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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第5話 第4章『孤高の竜騎士』 ①

この章辺りからずっとシリアスシーン・・・のはず(; ・`д・´)

 背後から聞こえてくる戦闘音が遠くなった頃、一行は建物の内部に乗り込んでいた。

 白い触手に覆われた通路を駆け抜けた先は、別の通路につながっている。

 辺りはまるで生き物の内臓のように蠢いており、触手の色も白から肉の色に変っていた。


「あう・・・ちょっと怖いかも。」


「大丈夫だよフィーア、もし襲ってきても僕が守るからね。」


 今にも襲いかかってきそうな肉壁にフィーアが怯えると、ツヴァイがそっとその肩を抱いて微笑む。

 そんな中、アハトが面白半分に通路の壁をつついた。

 途端、壁から小さな触手が現れてアハトの指に巻きつこうとする。


 しかし・・・


「へっへっへ、ばかめー!」


 いつの間にか手にしたナイフで、アハトが触手を斬り落とした。

 落ちた触手は床でしばらくの間びちびちと動いていたが、やがて壁に飲み込まれるように吸収される。


「なにやってんのよ・・・」


「いや、ちょっと実験をな。さあ、先に行くとするか。」


 あきれたように言うソフィにさらっと答えると、アハトは先に歩き出した。

 皆はやれやれというように顔を見合わせて、その後に続く。

 攻撃をされることもなく6人が奥に進んで行くと、大きなホールのような場所に辿り着いた。


 方向感覚の分からないまま内臓のような道をただ上に下にと誘導されるように移動してきたために、位置関係は全くわからないが、おそらくここは実験場なのだろう。

 その奥に設置された肘掛のある椅子に、彼は座っていた。


「よく来たな、俺の家族たち。」


 くくくっと低く笑うと、ヌルはその場からスッと立ちあがった。

 用の無くなった椅子は、そのまま肉壁に飲み込まれて消えて行く。


「多少余分なやつらも交じっているみたいだが、ここが俺たち家族の旅の終着地だ。」


「違うよ兄さん、ここが始まりの場所だ!」


「始まりの場所?おまえはまだこの状況で何とかなると思ってるのかアイン。」


「もちろん、そのために僕たちはここに来たんだから。」


「そういえばおまえは、家族の絆があればどんな困難でも跳ねのけられるみたいなことを言っていたな?」


 フッと笑うとヌルはこう続ける。


「なら、少し遊んでみるか。家族なんだから仲良くしないとな。

 おまえの言うことが本当なら、これから何が起ころうとも大丈夫なんだろう?」


 ヌルがそう言った瞬間だった。

 フィーアの足元が変形して、急にぽっかりと穴が現れる。


「きゃあ!?」


 フィーアは慌てて避けようとしたものの、下から触手が現れてその足首に絡みついた。


「フィーアっ!!」


「蒼ちゃん・・・っ!!」


 その手をツヴァイが掴んだが、2人とも触手に引きずり込まれてしまう。

 誰かが手を伸ばすよりも早く、穴が何もなかったかのように塞がった。


「く・・・っ!フィーア、ツヴァイっ!!」


 駆け寄ろうとした瞬間に、今度はソフィの身体が床に沈んでいく。


「おい、ソフィ大丈夫か?」


「あ、こら・・・っ!」


 冷静な様子でアハトが近づいてきてソフィの手首をつかんだが、このままでは先ほどの2人の二の舞だ。


「おまえたちは異物だからな。外敵に対する対策として、あの場所にでも送っておくとしようか。

 全て終わるまで遊んでいるといい。」


 アインの見ている前で、2人の姿が穴に飲み込まれて消えた。


「ふむ・・・しかし、アレを操れなくなっているのは面白いな。

 あの男をまたナイフで刺してやろうと思ったのに。」


 口元に笑みを浮かべたヌルは、その後、あっさりと2人には興味を失ったのかゆっくりとアインとドライの方を振り向いた。


「さて、どうするアイン?家族が離れ離れになってしまったぞ。

 おまえは家族を守ると言っていたが、この状態でどうする?」


「大丈夫だよ兄さん、皆はそんなに弱くない。」


「そうか、じゃあ俺たちの方も始めるとするか。」


 ゆっくりと歩み寄るヌルに対して、アインがドライを守るように前に出て刀を構える。

 それが、戦闘開始の合図だった。




