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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第5話 第3章『避難キャンプの英雄』 ①

今週はここまでとなります(*‘ω‘ *)

 日の出と共に出発した一行は、これといった事件には巻き込まれることなくマリージアまでたどり着いた。

 あえて言うならば、下の大地を何かが這いずった跡が残っており、途中にあったであろう小さな村がいくつか飲み込まれていたが。


「なるほど、これを辿っていけばよさそうだな。」


 特に何の感慨もなくつぶやいたアハトの言葉に、ソフィが同意した。


「そうね、分かりやすくて助かるわ。」


 ヌルが通過したことによって、多くの命が奪われた。

 もし一行が『正義の味方』であったなら、何か感じるところもあったのだろう。

 だが、アイン以外はあくまでも犯罪組織の一員であり、大切なものはあくまでも家族だ。

 残念ながら、それらに対して憤りを感じることができるほど世間慣れしていない。

 その後を追って行くと、予想通りマリージアに続いていた。


「これは・・・」


 上空から見えたのは、マリージアの街がヌルの触手に浸食されている光景だった。

 白い枝のようなものが絡み合い、まるで木の根が張るように街全体を覆い尽くしている。

 中央にあったアルスマグナの施設は完全に飲み込まれ、触手で出来た塔がそびえ立っていた。

 上空から眺めると、触手が常に蠢き辺りにある物を少しずつ侵食していることが見て取れる。

 分厚い雲に覆われた白い空と相まって、まるでそこだけ別世界の様だ。

 その光景に誰もが息をのんでいた時だった。


「おっと、いけねえ。」


 アハトがぽろっと何かを落とした。

 それは遥か下にある触手の一部目がけて落ちて行くと、予想通り爆発する。


「ちょっとお!?」


「おうふ!今ので気づかれたんじゃないかな!?」


「この馬鹿っ!!」


 ドライとアインが慌てたように言い、ソフィがアハトの後頭部をはたく。


 すると・・・


「触手が溶けていく・・・?」


 ツヴァイが呟いた通り、触手がジューっという焼けるような音と共に溶けていく。


「いったい何をやったんだい、アハト?」


「さてなあ。」


「とにかく、一度逃げましょう?これじゃあ気付かれるのは時間の問題だわ。」


 いくら上空からとはいえ、攻撃された触手がいつまでもこちらに気付かないはずもない。

 どこか、一時的に避難できる場所を探さなくてはならない。

 そんな時だ。


「あ、あそこに煙が見えるよ!」


 アインが少し離れた場所にある高台を指さした。


「ほほう、どうやら人がいるようだな。」


 切り立った崖の上に、人工的な煙の上がる様子が見て取れる。


「とりあえず、あそこに行ってみましょう。」


 機竜の姿で羽ばたくアルケンガーの隣に、白い鳩が並走した。


「ユウ!」


 フィーアが嬉しそうに声をかけると、ズィーベンはブーンという不思議な羽音と共にこう告げた。


「あそこからは、チンケな人間どもの匂いがするぜ。」


「教えてくれてありがとうー!」


 言っている内容はともかく、あそこに人間がいるのは間違いないようだ。

 岩壁に囲まれた小さな隠れ家、そこにはマリージアから逃げてきた人々の避難キャンプがあった。


「どうやらこの場所は、たまたまヌルの攻撃から逃れたみたいだね。」


「おそらく、俺たちが向かった方向とは逆にあったから、見向きもされなかっただけだろうな。」


「え・・・私たち来ちゃった。」


 おろおろとフィーアが言うと、ソフィからあっさりとした答えが返ってきた。


「でもまあ、補給はしなきゃいけないし。」


 どこの街に降りたとしても、どの道迷惑をかけることになる。

 だとすれば、どこで補給をしたところで同じだと言うのがソフィの持論だった。

 上空から突如降りてきた3体の機竜に、人々もさすがに驚きを隠せないようだ。


「見ろ、人がごみのように集まってきたぜ。」


「ユウ・・・あんたって子は・・・」


 最初にズィーベンを一行に引き入れるきっかけを作ったソフィとしては、日に日に本性を現して行くその姿に頭痛を覚えずにはいられない。


「何者だ!?」


 あっという間に、一行は兵士たちに囲まれてしまった。


「は!皆待て・・・!あの人は俺に、アフロを授けてくれた人かもしれない!!」


 警戒の色を隠せない人々に紛れて、一人の青年が前に出てきた。

 それは、例のアフロの兵士だった。


「おお、アフロの勇者さすがだ!街の人々を守り抜いたんだね?」


 アインが声をかけると、アフロの青年はこちらに駆け寄ってきた。


「この感覚・・・間違いない!同じ(アフロ)を大切にする者として俺と彼は心が通じているんだ。」


「その通りだアフロの勇者!!僕たちの心はつながっている。」


 その様子を見た他の兵士と街の人たちは、少しずつ落ち着きを取り戻してく。


「そ、そうか・・・あの人が言うんだったら大丈夫だ。」


「ああ、アフロさんは俺たちの命を救ってくれた人だからな!」


 どうやら、アフロの青年はマリージアの人々が避難する際に多大な貢献をしたようだ。

 青年が言うのならば大丈夫だという安心感が、人々に広がっていく。

 がしっとアインがアフロの青年に抱きつき、青年も応えるようにアインの背中を叩いた。


「君は大切なものを守り抜いたんだな・・・!!」


「俺は俺のできることをやっただけさ。」


 その様子を眺めながら、ドライが遠い目をして呟いた。


