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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第5話 第3章『避難キャンプの英雄』 ④

久しぶりに雨が止みました~(*´∀`)♪

「そんな・・・!?それじゃあ、フィーアは・・・」


「ああ、言わなかったのは、お前を心配させたくなかったんだろうな。」


「フィーア・・・」


 アハトに呼び出された際にツヴァイが聞かされたのは、アルケンガーの調整の話などではなく、自分を救うために彼女が例の紋章術を使ったことについてだった。


「本当はこういうのを伝えるのは、俺じゃなくてソフィかドライの仕事だと思うんだが・・・」


「ああ・・・ソフィは僕には隠すだろうし、ドライは僕を甘やかさないだろうからね。」


 ソフィが自分にそれを伝えなかった理由は分かる。

 彼女の性格からすると自分ではなく、フィーアと直接話すことを選ぶだろう。

 自分に話すことで心配をかけたくないという優しさから。

 今回ばかりは、その気回しはやめてほしかったが。


 そして・・・


「そうだな。ドライはおまえにフィーアを任せるつもりになってきているようだ。

 その辺はもう、甘やかさないだろうな。」


 そう、おそらくなのだが、ドライはフィーアのことを少しずつだが自分に任せる気になってくれているらしい。

 ならば、今回のことも自分で気づくべきというのが彼女の持論なのだろう。

 そればかりは、ツヴァイも文句を言うことは出来なかった。


「ありがとう、アハト・・・ごめん、気づけなかった。

 よく考えればそうだ、あの時、僕は確かにヌルの触手に右胸を貫かれた。

 生きているはずがなかったのに・・・」


 元からなのか、そういう風に創られたのかはわからないが、ツヴァイの心臓は右寄りにあり、そこには賢者の石がある。

 その場所を、ヌルの触手は正確に貫いた。

 賢者の石自体があの触手で傷ついたとは思えないが、間違いなく自分は心臓を潰されたのだ。


「ああ、死んだおまえを生き返らせるだけの術に、代償がないとは俺には思えないからな。

 自分らしくもないおせっかいだとは思ったが、当人たちだけで解決しろというには荷が重い。

 俺たちに出来ることがあるなら力を貸すから、まずはお前がフィーアに確認してくれ。

 俺やソフィが聞いたところで、あの子は大丈夫の一点張りだろうからな。」


「そうだね・・・僕が聞いてもおそらく誤魔化すだろうけど、アハトやソフィよりは彼女のことが分かっているはずだから。」


「さて、あちらも話が終わったようだ。お前も向こうに行ってこい。」


「ああ、ありがとう。」


「おーい!ソフィ、おまえも協力してくれ!」


 ツヴァイの返事を確認してから、アハトはソフィを呼び寄せた。




「おかえりなさい、蒼ちゃん!」


 戻ってきたツヴァイに、フィーアはぬいぐるみのそうちゃんの手を持って振りながら言った。


「ただいま。」


「アルケンガーは大丈夫なの~?」


「ああ、その件はもう片付いたよ。」


 もともとアルケンガーの整備はグレイとクリストフが行っているようだった。

 アハトは初めから、フィーアのことを伝えるためだけに自分を呼び出してくれたのだ。


「フィーア、ちょっと真剣な話があるから、場所を変えてもいいかな?」


「え?う、うん・・・」


 戸惑うフィーアの手を引くと、ツヴァイは人気のないほうに移動する。

 2人きりの状況でなければ、フィーアは何とか誤魔化し切ろうとするはずだから。


「蒼ちゃん?いったいどうしたの?」


 避難キャンプから少し離れた森の中で、ツヴァイは立ち止った。

 フィーアは不思議そうに首を傾げている。


「・・・ごめんね、フィーア。」


「え?」


「僕を助けるために、紋章術を使ったんだって?」


「あ、あう・・・」


 その言葉に、フィーアは困ったように視線をさまよわせた。


「目を覚ましたその時に気付くべきだった。君はあんなに体調が悪そうだったのに・・・」


 いつもよりも顔色が悪い、あの時はその程度にしか思えなかった。

