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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第5話 第2章『求めあう心』 ②

次回はマリージアに向かいます(`・ω・´)

「あれ?ドライ、一緒の部屋で寝るのかい?」


 部屋に戻ったアインが振り向くと、そこにはドライが立っていた。


「な、なによ。何か文句があるの!?」


 いつも通りの強気な口調で返してくるドライに、アインは困ったように笑った。


「ううん、そんなことはないんだけど、僕が一緒だとベッドが狭いんじゃないかと思って。」


 アインは身長が2メートル近くある。

 なので一人用のベッドでは、さすがにドライが狭いのではないかと心配したのだが。


「フン、そんなこと心配しなくていいのよ。

 だって、あんたは私の抱き枕なんだから問題ないわ。」


「おうふ!」


 抱き枕扱いされてショックを受けるアインだったが、ドライはお構いなしにベッドに潜り込んできた。


「・・・ちょっと、狭いわよ犬!!」


 その上、予想通りの展開で逆切れを始める。


「う、うん・・・だからさっきそう言って・・・」


「仕方ないから敷き毛布になりなさい!」


 そう言って起き上がったドライは、アインの上にちょこんと横になった。


「えっと・・・僕寝返り打つかもしれないから、そこは危ない気が。」


「何言ってんのよ。敷き毛布が寝返りなんて打っていいはずないじゃない。」


「おうふ・・・」


 いつも通りといえばいつも通りの展開に、アインは苦笑することしかできない。


「昔・・・」


「うん?」


「私が怖い夢を見た時に、こうやって寝たのって覚えてる?」


 言われると同時に、当時の記憶がよみがえってきた。

 子供の頃、こんな風に寄り添って眠っていたことがあった気がする。


「フィーアがツヴァイのところに行っちゃって一人で寝てた時、すごく怖い夢を見た。

 暗闇の中、一人ぼっちで泣いてる夢。」


 その時のことを思い出したのか、ドライが小さく身体を震わせる。

 そんなドライの髪を、アインは大きな手でそっと撫でた。


「そんな時、こうやって寝るとすごく安心したの。

 一人じゃないってそう思えたから。」


「・・・僕も、ドライと一緒に寝ていた時はすごく安心した気がするよ。」


 子供の頃、いつからか感じていた違和感と孤独感。

 ゆりかごの中から急に外に放り出されたような不安を抱いていた時期、こうやってドライが傍にいるだけで安心した。


「べ・・・別に、あんただから安心したとかそういうんじゃないから!

 犬!そう、ペットを抱っこして寝ると安心するでしょ!あれと一緒だから!!」


 大慌てで訂正するドライに、アインがふとこんなことを言った。


「僕は・・・ドライがいなくなった時さびしかったよ。」


「え・・・?」


 その言葉に、ドライがきょとんとしたようにアインを見つめる。


「ドライが向こうの組織に行ってしまった時、すごくさびしかった。

 そんな気がする・・・。」


 ある日のこと、ドライはいなくなってしまった。

 おそらくそれは彼女の中では急に決めたことではなく、ずっと前から考えていたことだったのだろう。

 けれど、アインにとってはそれは急以外の何物でもなかった。

 その時になぜかと尋ねた自分に彼女が答えた理由は。


『あんたたちと家族ごっこするのも飽きてきたから、私は向こうで自分の力を役立てることにするわ。』


 というものだった。


「し、仕方ないでしょう!?紅牙おにいちゃんを探すためだったんだから・・・」


「うん、今ならよく分かる。

 ドライが僕たちから離れる時に、同じように寂しいって思ってくれていたんだってこと。」


 今になってようやく理解した。

 視線を逸らしながらぶっきらぼうに言い放ったドライが、あの時、本当は泣きそうになっていたこと。

 当時の自分は、子供すぎて分からなかったが。


「だからもう、ドライにさびしい思いはさせないよ。」


「アイン・・・」


 その体温を感じるように、ドライはそっとアインに抱きついた。


「紅牙兄さんとアルバートおじさんを取り戻して、今度こそ、ずっと一緒にいられる家族を作るんだ。」


「・・・そうね。そのためにも、私たちはいっぱい頑張らないとね。

 なにしろ、今は私たちが皆のお兄ちゃんとお姉ちゃんなんだから。」


「そうだね!頑張るよ。

 兄さんに見てもらいたいんだ。

 兄さんがいないときは、僕が皆を守るって誓った約束をちゃんと果たすところを。」


 あの時交わした約束を、今度こそ自分は守って見せる。


「じゃあ、私はその手伝いをしてあげる。」


「おーう!ありがとう!」


 いつも通りのアインを見て安心したのか、ドライはいつのまにか小さな寝息を立て始めた。

 それにつられるように、アインもまた眠りの世界に落ちていった。




 夜明け頃、ソフィはアハトの部屋を訪ねた。

 明日のために寝てはみたものの、ぐっすりというわけにはいかずに目が覚めてしまったのだ。


「アハト・・・起きてる?」


 部屋の明かりはついているのだが、ノックに対しての返事はない。

 ドアノブをまわしてみると、鍵はかかっていなかった。

 中に入ると、アハトが錬金術の実験用の机に突っ伏して眠っている。

 その周りには、いくつもの透明な液体の入った瓶が置かれていた。

 きっと、彼も眠ることが出来ずにずっと何かをしていたのだろう。


「まったくもう・・・」


 人のことを言えた義理ではないが、アハトのいつも通りの無茶にため息をついてしまう。

 部屋のドアを閉めて中に入ると、毛布を取って突っ伏しているアハトの肩から掛けてやる。

 しばらくの間、ソフィはベッドに腰掛けてその寝顔を眺めていた。


「涎なんかたらしちゃって・・・気持ちよさそうに寝てるわね。」


 昼間、惰眠をむさぼっているように見えるアハトだが、もしかすると彼は夜眠っていないのではないか?

