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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第5話 第3章『避難キャンプの英雄』 ③

台風近づいてますね~(´・ω・`)

「ねえ、フィーア。ちょっといいかしら?」


 ツヴァイがアルケンガーの調整でアハトに声をかけられた隙に、ソフィはフィーアに話しかけた。


「なあに?ソフィ。」


「あら、そうちゃんを綺麗にしていたの?」


「うん!最近、戦い続きでメンテナンスしてあげられていなかったから。」


 汚れてあちこちがほつれてしまっているぬいぐるみのそうちゃんを、フィーアは丁寧に縫ってあげているところのようだ。


「そうちゃんは大事なものだものね。」


「うん、それに・・・今はみんなのおうちがある場所だから。」


 どういった原理なのかソフィにもいまだにわからないが、そうちゃんの中には草原と家があり、子供たちが暮らしている。

 今まで以上に、フィーアにとってそうちゃんは大切なものとなっているのだろう。


「それで・・・どうしたの?」


 縫い終わった後、糸を切ってからフィーアはソフィに問いかける。


「ええ、その・・・体調はどうなのかな?って思って。」


 率直に問いかけると、フィーアは意識していないのだろうが、一瞬だけ目を逸らしてからこう答えた。


「大丈夫。すごく元気だよ!」


 その言葉に、ソフィはほんの少し、眉をしかめる。


「そう・・・あなた、あの孤島で例の紋章術を使ったでしょう?

 ドライが教えてくれたんだけど、あれはとても身体に負担がかかるものだって・・・」


「えっと・・・ほら、私があの記憶の中で紋章術を使ったのは、まだ子どもの頃だったでしょう?

 それに、あの時は自分で制御できていなかったし。」


 フィーアの言う通り、アインが死んでしまった過去で紋章術が発動したときは、子どもの頃だったためかほとんど暴走状態で術式が発動してしまっていた。

 それと比べれば、今回はフィーアは自分の意志で紋章術を使っているようには見えたのだが。


「でも、あなたが紋章術を使ったのって、あの1回とこの旅をするようになってからよね?

 それに、あのクラスの紋章術を使ったのはさすがに今回が2回目だったんじゃない?」


 ソフィが知る限りでは、フィーアがあの紋章術・・・いや、紋章術を使っていること自体がこの旅を始めてからの数回だ。

 子どもの頃と違うとは言うが、紋章術に慣れるほど使っていたとは思えない。


「えっと・・・ね。」


 すると、フィーアは視線を一度ソフィの後ろに向けた。

 ちらっと振り向くと、そちらではまだツヴァイがアハトと何かを話している。


「あの・・・心配するといけないから、蒼ちゃんには内緒ね?

 私、皆の前で使ったことがなかっただけで、紋章術を使っていたと思う。」


「え・・・?」


「日々の実験で、使っていたはずなの。」


「フィーア、あなた、記憶が・・・?」


 この旅を始めてから少しずつ・・・いや、例の始まりの村に行ってから特に顕著に、フィーアの子供っぽさが治っていったとは思っていたのだが。


「まだ、全部は思い出せていない。どのくらい思い出せているのかもわからない。

 でも、私は・・・たぶん、紋章術を日常的に使っていた。」


「そう・・・なの?」


「うん、だから心配しないで。紋章術はきっと、無理さえしなければ大丈夫。」


 ソフィには紋章術のことは何もわからない。

 ただ、あれには賢者の石並みとは言わないまでも、多くの奇跡を起こすことのできる力がある。

 それだけの力を使って、術者に代償がないなどということがあるだろうか?

 何より、その奇跡を行おうとした代償に、グレイはかつて生きているのが不思議なくらいの状況になったと言っていた。

 グレイが当時、術を失敗したということを差し置いても、やはり紋章術が術者にもたらす危険性は明らかだ。


「あの、私ね・・・子どもの頃に紋章術を心臓に刻まれているの。」


「え!?」


「だから、おじいちゃんみたいに身体に負担がかかることが少ないんだと思う。

 魔法と組み合わせて使うことも出来るし、この前みたいに周りにああやって代償となる存在があれば、

 私自身の負担はそこまでじゃないみたい。」


「この前は・・・ヌルを生贄にしたってことなの?」


「うん。分体って言っていたけれど、ちゃんと生き物の身体が使われていたみたいだから。」


「なるほど・・・」


 フィーアの目をまっすぐに見つめると、彼女はにこっと笑った。


「心配かけてごめんなさい。でも、私はまだ、倒れるつもりはないから。」


「フィーア・・・」


「ヌルのこと・・・ううん、紅牙おにいちゃんのことで今、皆は手いっぱいだと思う。

 でもね、蒼ちゃん、まだ無理しているから。」


「・・・そうよね。普通に生活できるレベルに落ち着かせているだけで、ツヴァイの心臓にはいまだに賢者の石による負担がかかっている。

 本当にツヴァイを助けるためには、今のままではダメなんですものね。」


 ツヴァイを助けると言う目標を忘れたわけではない。

 しかし、今は皆、目先の目標である紅牙を助けることに集中してしまっている。


「ん、だから、私はまだ倒れたりしない。

 蒼ちゃんを助けるまでは、絶対に負けないから。」


「そう・・・辛かったり、助けてほしいときはいつでも私たちに言うのよ?

 頼りないかもしれないけれど、どうしたらいいか一緒に考えるから。」


 皆のように特別な力を持たないソフィにとって、力になると断言できないところが歯がゆい。


「ソフィ、ありがとう。その・・・ソフィは大丈夫なの?」


「え?」


「私、ソフィの今の状況についてそこまでわかっていないんだけど。

 前にヌルに会った時に、私と同じようにすごく怖がっていたから。」


 フィーアのその質問に、ソフィは優しく笑ってこう答えた。


「大丈夫、今はもう怖くなんてないわ。

 あの時は得体のしれないものに遭遇したことで、本能的にびびっちゃったのね。

 でも、今はあれがヌル・・・いいえ、紅牙さんっていう、あなたたちのお兄ちゃんだってことが分かっている。

 つまり、彼は私にとっても家族ってことよね。

 だから、もう怖くなんてない・・・皆で、彼を迎えに行きましょう。

 そして、もう一人のあなたも取り戻して、ツヴァイを助ける。

 それが私たち家族が、目指すべき場所のはずだわ。」


「うん・・・」


 もう一人のあなたを取り戻して、その言葉の時に、ほんの少しだけフィーアが表情を曇らせたように見えた。


「フィーア・・・?」


「あの、なんでもないの。

 蒼ちゃんを助けて、紅牙お兄ちゃんも助けて、一緒に帰ろうね!」


「そうね。みんなで一緒に帰りましょう。」


「おーい!ソフィ、おまえも協力してくれ!」


 2人が頷きあったところで、アハトがソフィに声をかけた。


「今行くからちょっと待っててー!」


 大きな声で返事をしてから、ソフィは立ち上がる。


「体調の良い悪いうんぬんはもう聞かない。

 今のあなたには、どうしても果たさなければならない大切なことがあるんですものね。

 だからせめて、少しでも体を休めておきなさい。

 アルケンガーの調整が終わり次第、出発になると思うから。」


「はーい!」


 いつものように屈託のない笑顔で答えるフィーアを見てから、ソフィはアハトのもとに走った。

 

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