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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第4話 第7章『孤島の護り人』 ⑤

ノイン戦はこれで終わりとなります、次回急展開です(`・ω・´)

来週までお待ちください(; ・`д・´)

「ぐううっ!!」


 一瞬の隙を突かれて傷を負ったノインだったが、すぐに体勢を立て直して目の前にいたアインに光の剣を振り下ろした。


「甘い!」


 叫んだアインが返す刀を刃の根元に向かって突きだしすと、レーザーとの継ぎ目に当たる金属部分の柄が弾け、暴走した光がノインの肩を貫く。


「ぐ・・・!!やるじゃないか。」


 その様子を不安げに見ていたフィーアに、ソフィが語りかけた。


「フィーア、私たちは争っているんじゃないのよ?」


「違うの?傷つけあっているんじゃないの・・・?」


 答えを求めるように尋ねるフィーアに、ソフィは笑顔で頷いた。


「傷つけあっている相手と、今みたいに笑える?」


 その言葉に、フィーアは不思議そうにアインとノインを見た後、何かに気付いたように声を上げた。


「あ・・・!」


「アルバートさんが欲しいのは、傷つけあうための力じゃない。

 彼を信じさせてあげられるだけの覚悟よ。

 教えてあげなさい、彼に。

 私はもう守ってもらわなくても大丈夫だよって。」


 ツヴァイに抱かれていたフィーアは、決意するように静かに目をつぶった。

 フィーアにとって仲間を、家族を傷つけることは過去のトラウマに直接つながる行為だ。

 あの時、施設で共に暮らしていた家族をフィーアはその紋章術で喰らってしまった。

 忘れていてもずっと心の中に残っていたあの想いを、例の村に行ったことによって完全に思い出してしまった。


 心配をかけまいと誰にも言えなかったが、自分の術式の暴走で孤児院の子供たちが、家族だと思っていた者たちが皆、形を失って消えていく様子を思い出すだけで、本当は気が狂いそうだった。

