ホムンクルスの箱庭 第4話 第8章『ヌル』 ①
投稿が遅れてすいません(´;ω;`)
第4話はあと少しで終わります(*´ω`*)
「そうか・・・君たちは本当に成長したんだな。」
アインから伝えられた言葉に、ノインがようやくその場に膝をついた。
それを確認すると、アインは刀を引いてにこりと笑う。
「これで、あとは・・・」
ふらふらと立ちあがったノインが石碑の方に歩いて行き、皆を振り返った瞬間だった。
ドシュっ!!
「な・・・っ!?」
鋭い音と共に崖下から鋭く突きだされた何かに、ノインの胸が貫かれた。
「アルバートおじちゃあああんっ!!」
皆の目の前で幾本もの触手に貫かれ磔にされたノインの後ろから、不意に人影が現れる。
「やっとおまえを仕留めることができたな・・・」
笑顔でそう言ったのは、紅い瞳の青年。
「随分と簡単に串刺しにされたものだ。油断し過ぎじゃないのか?
確か、こういった戦術を教えてくれたのはおまえのはずだが。」
それは、マリージアにいるはずのヌルの姿だった。
自分に起きたことを誰よりも正確に把握したのは、アルバート自身だったらしい。
どこからか取り出したクリスタルを、アインに向かって投げてよこした。
「おじさんっ!!」
アインがクリスタルを受け取ったのを見ると、彼は心底ほっとしたように笑みを浮かべてから俯いた。
「皆、待たせたな。やっと邪魔ものを排除することができた・・・後は一人。」
動かなくなったアルバートを貫いたまま、ヌルの視線はツヴァイに注がれている。
「そいつを始末するためにも、今は皆には大人しくしていてもらおうか。」
ヌルの言葉に従うように、無数の触手が地面から現れて皆の自由を奪おうと蠢き始めた。
足の踏み場もないほどの膨大な量の触手は、一斉にその場にいる全員に絡みつこうとする。
「あ・・・っ!」
「フィーア!皆と一緒にいて!!」
大量の触手が2人の間に現れフィーアは必死にそちらに手を伸ばすが、それは届くことなくツヴァイと引き離されてしまう。
「ツヴァイっ!!」
アインもすぐにそのことには気づいたのだが、いくら斬り払ってもしつこいくらいに襲って来る触手から皆を守ろうと戦うだけで精一杯だった。
「アイン!ツヴァイが、ツヴァイが・・・っ!」
「わかっている、フィーア!でも・・・!くっ!?」
ドライに襲いかかった触手を斬り払おうとして、アインは傷を負ってしまう。
「犬!私は良いから自分を守りなさいっ!!」
それを見たドライが泣きそうになりながら叫んだ。
「アハト、あんたのグレネードで何とかならないの!?」
「これだけの量の触手を焼き切るのはいくら俺でも無理だ!!」
「後はおまえだけだ偽物。
おまえを始末すれば、俺たちは家族だけで一緒になれる。」
触手の壁に阻まれた先では、いつの間にかこちらに移動してきたヌルとツヴァイが対峙していた。
「・・・そうだね。兄さんはああ言っていたけど、やっぱり君は危険だ。
ここでどういう形になったとしても、終わりにさせてもらうっ!」
「やめろっ!やめるんだ2人ともーっ!!」
アインが叫んだ声は2人に届かなかったのか、戦いの火蓋は切って落とされた。
触手が次々と襲いかかる中、その全てをツヴァイは時空を操る能力によってはねのける。
他の空間に送り込まれた触手は、その切っ先ごと亜空間に吞まれて次々と消えていく。
戦いはツヴァイが優勢であるように見えた。
「あなたの賢者の石を見つけ出せば、僕の勝ちだ。
僕の空間に取り込んだ後で、紅音はゆっくり探させてもらう。」
淡々とした口調で冷静に告げるツヴァイを、ヌルは憐れむように眺めながら言った。
「フ・・・そうか、確かにおまえの能力はなかなか優れたものの様だ。
だが、存在としてはいまいちだったな。」
「僕の存在なんてどうでもいい、僕は紅音さえ傍にいてくれればそれだけで・・・っ!!」
その言葉を否定するように叫んだツヴァイに、ヌルはにやりと笑って見せた。
「おまえ、なぜ俺が紅音を喰った時に、紅音が俺の方に残ってフィーアがおまえの元に行ったと思う?」
「・・・?」
それは唐突な質問だった。
「紅音はその特殊能力を使って、自分の精神の一部を切り離して囮にしたんだ。
だが考えても見ろ、囮にするならフィーアの方でよかったじゃないか。」
眉間にしわを寄せながら、ツヴァイは何も答えずにひたすらにヌルの本体を探し続けた。
やつの言葉に惑わされてはいけない、今ここでこいつを仕留めなければ他の家族たちに被害が出る。
それは避けるべき事態だ。
何より、紅音を助ける機会をこれ以上先延ばしにすることは耐えられない。
紅音を助けるという存在意義さえあれば、僕はもうどうなったっていい。
そんな思いつめた気持ちを、どうやってヌルは見破ったのだろう。
「それはな・・・紅音がおまえよりも俺を選んだからだ。」
決定的な一言が告げられる。
「偽物のおまえなんかじゃなく、本物の俺を選んだんだ。
おまえは紅音に捨てられたんだよ、ツヴァイ。」
「な・・・っ!」
それが偽りか真実かなど、考える余裕はなかった。
ただ、その言葉はツヴァイの心に深く突き刺さる。
それが致命的な隙になると分かっていても、思考の停止したツヴァイには身動きが取れなかった。
その瞬間、死角から伸びてきた触手が絡み合い凶器のような鋭い切っ先を形作ると。
「あ・・・」
ツヴァイの右胸を後ろからあっさりと貫いた。
口からこぼれた熱い何かが地面に滴り落ちる。
ツヴァイはそれを、どこか遠い瞳で眺めることしかできなかった。
「そ・・・蒼ちゃあああんっ!!」
そして、その光景はフィーアの瞳にしっかりと刻み込まれていた。
「いや、いやああああっ!!」
触手の先端に身体中を傷つけられながらも、フィーアはツヴァイのいる方に無理やりに走り寄る。
刃のような触手の海はフィーアの腕を、腹部を、足を身体の至る所を斬り裂き血があふれ出す。
それでもフィーアは駆け寄るのをやめなかった。
「ツヴァイーっ!!」
「がは・・・っ!」
「兄さん!やめてくれえええっ!!」
アインの叫び声に、ヌルはさらに満足そうな笑みを浮かべる。
フィーアが駆け寄るよりも早く、突き刺さっていた触手が無理やりに引き抜かれツヴァイはその場に崩れ落ちた。
「蒼ちゃん、蒼ちゃん・・・しっかりしてっ!!」
ようやく駆け寄ったフィーアは、すぐにツヴァイを抱き起こそうとする。
そんなフィーアを見て、ツヴァイは悲しげに微笑んだ。
「フィーア・・・紅音、ごめんね・・・僕は。」
その頬に触れようと伸ばされたツヴァイの手は届くことなく、その胸元に落ちた。
「だめ・・・だめっ!死んじゃ駄目えええっ!!」
ツヴァイを抱きしめて、フィーアが叫んだ時だった。
遠い昔と同じようにフィーアを中心に紋章陣が展開される。
それは見る間に大きくなり島全体を包み込んだ。