「なんかキャラが変わりすぎてる気がするんだけど。

 前に会った時は、通行料をよこせとか何とか言ってるだけの兵士だったのに。」


「人の成長っていうのは早いもんだな。」


「それで片づけていいの!?」


 感慨深げに言うアハトにとりあえず突っ込みを入れつつ、ドライが視線を戻すと。


「あんたたちも疲れただろう?こっちに休める場所がある。」


「や、やっぱり慣れないんだけど・・・」


 さわやかに言われて、余計に混乱してきた。


「男子3日会わざれば、刮目して見よってやつだね!!」


 アインがにこにこしながら言うのに対して、ツヴァイも笑顔で返す。


「うん、それにしても彼は変わりすぎだよね。」


「ああ・・・あの時の人だったんだ。全然分からなかったわ。」


 ソフィに至っては、今になってようやく彼が誰だったのか分かったらしい。


「あの時の人だったんだ~。私も全然分からなかった。ドライよくわかったね?」


 フィーアも同じ意見らしく、ぬいぐるみのそうちゃんを抱きしめながら言った。


「べ、別に・・・!犬が仲良くなった相手だから、覚えてたとかじゃないんだからね!?

 ・・・ちょっとフィーア!あんたなんで笑ってるのよいじめるわよ!!」


「あう!」


 ドライがプイっとそっぽを向きながら言うのに対して、フィーアはくすくすと笑っていたがほっぺをつねられそうになって慌ててツヴァイの後ろに隠れる。


「それで、どうしたんだ?

 俺たちは見ての通りだからあんたたちに提供してやれるものはあまりないが、それでも出来る範囲であんたらを支援するぜ。」


 避難キャンプの休憩所に案内しながら、アフロの青年がそんな風に言ってくれる。


「それはありがたいけれど、あなたたちの方が物資は足りないんじゃないの?」


「ああ・・・正直に言ってしまうと食料や薬なんかはだいぶ足りないな。

 あちこち手を尽くしてかき集めてはいるんだが。」


「そうか、じゃあこの野菜と薬を少しだけれど提供するよ。」


 アインは荷物を漁ると、わずかな野菜とポーションを取り出して青年に渡す。


「これは助かる、ありがとうな!!アフロの君。」


「ああ、困った時はお互い様だからね!」


 すると、青年は通りがかった小さな女の子を呼びとめて、アインが提供した野菜を手渡した。


「ほら嬢ちゃん、おまえのところは家族が多かっただろう?

 この人たちが分けてくれた野菜だ、持っていくといい。」


「わ~い!ありがとう、アフロの勇者さん!」


 ぺこっと頭を下げると、女の子は野菜を手に嬉しそうにかけていった。


「実際のところ、マリージアの人たちの被害はどうだったんだ?」


 避難キャンプの様子を眺めていたアハトが尋ねると、アフロの青年は表情を曇らせた。


「・・・俺も死力を尽くしたんだがかなりの人数が、あの触手みたいなやつに飲み込まれてしまった。

 俺自身もかなりの痛手を負って、正直アフロがなければ即死だった。」


「待って?なんで腹部を押さえているのにアフロが関係してるのよ。」


「剣やなんかもぼろぼろになっちまって、次アレに襲われたら正直危ないかもしれない。」


 ソフィの突っ込みを華麗にスルーした青年は、腰にさしてある剣を抜いた。

 歯こぼれしてしまった剣が、その戦いの壮絶さを物語っている。


「そうか・・・なら、友情の証としてぜひこの剣を受け取ってほしい。」


 いつの間にかアインの手には、装飾華美な剣が握られていた。

 それはいつだったか、ドラゴンに襲われていた村の領主軍のリーダーが持っていた剣だった。


「はっ!・・・こ、こいつは・・・?」


「僕たちには、やらなければならないことがある。だから、ここは君に守り抜いてほしい。」


 決意を込めた瞳で見つめたアインは大きく頷く。


「そうか・・・あんたたちは行くんだな?

 だったら、任せてくれ。これは俺が街の人々を守るために使う。

 このアフロにかけて俺は人々を守ってみせる!!」


「この剣は、かつて僕の友が使っていた剣だ。きっと、君を守ってくれるはずだ。」


「そうか、あんたの友だったんなら、よほどいい人だったんだろう。

 俺にはちょっと派手すぎるが、でもみんなを先導するにはいいかもしれないな。」


 その様子を見ていた他のメンバーは、ひそひそと話し合っていた。


「アイン、あの時の人とお友達だったの~?」


「ああ、友(笑)だな。」


「ええ、友(笑)ね。」


フィーアが不思議そうに尋ねるのに対してアハトとソフィが答える。


「ああ、おしい人を亡くしたね。」


そんな3人に、ツヴァイもさわやかな笑顔でそう言った。


「まあ、それはそうとあんたたちここにきたってことは、何か足りないものでもあるんだろう?

 食料はないが用意できるものだったら協力するぜ。

 きっと、俺はあんたたちに協力するためにここにいるんだ。」


「運命の導きか・・・」


「ああ、きっと俺たちが出会いアフロになった時から、それは決まっていたに違いない。」


「そうか、アフロになった瞬間に運命がねじ曲がってしまったんだな。」


 アハトの突っ込みを華麗にスルーして、青年は力強くこう言った。


「さあ、ここには鍛冶屋もいる。欲しいものがあったら言ってくれ。

 あんたたちは、俺たちの中ではヒーロー的な存在だ。

 何しろアフロがどれだけの命を救ったか分からないからな。」


「ありがたく、お言葉に甘えさせてもらうよ。」


 それに対してアインも力強く頷くことで答えた。


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