 情けないことに、自分が一度死んだことすら理解していなかった。

 彼女が命を削るような行動をしていたことに、気づくことが出来なかった。


「あの紋章術はとても危険なものだ。

 多くのものを代償に、賢者の石の宿主を無理やりに生き返らせる。

 そしてその代償は・・・術者自身も含まれている。」


「えっとね、あそこにはヌルがいたから、分体だったけれど蒼ちゃんの命を取り戻すには十分なくらいの・・・」


「フィーア・・・紅音。」


「蒼ちゃん・・・?」


 抱き寄せると、フィーアは困ったような声でされるがままになっている。


「ごめん・・・きっと君は、今とてもつらい状態なはずだ。」


「あ、あの・・・」


「精神を自分で引き裂くなんて、通常なら考えられないようなことを君は自分にした。

 ヌルから逃げるために・・・僕を一人にしないようにって、一生懸命考えてくれた結果だったんだろう。

 でも、それはきっと、魂を引き裂くのと同じようなことだ。」


「・・・・・・」


「紅音は元から強い精神力と魔力を持っていた。

 そのほとんどを、きっと彼女は君に託したはずだ。

 けれど、今回の紋章術で君の中に残っている力はおそらく、普通の人・・・いや、それ以下になってしまったはず。」


 自分が倒れた後、アルバートの機転によって皆は逃れたが、彼は孤島ごとヌルに飲み込まれてしまったと聞かされた。

 つまり、それはあの紋章術でヌルの力を奪いきれなかったと言うことだ。

 それなのに、自分は生き返ってしまった。

 足りなかった分を紋章術がどこから補ったのか・・・考えるまでもないことだ。


「これ以上、君に紋章術は使わせられない。」


「それはダメ・・・私、蒼ちゃんを助けるためにここにいるんだから。」


「それを言うなら、僕は君を守るためにいるんだ。

 何の存在意義もなくそこに在っただけの僕に、君はいろいろなものを与えてくれた。

 それこそ数えきれないくらいに、たくさんのモノを。

 君は僕の生きる意味そのものだ。君にもしものことがあったら、僕は生きてる意味なんてない。」


「蒼ちゃん・・・」


 その言葉に、フィーアは悲しそうに目を細めた後、それでも笑顔を作って。


「私は死なないよ。だって、やっと皆で幸せになれるんだもの。

 蒼ちゃんの身体を治して、紅牙おにいちゃんもアルバートおじちゃんも助けて。

 全部終わったら、皆で幸せに暮らすの。

 いろいろな場所に行って、いろんな楽しいこと一緒にするの。」


 それは、幼いころからのフィーアの夢だ。

 アルスマグナから離脱し、皆と本当の家族のように過ごすこと。

 辛い実験も、家族が少しずつ実験体にされて消えていく悲しみもない、普通の生活。


「なら、絶対に無茶はしないって約束して?

 おそらく、紅音を取り戻せばフィーアの負担は軽減されるはずだ。

 それまでは、絶対に紋章術は使っちゃいけない。」


 ツヴァイの予想では、紅音はある程度の力を残してヌルの中に捕らわれている。

 そうでなければ、ヌルが眠っている間に出てくることなどできるはずがない。

 あれ以降、彼女は一度も姿を現さないが、大丈夫・・・約束した通り、自分のことを待っているはずだ。


「うん・・・わかった。なら、蒼ちゃんも約束してね?」


「ん?」


「私と紅音を助けるために、無茶をしてもいいけど、絶対に死なないでね。」


「もちろんだよ。もう2度と死んだりしない。約束する。」


 自分が死ぬということ、それは今度こそフィーアを、紅音を失うことに他ならないから。

 決意を顕わに頷くツヴァイを見て、フィーアはにこっと笑う。

 

 そして・・・


「・・・!?」


 不意に、ツヴァイの頬に柔らかい感触が押し付けられた。


「約束、だから。」


 そう言うと、ツヴァイが驚いている間にフィーアは小走りで避難キャンプの方へ走って行ってしまった。


「絶対に、守ってみせる。」


 まだ感触の残る頬に触れながら、ツヴァイは誓うように言葉を口にした。 


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