ホムンクルスの箱庭 第5話 第3章『避難キャンプの英雄』 ⑥
今週はここまでとなります(*‘ω‘ *)
「やれやれ、天気が悪いのう。」
合体して巨大な飛龍形態となったアルケンガーを操縦しながら、グレイが呟いた。
「まるで、空が泣いているみたい・・・」
フィーアも不安げに空を見上げる。
雨が降り出しそうなほどに厚い雲が、空全体を覆っていた。
それはフィーアが言うとおり、今にも泣き出しそうな様相にも見える。
アルケンガーの背に6人が乗り、内部の操縦席にはグレイとクリストフ、そしてジョセフィーヌが乗り込んでいた。
空から接近することで、触手の塔の近くまでは襲われることなく辿り着くことができたが、その建物の入り口付近に人影が立っている。
その人物はこちらを眺めており、唇が微かに動いた。
声は聞こえない、それでも6人にはその言葉の意味が理解できる。
『早く来い、待ってるぞ。』
嬉しそうに笑っている様子から、彼が心より家族の到着を待ち望んでいることが分かった。
それだけ言うと、彼はニヤッと笑って触手の塔の入り口から中に入って行く。
「これは・・・」
アインの手にするクリスタルから、方向を指し示すように微かな光が放たれていた。
それは、まっすぐに入口の方をさしている。
ヌルが姿を消すと同時に、辺りの触手が一斉に蠢き始めた。
今にも襲いかからんとする触手を、フィーアが氷の魔法で凍りつかせるが、塔のてっぺんが紅い光を放ったかと思うと触手たちが氷を砕いて再び動き始める。
「あそこに、何かがありやがるぜ。」
いつの間にか飛んできたズィーベンが、塔に向かってビームを放った。
しかし、それは触手で出来た壁によって防がれてしまう。
「きっと、さっきの光の部分が触手を操るのに重要な部分なのじゃろう。
あの入口には、このでかぶつは入りそうにないのう。
じゃから、わしらがあれをどうにかする。お主らは家族を迎えに行って来い。」
「ありがとう!おじいちゃん。」
「照れるのう。」
フィーアに笑顔で言われてグレイが嬉しそうに笑うと、アインがその肩をがしっと掴んだ。
「ありがとう、グレイおじいさん!」
「おう、がんばってこい!」
それに応えるように、グレイもアインの背を叩く。
「父さんと母さんも気をつけて。」
「フン・・・まあ、たまにはこういうのも悪くないかもしれないわね。」
「いつも綺麗だけどそんな風に言っている君はもっと綺麗だよジョセフィーヌ。
君のことは僕が守るから、一緒にがんばろうね。」
その隣では、クリストフとジョセフィーヌがそんな会話をしていた。
「触手に関しては私たちがどうにかするわ。
だから、あなたたちは、あなたたちのするべきことをしなさい。」
隣で愛を語るクリストフをじと目で見てから、ため息交じりにジョセフィーヌがそう言った。
「いってきます!!」
それに対して、アインが元気よく答える。
「ああ、気をつけて行って来るんじゃぞ。」
「じじい、これを受け取っておけ。」
「なんじゃこれは?」
「なあに、俺、特製のグレネードだ。」
「いいのう、こういう時にそういう特殊アイテムがあると、なんだかうまくいく気がするわい。」
にやり、と笑ったアハトに、グレイも似たような笑みを浮かべてそれを受け取る。
「わしらがアルケンガーを操縦してあの入口に突っ込む。そのタイミングでお主らはあの場所に乗り込むんじゃ。
お主らを降ろしたら、わしらはあの光の元に向かう。後は、お主らでがんばるんじゃぞ。じゃあ、準備はよいか!?」
『おー!』
全員が元気よく答えると、満足げに頷いたグレイがアルケンガーを急降下させた。
「昔取った杵柄じゃー!!」
「あなた錬金術師でしょう!?いったいなにやってたのよ・・・」
ノリで叫んだグレイに、ジョセフィーヌが珍しく突っ込みを入れる。
「いくぞい!!」
「ははは、彼は話を聞かないからね。」
さわやかな笑顔でそう言ったクリストフの隣で、アインが皆に叫んだ。
「ペダルを踏むタイミングを合わせるんだ!!」
「え!?ちょっとペダルとかないんだけど!?」
ドライがおろおろと辺りを見回すが、そういった物はないようだ。
もちろん、こちらも同じくノリで言ったのでペダルなどあるはずもない。
アルケンガーは絡みつく触手をその勢いで引きちぎりながら、入口に向かって突っ込んだ。
「行くぞ、みんな!!」
アインの掛け声と共に、アルケンガーの背から6人が飛び降りる。
アルケンガーの目が光り、グレイの声が聞こえてきた。
「みんな、頑張ってくるんじゃじょ!!」
「おじいちゃん噛んだー。」
「大事なところで噛んでるぞ。」
「うるさいわいっ!!」
今一つ決まらないままの見送りとなったが、そんなことを言っている間にも触手たちがアルケンガーに絡みつこうとする。
「今じゃ!!ちぇーんじアルケンガー!!」
飛竜の形をしていたアルケンガーが、グレイの掛け声と共に二足のロボットの形に変形する。
四方八方から襲いかかって来る触手を、アルケンガーの持つ剣が切り裂いた。
「早く行くんじゃー!」
「良いから、あなたたちは先に行きなさい!」
「ここは、僕たちに任せるんだ!」
3人の声が聞こえ、6人は中に向かって走り出した。
「おじいちゃんたち・・・!どうぞ、無事で!」
乗り込む瞬間に、一度振り向いたフィーアが祈るように呟き、皆の後を追った。