3日に文章の整理をしました。


「兄さんっ!?」


「だめ、ツヴァイ・・・っ!」


 竜の前に飛び出そうとしたツヴァイを、フィーアが止める。


「く・・・っ!アイン、あんたってやつはどうして・・・!」


 ソフィがそのような事態になったことを悔やんで唇をかむ。

 自分の魔法がブレスを防ぎきることが出来れば、アインがあんなむちゃくちゃな行動に走ることはなかったはずだ。

 アインはいつも、仲間のために自身が傷つくことさえいとわず戦ってきた。

 しかし、ここでアインがいなくなってしまえば、もうすぐ叶うはずだった5人の願いが叶わなくなってしまうではないか。


 皆が絶望しかけたその時だった。


「見ろ!竜の口が・・・!」


 アハトが指をさした先で閉じたはずの竜の口が、押し開かれていく。


「兄さん!よかった・・・っ!」


「アイン!!」


 中には刀をつっかえ棒のようにして、竜の口をこじ開けるアインの姿がある。


「これでブレスは撃てないだろう?皆、僕が止めている間に戦ってくれ!!」


 ドラゴンのブレスは、体内にあるガスをため込んだ袋から、吸い込んだ空気を吐き出してガスを口に流し、歯を打ち鳴らした時に生じる摩擦によって着火して炎を吐いている。

 ツヴァイからそう聞いたアインは、歯を打ち鳴らせないようにすればいいと言われたのを実践してみた。


 先ほど竜がブレスを吐いたのを見て、ツヴァイはその仕組みを理解していたのだ。

 かなり危険な賭けではあったが、着火できなければドラゴンはブレスを吐くことはできない。

 といっても、さすがにツヴァイは口の中に飛び込めとは言わなかったのだが。


「いい心がけだ、ならば我らが貴様の遺志を引き継ごうではないか!」


 まだアインは生きているというのに、不吉な言葉を言い放った領主軍のリーダーは兵士に命令した。


「あの狼ごと攻撃しろ!!」


「え・・・!?」


 驚いた4人が振り向く間もなく、バリスタの矢が竜に向かって放たれた。

 巨大な矢はアインごと竜を撃ち抜くかに思えた。


 すると・・・


ガインっ!!


 とても固い音がして、アインの背筋が矢をはじいた。


「な、なんだとお!?いったい何が起こったんだ!!」


 アインの強靭な肉体には、竜討伐用とはいえ矢は通らなかったようだ。


ギャオオオオオオッ!!


 しかし、それは竜の逆鱗に触れるには十分だったらしい。

 長い尻尾が、領主軍たちの潜んでいる辺りをなぎ倒した。


「ぎゃあああ!?」


「ぐああああ!」


 何人かがそれに巻き込まれて地面に転がる。

 吹き飛んだとはいえ傷はそれほどにも見えないのだが、首のあたりを苦しそうに抑えていた数人の顔色があっという間に悪くなり、全身が紫色に変色していった。


「毒があるの尾の棘だったか。」


 それを見てアハトが冷静に言葉を口にする。

 驚くリーダーと兵士たちに、ソフィが冷たい視線を向けた。


「あなたたちがしたこと、よく覚えておくわ。」


 アインでなければ、今の攻撃は間違いなく防ぐことはできなかっただろう。

 つまり、彼らは自分たちを竜を倒すための駒としてしか見ていない。

 

 だとすればこちらにも考えがある。

 大切なのは仲間たちだ。

 領主軍の連中がそういうつもりなら、こちらもそれを踏まえて戦おう。

 そう心に決めて、ソフィは再び竜と対峙する。

 ソフィのそんな様子を見ながらアハトがにやり、と笑みを浮かべた。




「ツヴァイ、大丈夫?」


「ん。兄さんが驚かせるからちょっとびっくりしちゃっただけだ。大丈夫だよ。」


 薬が切れてきたのか、ツヴァイがほんの少し額に汗を滲ませていることに気付いたフィーアは、意を決したように前に出る。

 いつまでもツヴァイの後ろに隠れているわけにはいかない。

 ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめてフィーアは呪文を唱えると、スッと右手を振るだけの動作で大気から氷の刃を形成して竜に向けてそれらを放つ。


