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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第5話 第2章『求めあう心』 ①

女顔だけど蒼ちゃんも男の子なんです(ノ´∀`*)


「皆、聞いてほしいことがあるんだ。」


 和やかな雰囲気の中、ツヴァイが真剣な表情で切り出した。


「なあに?蒼ちゃん。」


「うん、僕がヌルの触手に刺された時なんだけど・・・」


「あう・・・」


「ごめんね?フィーア、大丈夫だよ。」


 しょんぼりとするフィーアの髪をそっと撫でてから、ツヴァイは言葉を続ける。


「その時に感じたんだ。

 あの時、僕はヌルの本体・・・つまり、賢者の石を探していたんだけれど、見つからなかった。

 それで、違和感を覚えていたんだけど、あれはきっとヌルの分体であって本体じゃない。」


「なるほどな。」


 何か思い当たることがあったのか、真っ先にアハトが頷いた。


「たぶんヌルは相当量の生き物を取り込んで、体積が恐ろしく大きくなってるんだと思う。

 だから、ああいった分体を分けて行動はできるけれど、本体はそう簡単には移動できないんじゃないかな?」


「あれで分体だって言うんだったら、本体はかなりの大きさ・・・可能性は高いわね。」


「僕たちが彼をどうにかしたいと思うんだったら、本体のところに行かなくちゃならない。

 その場所についてはすぐには分からないけれど、予想するならばマリージアの施設のどこかなんだろう。

 きっとその近くに行けば、アルバートさんの残したそのクリスタルが反応するはず。」


「そうだね!アルバートおじさんが僕たちに託してくれたこれが、導いてくれるに違いない!!」


「そうよ!おじちゃんが残してくれたそれが、私たちにはあるわ!」


 アインがクリスタルをかざすと、隣になったドライも同じポーズで空に右手をかざす。


「だから、僕はマリージアに行くのが良いと思うんだけど、皆はどう思う?」


「私は賛成よ。あれがヌルの本体でない以上、一度、元の場所に戻って捜索をするのは正しいと思うわ。

 それに・・・あそこから動いていない可能性は、ツヴァイの言ったとおり高いと思う。」


 ソフィが頷き、他のメンバーを見渡す。


「そうだな、おそらくヌルはあの場所から動いていないだろうな。」


 アハトもそれを見て、賛同するように言った。


「兄さん・・・彼をどうにかするために、本体の場所に行かなくちゃならないだろうけど。」


「ああ。」


「はっきりとした根拠は何もないけれど、もし、僕の案に乗ってくれるんだったら、マリージアのあの場所に戻る方向でいいかな?」


「ああ・・・僕もずっと思ってたんだ。あの時、フィーアとソフィが地下から感じた違和感。

 あれがきっと、ヌルなんじゃないかと思ってる。だから、ツヴァイの言うことは正しいと思うよ。

 ドライも・・・それでいいかい?」


 以前、2人が地下4層から感じたと言っていたおぞましい気配。

 あれがおそらくは、ヌル自身の存在を露わしているに違いない。

 アインがドライに尋ねると、彼女は真剣な表情で頷いた。


「私は・・・ずっと紅牙おにいちゃんを助けるために今までやってきた。

 だから、もう迷いなんてないわ。」


「そっか、じゃあ、一緒に紅牙兄さんを助けに行こう!」


「ええ、任せなさい!私の悪意が火を噴いちゃうんだからね!」


「おーう!」


 盛り上がるアインとドライの様子にほんの少し笑ってから、ツヴァイはフィーアに視線を移した。


「フィーアは・・・怖いかい?」


 フィーアはこれまでヌルのいる場所に行くことを頑なに拒んでいた。

 だとすれば、今回のことは彼女にとっては好ましい事態ではないはず。


「ううん、私は蒼ちゃんが行く場所なら、どこへでも行けるよ。」


 だが、そんな心配をよそにフィーアは笑顔でそう答えた。


「そっか、じゃあ、一緒に紅音を迎えにいこう。」


 それに対して、フィーアは曖昧な笑みを浮かべる。


「そしたら、明日の朝、兄さんが言った時刻にマリージアに向かおう。

 アルケンガーを使って上空から見渡してみれば、何か見つけられるかもしれない。」


 その言葉に頷きながらも、アインはあの時のことを思い出していた。

 フィーアとソフィは怯えていたが、自分はその場所から何か温かいものを感じた。

