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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第5話 プロローグ『太陽の旅立ち』 ①

以前、第3話の時点で残りは3話とお知らせしましたが、第4話は元は二つだったものをひとつにまとめています。

よって、この物語は次の第5話で終わりとなります。


これまで読んでくださった方々に感謝しつつ、残りの物語を投稿していきたいと思います。


悲しい表現もありますが、最終的には全員のハッピーエンドを目指す物語となっております。

最後までお付き合い頂けましたら幸いです。

「・・・もう僕が触れることすら許してくれないのか、紅牙兄さん。」


 島が遠く見えなくなった頃、アインが涙を流しながら呟いた。

 あの後、アルケンガーに連れ去られながら一行が見たのは、孤島の楽園がヌルの触手に飲み込まれ崩れていく様だった。

 その途中で機械的な音声が響き、残酷な事実を知らせる。


『持ち主のアルバートとの通信が途絶しました。

 これからアルケンガーの所有者をあなたたちに移行します。』


 それを聞いた途端、暴れていたドライがぴたりとその動きを止める。

 俯いて小さく肩を震わせる彼女は、きっと声を殺して泣いているのだろう。

 フィーアはツヴァイを抱きしめたまま動かず、アハトは無言で目をつぶっていた。

 

 仲間たちの様子を確認したソフィは、何も言わずにただ前を見る。

 空を覆っていた厚い雲の一部が開け、アルケンガーを背中から幾筋もの光が照らした。

 アインが手にした水晶が、それを受けてわずかに光を反射する。

 雨上がりの大気を通した太陽の光は、悲しみに暮れる皆を包み込むような優しい光だった。


ホムンクルスの箱庭 第5話 プロローグ『太陽の旅立ち』①


「ん・・・っ!」


 ズキっと胸のあたりが痛む感覚に、フィーアが微かに顔をしかめた。


「蒼ちゃん・・・」


 ツヴァイの命を取り戻すために、ヌルの力を術式で完全に奪い取るには、時間が足りなかった。

 足りない分は自身から捧げられたであろうことを理解しながら、フィーアはツヴァイを抱き寄せる。


「ごめんね、あなたもずっと私を守るために、こんな痛みに耐えてきたんだね。」


 彼が賢者の石の負荷に耐えながら、ずっと自分を守ってきてくれたことを改めて実感する。


「でも、よかった・・・」


 ツヴァイの胸を穿っていた傷口はふさがり、彼は静かな呼吸を繰り返していた。


「フィーア、大丈夫?顔色が悪いわよ。」


「うん。大丈夫。」


 隣を飛んでいるアルケンガーからソフィに話しかけられ、フィーアはにこっと微笑む。


「もうすぐ、じいさんたちが待機している場所に辿り着くはずだ。」


 アハトがそう言って、先にある大陸に視線を送った。

 孤島を飛び立って数時間、一行はようやく近くの浜辺に辿り着こうとしていた。

 海岸沿いにある森の中の家の前で、一人の老人がこちらに向かって大きく手を振っている。


「おーい!おーい!やっと帰ってきおったわい!!」


 その隣では、クリストフとジョセフィーヌがこちらを見上げていた。

 ジョセフィーヌはどこかほっとしたような表情で、クリストフはいつものような穏やかな笑みを浮かべている。

 そんな3人の目の前に、アルケンガーは翼を羽ばたかせながら着陸した。


「おお、遅かったのう・・・って、どうしたんじゃ!?」


 グレイが目にしたのは、何も言わないアハトとソフィ。

 ボロボロに傷ついたアインと、その隣で放心したように立ちつくすドライ。

 そして、身体のあちこちに傷を負いながらも、動かないツヴァイを必死に支えるフィーアの姿だった。


「おじいちゃん・・・蒼ちゃんを休ませる場所を。」


「待っておれ!今、小僧を休ませる場所を用意するからの!」


 その様子にただならぬものを感じたのか、グレイは大急ぎで家の中に駆け込んで行く。


「・・・お互い無傷というわけにはいかないと思っていたが、ずいぶんと派手にやり合ったみたいだね。」


 クリストフの言葉に誰もが何も言えず、神妙な面持ちで立ちつくしていた。

 



 ツヴァイが部屋に運ばれていく様子を見ながら、アハトは隣にいるソフィに小さな声で話しかけた。


「なあ、ソフィ。」


「どこで話す?」


 同じく小さな声で返したソフィに、アハトは首を横に振る。


「ここで構わない。」


 さっそくというように、アハトは本題を切り出した。


「これから俺は忙しくなる。アルバートのこともヌルのことも、考えることは山積みだからな。そのための用意が必要だ。」


「そう、私に手伝えることはあるのかしら。」


「もちろんだ。俺が用意をしている間、他の連中のことを頼む。

 ・・・家族を失ったあいつらが、へこんでいないわけがないからな。」


 珍しく周りを気遣うようなことを言ったアハトに、ソフィは思わず笑って頷く。


「わかったわ。でも、あんたも無茶しないでね?家族なんだから。」


「そうだったな。おまえも無茶するなよ・・・ほら、今日の分の薬だ。」


 あれから、ソフィは毎日アハトから渡された薬を飲んでいた。


「身体を大事にしておけよ。」


「善処するわ。」


 口元に笑みを浮かべて、ソフィは薬を受け取った。




 さて、どうしたものか。

 

 アハトに言われたことを実行すべく、ソフィは行動に移した。

 キッチンで簡易のスープを用意すると、トレイに乗せて2階の部屋に運ぶ。


「フィーア、いいかしら?」


 声をかけるが、中から返事はない。


「入るわよ。」


 それが分かっていたかのように、ソフィは自分から扉を開けて中に入った。

 部屋にはベッドに横たわるツヴァイと、それを静かに見守り続けるフィーアの姿があった。


「・・・あ、ソフィ。」


 ソフィの予想通り、フィーアは部屋の外から声をかけられたことには気づいていなかったらしい。

 中に入ると、ようやく気づいたらしく振り向いてこちらを見ている。


「少し食べましょう?そんな青い顔していたら、起きた時にツヴァイに心配かけちゃうわよ。」


 ベッドサイドの簡易テーブルにスープを置きながら、ソフィは笑いかけた。

 ソフィをじっと見つめた後、フィーアは俯きながら小さな声で言った。


「蒼ちゃんが・・・起きてくれないの。」


「眠っているだけではないってこと?」


「怪我は治っているし・・・どうして起きてくれないのか分からない。」


 フィーアが言うのだから、ただ眠っているだけということではないのだろう。

 ヌルに何かをされた影響なのか、他に何かあるのかは分からない。

 だた、あの時、会話は聞こえなかったもののツヴァイはヌルに何かを言われて動きを止めた。

 もしかすると、あれに何か原因があるのだろうか?


「あとで皆と相談してみましょう。

 あなたは傍にいてあげてフィーア。

 ツヴァイにとっては、それだけで力になっているはずだから。」


 現時点では想像することしかできないため、ソフィには判断がつかない。

 他の皆の意見も聞いてみるべきだろう。


「うん・・・」


 ソフィの提案に小さく頷いたフィーアは、ぎゅっとツヴァイの手を握っていた。


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