 けれど、ソフィは教えてくれた。

 これは傷つけあう行為ではなく、互いを認め合う行為なのだと。


「フィーア、もう大丈夫みたいだね?」


 それを見ていたツヴァイが、そっと肩から手を放した。

 彼はきっと自分の迷いを、過去のトラウマと向き合うことのできない心を知っていて、それでも見守っていてくれたのだろう。

 自分に向けられるツヴァイの眼差しは、いつだって優しいものだった。

 だから、そんな彼に応えるためにも自分の覚悟をツヴァイに、そして、アルバートに伝えたい。

 こくり、と頷くとフィーアはようやくいつもの笑顔を見せる。


「うん、ありがとう。ツヴァイ、ソフィ。

 私、おじちゃんに精一杯気持ちを伝えてくるから!!」


 覚悟を決めたフィーアは、今度こそ術式を完成させて魔法を発動させようとする。


「フィーア、どうやら覚悟が決まったようだな。だが、その前に私が行動させてもらうぞ!!」


 フィーアの魔法が完成するよりも早く、ノインがその場から掻き消えた。

 そしてそれは、フィーアを見守っていたソフィの後ろに現れる。


「ソフィ、君はどうやら皆のサポート役のようなものらしい。

 だが、そんな君が目の前で倒れてフィーアが冷静でいられるかな?」


「あら、私はちょっとお節介なだけ。そして・・・」


 振り下ろされた刃の先に、いるはずのソフィの姿はなかった。


「ちょっとばっかし、ずる賢いだけよ。」


「消えただと!扱いの難しい風の移動をよく使いこなすものだ・・・。」


 その視線の先には、アハトの隣に立つソフィの姿があった。


「いつも一緒にいるからね。テレポートの起点をこいつの持ち物にしておくと便利なの。」


「なんだと!?いつの間に・・・」


「あんたが眠っている間によ。」


 驚愕の表情を浮かべたアハトに、ソフィはいたずらっぽく笑って見せる。

 攻撃を外したノインは瞬時に掻き消え、今度はアインの後ろに現れた。

 そして、ドライに向かって攻撃を仕掛ける。

 容赦ない一撃が振り下ろされると、アインは迷わずそれを刀で受け止めた。


「アイン・・・!おまえは本当に、大切なものを守ることができるのか!!」


「僕は・・・っ!僕の覚悟は、そんな攻撃で打ち砕けるほど安い物じゃない!!」


 攻撃の余波で傷を負いながらも、ドライを守りきったアインにノインはさらに返す刀で斬りかかった。


「その攻撃は僕にはもう効かないっ!!」


 ノインの光の剣は、アインが突き出した刀に先ほどと同じように根元を破壊されて砕け散る。

 制御を失ったレーザーは、消え去る前にノインの身体を焼いた。


「ぐう・・・っ!!」


 ちょうどその時、フィーアの魔法がようやく完成する。


「私は、本当は家族と戦うのは嫌だけど・・・」


 迷いを振り切ったように、フィーアは大きな声でノインに告げた。


「アルバートのおじちゃんがそれで私たちを認めてくれるなら私頑張るね!

 頑張って・・・紅牙おにいちゃんを助けてみせるから!!」


「そうか・・・フィーア、大人になったな。」


 そんなフィーアを、ノインはどこか優しい瞳で見つめる。

 フィーアを中心に形成された紋章陣は、空中に氷の刃を形成しノインに向かって降り注いだ。

 氷の結晶の中に埋もれたノインは身体中が灼熱に染まり、あちこちから煙をあげている。

 能力を多用した負荷によって、彼の身体はすでに限界を迎えていた。


 しかし・・・


「がは・・・っ!だが、まだだ!私は終わっていないぞ!!」


 動かないはずの身体をノインの発動で無理やりに動かそうと、アルバートは自分を囲む氷を長い尾で砕いた。


「みんな!僕に力を貸してくれ!!」


 それを見たアインが、アルバートを止めるために前に走り出す。


「兄さん!信じているよ!!」


「任せろ!!」


 ツヴァイの言葉に、アインは大きな声で答える。


「犬!やっちゃいなさい!!」


 肩に乗ってアルバートを指さしたドライに、アインは親指を立てることで答えた。


「さあ、その力を2人に見せてやるんだ。」


 そう言ったアハトの視線は、ノインとその後ろに在る墓に注がれている。


「アイン・・・これが終わって紅牙お兄ちゃんを助けたら、今度こそ皆で幸せに暮らせるよね?」


 未来に希望を抱くフィーアに、アインはこくりと頷く。


「信じてるわよ、大切な家族だもの。」


 最後にソフィの言葉が送られると共に、アインの刀に力が宿り始めた。


「うおおおおおっ!!」


 力を解放するように叫びながら、アインが刀を天高く掲げる。

 それを見たドライは、アインの肩からフィーアに声をかけた。


「フィーア!紋章術を使いなさい。

 私は紋章術なんて使えないけど、あんたが使うのを手助けくらいしてあげる。

 あんたの気弱なところを、私が後押ししてやるわ。」


「うん!ありがとうおねえちゃん!!」


 祈るように手を組むと、ドライは紋章術を発動するフィーアの精神に干渉して、その背中を押すように語りかけた。

 アインの足元に形成された小さな紋章陣は、送られた皆の想いを純粋な力に変えるとアインに伝えていく。

 いつもよりもさらに大きな金色の光が、天を貫かんばかりの勢いで厚い雲を突き抜けた。

 アインの心の中に、これまで出会ったたくさんの人々の姿が通り過ぎていく。


「今こそ、僕たちの旅の成果を見せるんだ!!」


 共に旅をしてきたツヴァイ、ドライ、フィーア、アハト、ソフィ、グレイ、両親・・・。

 そんな姿が過るたびに、温かな想いが胸の中にあふれて行く。

 金色の巨大な光の柱と共に振り下ろされたその力は、光の渦となってノインを包み込んだ。

 それと共に振り下ろされた刀は、ノインの首に触れる寸前で止められる。


「アルバートおじさん、皆、大人になったんだよ。」


 衝撃で半分だけ崩れた仮面から、穏やかに笑うアルバートの顔が現れた。

 それはこれまでずっと仮面をかぶり、自分たちの成長を見守ってくれた悪役(アルバート)の本当の姿だった。


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