 飲み込まれた先は小さな部屋だったが、ソフィとアハトが現れた場所は空中だった。


「く・・・っ!」


 妖精の翅を広げる余裕はなく、ソフィが地面に叩きつけられるのを覚悟した時だ。


「よっと。」


 どうやって体勢を立て直したのかは分からないが、アハトがソフィを横抱きにして足から地面に着地する。


「あ、ありがとう・・・」


「ああ、よかったよかった。」


「ばか・・・一緒に落ちてこなくてもよかったのに。」


 自分の手を掴めばこうなることは、容易に想像できたはず。

 それなのに、アハトはそれを選んだ。


「いや、どうせ俺とおまえはヌルにとって異物でしかないからな。こうなることは予想済みだ。」


「そうね・・・彼の視点では、私たちは家族じゃないんですものね。」


 ヌルが家族と認めているのは、いわゆる初期のナンバーズのみ。

 アイン、ドライ、フィーアの3人以外は、彼にとっては招かれざる客でしかない。


「まあ、そんなことを言っている子供は、後でお仕置きするとしてだ。」


「そうね。早く戻らないと。」


 部屋を見渡すと、いくつもの通路がつながっている。

 そして、侵入者に反応するように辺りの触手が蠢きだしていた。

 それはゆっくりと、それでも確実に距離を詰めてきている。

 どの道に逃げ込むのか正解なのか分からないまま2人が思案していると、一か所から風の流れを感じた。


「さて、ソフィどこに行く?せっかくだから俺は紅い扉を・・・!」


「全部肉々しいけど扉なんてないからね!!」


 よくわからないことを言うアハトに全力で突っ込みを入れた後、ソフィはふと顔をあげる。


「・・・花びら?」


 風の流れてくる方から一枚、淡いピンク色の花びらが流れてくる。

 それは左に見える通路からだった。


「さてどうする、罠だとは思うが行くか?」


「他に判断材料もないし、ダメもとで行ってみましょう。少なくともアレに好き勝手されるよりはマシよ。」


 迫って来る触手を嫌そうな顔で見てから、ソフィは左の通路に向かって走り出す。

 同時にアハトもそちらに向かって走り出した。

 触手に追われるように、2人は通路を駆け抜けて行く。


 すると・・・


「ここは・・・?」


 辿り着いた場所は、先ほどよりも広い空間だった。

 しかし、明らかに他とはその様相が違っている。

 そこは、建物の内部がそのまま残っているのだろう。


 崩れた天井の一部から、光が差し込んできていた。

 石造りの床と壁はあちこちがくずれてはいるが、肉壁や触手の気配は全くない。

 後ろから追いかけてきていた触手も、今はその姿を消している。

 そして、その光の差す先に見覚えのある石碑があった。


「これは・・・」


 それは、ノインが孤島の楽園で守り続けていた大切な人の墓標だった。

 そこにはまるで、誰かが供えたかのように葵の花が添えられている。

 触手で形成された塔の中にはふさわしくない、清浄で幻想的な空間。


「そっか・・・この花の。」


「この墓は無事だったのか、よかった・・・」


 微かに笑みを浮かべながら、アハトが無防備にその墓に近づこうとした時だった。

 強い風が吹き込んできて、葵の花びらが散る。

 その花びらが導かれるように舞った先に、彼は倒れていた。


「な・・・っ!」


 壁に寄り掛かるように倒れている竜騎士。

 それは間違いなく、ヌルに飲み込まれたはずのアルバートの姿だった。


「アルバート!!」


 葵の花びらがふわりと竜騎士の身体に触れた瞬間に、仮面の奥にあるその目が微かに紅い光を灯す。

 すうっと立ち上がった竜騎士の仮面はいつの間にか修復されており、アルバートの顔を見ることはできない。

 壊れかけの腕の部分がばちばちと音を立てたかと思うと、あの時と同じように光の剣が現れた。

 一つ違うところがあるとすれば、ぎこちのない動きだろうか。

 以前のような、切れのある早さは存在しない。

 それはまるで、子供がおもちゃの人形で遊ぶかのようにたどたどしい動きをしていた。

 

 目の部分から見える紅い光も、微かに点滅するばかりで本来のものとは違うようだ。

 竜騎士は何も答えずに、重い音を立てながら近づいてくる。

 それを見たアハトは、相対するように無言でそちらに歩いて行った。


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