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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第5話 第3章『避難キャンプの英雄』 ⑤

次回で避難キャンプ編は終わり、研究施設に突入となります(`・ω・´)

「まさか、わしが毒を作る手伝いをすることになるとはのう。」


 アルケンガーの調整が終わった後、アハトの作る薬、もとい毒の最後の調整をするためにグレイが協力していた。

 まんざらでもない様子で、グレイは楽しそうにその過程を手伝っている。


「じいさんのおかげだぜ。

 じいさんが昔研究していた資料を使って、毒を作るのがはかどってしょうがない。」


「人生、何が役に立つか分からんもんじゃい。」


「まったくだな。」


「それで?お主はどうするんじゃ。」


「ああ、実はだな。これの他に特別なものを作ろうとしてるんだ。」


「ほほう。」


「というわけでじいさん、実験台になってくれ!!」


 にやりと笑ったアハトが、急にグレイを押さえつけて口に薬を流し込んだ。


「なにするんじゃー!?わしは昔の実験で、死にかけの身体だと言ってるじゃろうが!!

 ぷはー・・・まずい、もう1杯、じゃない!!」


「さて、じいさんどうだ。この薬を飲んでみて。」


「まずい、じゃが身体がぽかぽかしてきおったわい。お主、わしに何を飲ませたんじゃ?」


 無理やり飲まされた無色透明の液体は、これといってグレイに害をもたらしている様子はない。


「じいさん、今のをもう1杯飲みたいと思うか?」


「こいつがおまえらの幸せにつながるんなら、何杯だって持ってこい。」


「それじゃ違うんだ・・・」


「どっちじゃ!?」


 言いたいことが分からずグレイが混乱すると、アハトがため息交じりに言った。


「いや、単にこれをもう1回飲みたいと思うかどうかってことなんだが。」


「じゃからお主らの幸せにつながるなら持ってこいと・・・」


「それじゃ失敗だな。」


「どういうことじゃ。」


「つまりな、この薬に対して中毒性があるかどうかという・・・」


「お主はわしを薬漬けにしたいんかい!?」


「いや、これ自体は身体に良いものだから問題ない。」


「そ、そうなのか・・・?」


「ああ、これまで作っていた毒とは違うんでね。」


「お主が身体に良い物を作るとか、何か変なものでも食べたんじゃなかろうな?」


「いやいやいや。なにもおかしいことはない。調合にはグレネードを使っているからな。」


「それはそれでどうなんじゃ・・・まあいいわかった。

 完成するまで付き合ってやるからどんどんもってこい。」


「ああ、頼むぜじいさん。」


「わしが腹を壊す前に何とかするんじゃぞ。」


「大丈夫大丈夫。」


「やれやれ・・・ところで、わしがお主に尋ねたのはそういうことじゃない。」


「ん?」


 アハトが薬を調合している横で、グレイが改めて尋ねた。


「この事件が終わって皆幸せになったら、どうするんじゃということをわしは聞いておったんじゃ。」


「ああ、そうか・・・これが終わったらか。

 そうだなあ。まあ、あまり考えちゃいないが旅に出るのも面白いかもしれないな。」


「そうか、もちろんわしも連れて行くんじゃろう?」


「えー。」


「老い先短いんじゃから、家族と一緒にいさせろや!!」


 速攻で返された否定の返事に、グレイも思わず突っ込みを入れる。


「いや、子供たちも皆成長してきてるしな。旅に出るなら一人でと思っている。」


「一人でか?」


「ああ、でもまあそれも先の話だ。全部終わってからまた考えるさ。」


「そうか、それもそうじゃのう。」


「とりあえず、俺たちは目の前に今ある問題を片付けよう。」


「のう、アハト・・・わしは今幸せじゃぞ。」


「そうか、じいさんは幸せか。」


「ああ。」


 顔をしわくちゃにして笑っているグレイを見て、アハトは不意に胸の賢者の石のかけらに触れた。


「きっと孫娘も喜んでいることだろうよ、じいさんが幸せなら。」


「・・・あの子がわしを許してくれていればじゃがな。」


「許してくれていると思うぞ。」


 それに対してグレイは肯定も否定もせず、曖昧な表情を浮かべていた。




「アハト、いる?」


「ああ、いるぞい。」


「・・・口調が移ってるわよ。」


「おっといけない、じいさんがさっきまで一緒にいたからな。」


 ソフィがアハトを訪ねた頃、毒が完成したのかグレイの姿はそこにはなかった。

 2人が協力して毒を作っていたとは思わないソフィは、少し不思議そうにするもののそれに関してはそれ以上は突っ込みを入れずに真剣な表情で切り出した。


「少し、いいかしら?」


「ああ。」


「その、ちょっと話があって・・・」


「どうした?何か不安なことでもあるのか。」


 珍しく歯切れの悪い様子のソフィに、アハトは茶化すことなく尋ねる。


「ええ、さっき下を見たじゃない?」


「ああ、それがどうかしたか?」


 アハトにはそれがアルケンガーからマリージアを見下ろした時のことを言っているのはすぐに分かったが、それがどうしたというのだろうか?