 その感覚が間違っていないならば、紅牙は間違いなくあの場所で自分を待っている。


「それじゃあ、今日は各自、ゆっくり体を休めないとだね。」


 ツヴァイの言葉に皆が頷き、その夜は解散となった。




「蒼ちゃん・・・あのね。」


「どうしたんだい?フィーア。」


「今日は・・・一緒に寝よう?」


 部屋に戻る途中にそう言われて、ツヴァイは微笑んだ。


「もちろん、僕もそのつもりだったよ。」


 普段は周りに気を使って部屋を分けているが、今日くらいは許してもらえるだろう。

 部屋に戻ると、ベッドに横になったツヴァイの腕の中にフィーアが潜り込んでくる。


「ん・・・あったかいね。」


「うん。蒼ちゃん、あったかい。」


 胸元にすりすりと頬をすりよせてから、フィーアがぎゅっとしがみついてきた。


「まだ・・・怖いよね?」


「ううん、もう怖くはないよ。決めたから、私は蒼ちゃんの傍にいるって。」


「そっか・・・」


「蒼ちゃんこそ、大丈夫なの?」


 ヌルに命を奪われた際にフィーアの術式でその分の力は何とか確保したものの、以前と同じように力を使うことで身体に負担がかかる状況が改善されたわけではない。

 そのことが、フィーアにはたまらなく不安だった。


「大丈夫、紅音を助けるための力くらいなら、とってあるつもりだよ。」


 それに対して、ツヴァイは優しく笑うことで答える。


「皆が・・・君と僕とが幸せになるために、明日は頑張らなくちゃいけないから。

 だから、僕の身体のことはあまり気にしすぎないようにしようと思っているんだ。」


「・・・うん、大丈夫、蒼ちゃんは私が助けてあげるよ。」


 何かを決意するように告げるフィーアに、ツヴァイも真剣な表情で返した。


「ねえ、フィーア。

 僕も君を守ろうと思っているけれど、これだけは言っておかなくちゃ。」


「・・・?」


「今回、紅音を助けるにあたって、僕はきっと、紅音と君を傷つけることすらもいとわないと思う。

 傷つけても、それでも2人といたいから。

 だから、どんなに君と紅音が悲しいと思ったって、僕は君たちと幸せになる。」


「・・・私も、出来るだけ頑張ってみる。

 でもね・・・どんなことがあっても私は傍にいるから、何があったとしても蒼ちゃんは悲しまないでね?」


 何かを心配しているのか、フィーアはこちらの顔色をうかがうようにじっと見つめてきた。


「フィーア・・・心配しなくていいんだよ?

 君が傍にいてくれるだけで、僕はいつもよりもずっと大きな力を出すことができる。

 だから、きっと何とかなるさ。」


 相変わらずこちらの心配ばかりしてくるフィーアの髪を、ツヴァイは愛しげに撫でる。


「でも・・・」


「フィーアは何か心配してるみたいだけど、紅音は必ず取り戻す。

 たとえ紅音が嫌だって言っても、僕はそんなこと絶対に許さないから。」


 にこっと笑うツヴァイを見て、フィーアは困ったように微笑んだ。


「大丈夫、紅音のことは、僕が誰よりもよく知っている。

 あの子が僕から逃れることなんて・・・できるはずがないんだから。」


「そ、蒼ちゃん・・・なんだかちょっと怖いよ??」


 目が座ったままの笑顔で伝えられたツヴァイの言葉に、フィーアがちょっとだけ怯えたように言うと。


「ああ、ごめんね?

 これでも、精一杯怖がらせないようにしているつもりなんだけどな・・・」


 少しだけ悲しそうに笑ってから、ツヴァイはフィーアの頬に手を当てる。


 そして・・・


「・・・うん、今はまだ我慢してあげる。

 だって、僕は全ては紅音を取り戻してからって決めているから。」


 優しい口調で言って、フィーアをぎゅっと抱き寄せて耳元で囁いた。


「おやすみ、フィーア。良い夢を。」


「うん、おやすみなさい、蒼ちゃん。」

 

 すりすりと甘えてくるフィーアにツヴァイは一瞬、うっと小さく唸ってから何かを我慢するように目を瞑り、フィーアの額にそっと唇を押しあてる。

 そして、気持ちを落ち着かせるようにふうっと大きなため息をついて、呟くように言った。


「・・・我慢するんだ僕・・・怖がらせないって、誓ったばかりじゃないか。」


「??」


「い、いや?なんでもないよ。」


 その呟きに不思議そうに首をかしげるフィーアに、ごまかすような笑いと共に答えたのだった。


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