 そんな風に思い始めたのは、薬をもらうようになってからだ。

 いつ、どんなに遅い時間に尋ねてもアハトはが眠っていたことは無かった。

 そして。


『どうした?ソフィ。』


 と、真っ先に何があったかを尋ねてくれる。

 あの始まりの村で、2人だけで会話した時にアハトは言っていた。


『俺が・・・俺たちが間に合わなかったことから全ては始まってしまった。

 あの時、間に合っていればと悔やんでいるという点では、どこかのマッドアルケミストと俺は同じ穴のむじなってやつだな。』


 どこか遠い目をしながら、自嘲気味な笑みを浮かべていたアハト。

 そんな彼はもしかしたらこれまでずっと、夜も眠らずに実験を続けていたのだろうか?

 眠る時間さえも惜しんで、今度こそ、間に合うようにと。


「・・・普段ふざけているのも、そういう真面目なところを隠すためなのかしらね。」


 子供たちに心配をかけないように、子供たちを元気づけるためにとアルバートが悪役を演じていたように、アハトもまた不真面目な姿を演じることによって本来の姿を隠していた。

 それはあるいは、ソフィの考えすぎなのかもしれないが。


「むむ・・・これは、青酸カリ・・・」


「・・・起きた瞬間にそれってどうなのよ!?」


 むくっと起き上がったアハトが、目の前の瓶を掴んで寝ぼけ眼でそう言ったのに対してソフィがいつも通りの突っ込みを入れた。


「青酸カリって猛毒でしょ!?なんでその瓶見ながらそのセリフが出てくるのよ!!」


 アハトの周りに並べられている薬は、どう見てもソフィがもらっている物と酷似している。


「おお、この毛布は・・・すまんなソフィ、ありがとうな。」


 肩からかけてある毛布に気付いたのか、アハトは部屋を見渡してベッドに座っているソフィを見つけると礼を述べた。


「別に、どうってことじゃないでしょう。」


 ソフィを見つけるよりも先に、アハトにはその毛布が誰がかけたものなのか分かっていたらしい。

 なんとなく照れくさくなって、ソフィはぶっきらぼうに答えるとこう問いかける。


「それより、ちゃんと寝たの?」


「ああ、しっかり寝た。」


「そういうことにしておきましょうか。」


 さらっと答えたその言葉が嘘なのはみれば分かるが、これ以上問い詰めたところでアハトが答えるとは思えない。


「それで、ちょっとチェックしてもらいたいことがあるんだけど。」


「なんだ?」


「綺麗な試験管をくれる?」


「これでいいか?」


 腰のベルトに常備されている錬金術用の小さな試験管を外すと、アハトはそれをソフィに差し出した。

 ソフィはそれを受け取ると、ナイフを取り出して自分の手首をスッと切ってみせる。


「何をやってるんだ!?」


「必要なことだから。別に死ぬわけじゃないんだからそんなに騒がないでよ。

 それと、皆が起きちゃうから静かに。」


 さすがに驚いて止めようとするアハトに対して、ソフィは冷静に答える。

 流れた血を数滴試験管の中に垂らすと、それをアハトにずいっと突きつける。


「薬は作ってもらったけど、薬っていうのはだんだん効かなくなるものなんでしょう?

 いつまで私の身体がヌルに対抗できるか分からないから。

 ヌルの因子が薬に対して抗体を作っているかもしれない。

 万が一ってこともあるから、調べてもらおうと思って。」


「いや、大丈夫だ。

 例の物はおまえの身体にずっと効くだろうよ。

 でもまあ、せっかくだからその血は頂いておこう。」


「ほんとに?」


「ああ、それは間違いない。

 何しろ渡したのは薬じゃないからな。

 ヌルの因子に対して抗体を作っているのはおまえのほ・・・おっと、口が滑った。」


「ちょっと?!それどういうことよ!!」


「いやあ、それは俺の口からは言えねえなあ。」


「あんたの口以外、誰の口から聞けばいいのよ!?」


 あんまりな発言に、大きな声を出すなと言っていた当人であるソフィの方が大きな声でたずねてしまう。


「ああ、大丈夫だ大丈夫。その薬はよく効くからな。」


「抗体を作る薬って何なのよ・・・」


「大丈夫、効果は抜群だ!!」


「・・・はあ、まあ、ヌルが暴れなきゃそれでいいか。

 理由は聞いても教えてくれなさそうだし。」


「単純な話だ。薬っていうのは毒にもなりえるってことさ。」


「はいはい・・・薬じゃなくて毒だって言いたいのね。まあどっちでもいいんだけど。」


 ソフィからしてみれば、それが毒であろうが薬であろうが効果さえあればいいのだ。


「それを聞いてちょっとだけ安心したわ。

 もしこれが薬でヌルが抗体を作っちゃったとしたら・・・私はまた、あんたや皆を刺すかもしれないし。」


「大丈夫だ、そんなことはさせないさ。

 それにあえて言っておくが、俺が生半可な毒なんて作るわけないじゃないか。

 ・・・おっといけねえ、薬だった。」


「毒って言った!今はっきりと毒って・・・!?ま、まあいっか。信用してるわ。

 とりあえずもう少し寝ておきなさい。時間になったら起こしてあげるから。」


「ああ、それじゃあすまないが、もう少し眠らせてもらおう。」


 毛布をそのまま持って、アハトは今度こそベッドに突っ伏した。


「おやすみ、アハト。」


 その様子を確認すると、ソフィはアハトに毛布をかけ直してから椅子に腰かけた。

 

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