「あれを見て少し考えちゃったの・・・私たち、ヌルに会って失わないで帰ってきたことってないわよね。」


「どうだろうな?失った分、何かを得て帰ってきた。だからこそ俺たちは今、ここに立っているんだと思うぞ。」


 それに対して、今までにないほど真面目にアハトは答える。


「それでも・・・たとえ何かを得たとしても、これ以上何かが無くなるのを見るのは怖いわ。」


「はあ・・・ソフィ、いまさら何をいったい怖気づいているんだ?」


 ソフィが何を心配しているのかが分からず、アハトがあきれたように尋ねた。


「何かしようとしてるわよね?無茶なこと。」


 そんなアハトをじっと見つめながら、ソフィが口を開く。


「え。いやまったくなにも。」


 誰の目から見ても分かるほど、白々しい返事が返ってきた。


「また一人で無茶していなくなるのは嫌よ・・・」


「いや別になあ・・・わかったわかった。皆、一緒に帰ることを約束しようじゃないか。」


 苦笑交じりに軽く答えたその返答に、ソフィはまだ疑いをぬぐいきれないようだ。


「ほんとね?無茶してまた変なことしようとしたら、意地でも連れて帰るから。」


「ああ、それは頼むよ。

 しかし、難だな・・・立場上保護者に当たる俺たちが、まったく無茶しないっていうのも無理な話ではあるぞ。」


 アハトにも、年長者としての自覚ぐらいはある。

 もし仮に子供たちに何かあった時に、真っ先に無茶をしていいのは自分だという自負も。


「そうね、そうだけれど・・・それで、あの子たちの前から消えるのは違うと思うの。」


 ソフィの言うとおり、何かあれば皆が悲しむのは間違いない。


「だからソフィ、おまえがあの子たちを、皆が帰れるように引っ張っていってやってくれ。」


「あなたもよ。皆で帰るの。」


 アハトお得意の微妙な言い回しが、付き合いの長いソフィに通じるはずもない。

 目の前に立ったソフィは、下からアハトを睨みつける。


「あなたも、皆のうちの一人なんだからね?」


「・・・そうだな、それはわかっているつもりだ。」


 ソフィをまっすぐ見つめながら、アハトは頷いてみせた。

 わかっている、それでもいざという時は自分が犠牲になるという思いを捨てきることはできない。

 そんなアハトの思いを正確に察したソフィは、少しむっとしたような表情でつめよる。


「あんたの言う皆には自分が含まれていない。だから心配なのよ・・・前歴があるでしょうが、2回も。」


「おっと、そいつは言わねえお約束だぜ。」


「ふざけないで!!」


 場を和ますためなのかどうかはわからないが、おちゃらけた態度を取るアハトにさすがのソフィも怒りをあらわにする。


「・・・そうだな、俺も踏まえてみんなで一緒に帰るとするか。」


 ソフィがどれだけ真剣かをさすがに察したのか、アハトは今度こそおとなしくそう答えた。


「お願いね。あと・・・ここまで言っておいて難なんだけど。私もそういう時になったら、多分無茶すると思う。」


「そうだろうな、わかってる。」


 アハトの次に無茶をする人物がいるとしたら、それはソフィだろう。

 これまではアハトが先に何かをやらかしていたため、ソフィはそれのフォローに精一杯で自分が無茶をする方向にはいかなかった。

 だが、今回はそうも言っていられないかもしれない。

 アハト一人が無茶をしたところで、どれだけの被害を防げるのか。

 それが叶わなかった時、次にそれをするのはソフィだということは、アハトもそしてソフィ自身もよく分かっていた。


「その時は、あんたが私を引っ張って。」


「ああ、了解だ。もちろん任せろ。」


「こういうの、やっぱりアハトにしか頼めないから。」


 他の誰にも頼むことのできないその願いを、ソフィはアハトに託していた。


「まあ、何といってもその・・・腐れ縁だからな。」


 それに対して、アハトは若干目線をそらして指先で頬をかきながら答える。


「・・・そうね。ありがとう。」


 その微妙なニュアンスには気づかずに言葉通りに受け取ったソフィは、自分でも気付かない程度の自嘲の笑みを浮かべてアハトから距離を取る。


「じゃあ、この後は何が何でも皆と一緒に帰ろうか。」


「ええ、帰るために行きましょうか。」


 いつも通りの関係に戻った2人は、これから決戦の場所――マリージアに視線を送った。


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