 フィーアの魔法は実験体としての能力ではなく、彼女自身が生まれつき持っている能力だ。

 魔法とは呪文を唱えることによって、自身の魔力を糧にさまざまな現象を起こす術式。

 その中でもフィーアは、特に氷を操ることに長けている。

 人間の中にも魔法を使える者たちはいるが、妖精族ほどそれらを得意としない。

 

 そもそも錬金術が発達したこの大陸で、魔法などという不確定な法則だけに頼る者たちは、実はそれほど多くはなかった。

 何しろ、呪文が同じでも当人の魔力によって、その威力や事象は大きく変わってしまう。

 少なくともこの大陸の人間は、フィーアのようにエルフ族の血が入っていたり、ソフィのように妖精族そのものだったりしない限り、魔力自体の保有量が少ない。

 種族によっては魔力そのものがほとんどなく、魔法を使うことすらできないのだ。

 そのために、魔法自体がそれほど発展していないのが現状だった。

 

 生まれ持った強い魔力が原因で実験体に選ばれてしまったことは、フィーアにとって不運でしかなかったが、そのことを除けばその能力は大いに皆の役に立っている。

 氷の刃は竜の身体を引き裂き傷つけるが、残念なことにまだ死に至らしめるような傷には至らなかった。




 一方、アインは竜の口の中でかみ砕かれないように耐えていた。

 もう片方の首もアインを邪魔に感じているのか、噛みつこうと何度も襲い掛かってくる。

 背中側でもう一つの頭が、ガチガチと歯を鳴らしていた。

 幸い、アハトのグレネードで歯が砕けていたため、もう一つの頭がブレスを打つことはなさそうだが、油断をすればアインが入っているほうは、ブレスを吐いてくるかもしれない。


「食べれるものなら食べてみろ!」


 アインの挑発に竜はアインを噛み砕こうとするが、口の中に刀がささっているためにうまくできないようだ。

 そんなときに辺りに閃光が走った。


「ふ、2度もホームランさせると思うなよ。」


 にやり、と笑ってアハトが、ドラゴンに向かって指を差しながら言った。

 先ほどグレネードを打ち返されたのが、よほど悔しかったらしい。

 今度こそ視界を奪われた竜は、以前と同じように暴れ始める。

 翼が凍ってブレスがはけない状態では、地面をのたうち回ることしかできないようだが。


「ふう、さすがに口の中は無茶だったかも。」


 その隙をついて、よいしょとアインが竜の口の中から出てきた。

 驚いたことに彼は無傷で、そのまま竜の方を向き直る。


「食べられてしまった村の人たちのためにも、おまえを倒してみせる!」


 崖を斜めに駆け上ったアインは刀を振り上げて落ちてくると、そのままの勢いで片方の頭を地面に串刺しにした。


ギャオオオオオ!!


 竜の叫び声が山脈にこだまし、あと一歩で倒すことができると分かったその時だ。


「ぐはははは!その竜を倒すのは、私たち領主軍だああっ!!」


 悪役のようなセリフと共に、領主軍がバリスタの矢を竜に放とうとした。


 そして・・・


ドガアアアアン!!


 耳をつんざくような爆発音がして、バリスタの装置ごと後ろに控えていた領主軍が吹き飛んだ。

 発射された巨大な矢は竜のもう片方の頭を正確に貫き、竜はその場に崩れ落ちる。

 普通のバリスタがあのような勢いで、しかも爆発して発射されるなど通常ではありえない。


「・・・アハト、あんたがやったのね?」


「俺は最初に言ったはずだぞ?グレネードは3か所に仕掛けたと。」


 涼しい顔で言ってみせるアハトに対して、ソフィは苦笑いすることしかできなかった。


戦闘シーンが苦手すぎて辛い(*´Д`)


アインの背筋がなぜバリスタの矢を弾けたって?

TRPG的に言うならばダイスがクリティカルしたからです(; ・`д・´)


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