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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第4話 第7章『孤島の護り人』 ④

戦闘苦手ですが、今日もがんばります(。>д<)

「ばかな・・・!まさか、ツヴァイと同じ空間を操る能力?!」


 アインが驚愕の声をあげたのも無理はない。

 ドライ、フィーア、アハトの後ろに唐突に現れて攻撃したその様子は、空間を渡ったようにしか見えなかった。

 少なくとも、その動きを予測し防ぐことは不可能だ。


 しかし・・・


「あれが・・・ノインの能力なのか。く・・・っ!」


 先ほどの空間制御が負担になったのか、ツヴァイが胸のあたりを押さえる。


「ツヴァイ!」


「ごめん、大丈夫だよフィーア。」


 心配そうに駆け寄るフィーアを手で制して、ツヴァイはアインに叫んだ。


「兄さん!ノインの能力は超過駆動だ。

 何らかの手段で自身の能力を限界まで高めて移動しているから、僕たちの目じゃとても追いきれない!」


「そういうことか・・・っ!」


 先ほど目の前で行われたノインの変身から予測すると、おそらくアルケンガーと同じように自身の身体を生体金属に作り替えている。

 その生身ではない身体を限界まで駆使して、身体能力を最大限に利用することによって彼は生半可な動体視力では捕らえることのできない動きを再現しているのだ。

 今のノインの動きを正確に読み取れたものは、少なくともこの場にはいない。

 ツヴァイとて状況から何とか判断したようだった。


「その通りだツヴァイ。私には賢者の石などというものは必要ない。

 空間など渡れなくとも、私がおまえたちを翻弄するくらいはたやすいことだ。」


 空間との摩擦による熱を放った状態で、ノインは再び光の剣を構える。


「さあ、私の手の内も見せたことだしここからが本番と行こうか。」


 彼の鎧の一部が小さく砕けて、空気に塵となって消えていった。

 ノインの身体から迸る灼熱が、本人自身を少しずつ蝕んでいる。

 それは誰の目から見ても明らかで、彼が命すらかけて自分たちを試そうとしていることを感じさせた。

 これまでのノインとは明らかに違う戦いは、ここにいる全員に彼の覚悟を思い知らせる。


「アルバートおじさん・・・だったら、僕もそれに本気で答えるよ!!」


 アインの身体が金色の光に包まれたかと思うと、地面に刀を突き立てた。


「こ、これはいったい・・・?」


 ノインは驚愕の声をあげてその様子を茫然と眺める。

 それと同時に、周りにいた皆の身体が淡い光に包まれた。

 まるで自身の限界を超えて力が湧いてくるような不思議な感覚に、5人も戸惑いを隠せないでいる。


「兄さん、これはいったい・・・!?」


 ツヴァイが視線を送るとアインはビッと親指を立てて笑ってみせた。


「僕の力をみんなに分けてみたんだ!長くは持たないけど皆でアルバートおじさんを倒そう!!」


「そんな使い方をすれば賢者の石の負担は相当なものだろう。下手をすれば命を失いかねない。

 いいだろうアイン、おまえの覚悟は確かに受け取ったぞ。」


 アハトは重々しく頷き、マントを翻してグレネードを取り出す。


「ありがとう、アイン。アルバートさんに、私たちの本気を見せてあげましょう。」


 ソフィもまた、覚悟したように頷いた。


「これで・・・アルバートのおじちゃんを倒すの?」


 たった一人、フィーアだけはまだ覚悟が決まらないというように、不安げに皆を見つめる。


「フフフッ!それでこそだアイン。

 おまえたちの覚悟を私に見せてくれ・・・行くぞ!!」


 それを見ていたノインが楽しそうに笑って宣言すると、再びその姿が掻き消えた。

 フィーアの迷いを読んでいるかのように後ろに現れたノインが、光の刃を撃ちおろす。


「フィーア、いいのか?

 おまえが覚悟出来ないというならば代わりに家族が犠牲になるのだぞ!」


「いや・・・っ!」


「そんなことはない!!

 フィーアが迷ってまだ決断できないっていうなら、覚悟が決まるまで僕が守りきってみせる!!」


 フィーアを守るように前に立ったツヴァイが手をかざすと、目の前に現れた蒼い障壁がその一撃を封殺した。


「ツヴァイ・・・フィーアを甘やかし、するべき覚悟を先延ばしにさせることがおまえの彼女への愛だというのか?」


「違う!甘やかしているわけじゃない、僕はフィーアを信じているだけだ!!」


「ふむ・・・だとすれば、フィーアの迷いで最初に犠牲になる家族はおまえだな。」


「あう・・・っ!」


 にやっと笑ったノインが次に姿を現したのは、ソフィの真後ろだった。


「甘いわね、後ろを取られて即死っていうのは以前1回やってるの。

 同じ失敗は繰り返さないわ!!」


 口元に笑みを浮かべると、ソフィは自身の前に風の障壁を張った。

 光の剣から放たれたレーザーの一部が障壁を貫通しソフィはいくらか傷を負うものの、致命傷には至らない。

 さらに、そこから移動してアインとドライの後ろに現れたノインにソフィは言い放った。


「それもお見通しよ!!」


 風の障壁がドライを狙って振り下ろされた一撃の前に現れる。


「大したものだソフィ、ナンバーズでなくともそこまでの戦いができるということをおまえは教えてくれるな。」


 残りの衝撃をアインが受け止めぎりぎりとつばぜり合いするような形になりながらも、ノインはソフィに視線を送りながら言った。


「ええ、ナンバーはなくとも、私は皆の家族ですもの。」


 それに対してソフィは茶目っ気たっぷりに片目をつぶってみせる。


「ソフィはああ言っているぞ。アイン、おまえの覚悟はどうだ!?」


「ぐふ・・・っ!!」


 ノインの攻撃に押し負けそうになりながら耐えていたアインが、苦し気に呻いた。


「アインっ!アインっ!」


「まだだ!!」


 必死に名を呼ぶドライに応えるように、アインはノインの剣をはじき返す。


「アイン!回復するわ!!」


「・・・ソフィ、私も手伝う!」


 ソフィが回復魔法を唱えると、フィーアがそれに精神干渉して治癒力を増強させた。

 柔らかな光がアインを包み込み、傷ついた身体を癒していく。


「ありがとう、ソフィ!フィーア!」


「助かったわ、フィーア!」


「わ、私・・・アルバートおじちゃんと戦うのはまだ納得できないけど、皆を助ける手伝いならできるから!」


 それを聞いたソフィは悲しげに眉をしかめてから、すぐに笑顔に戻って頷く。

 元の位置に戻ったノインがアハトの能力を使用して機体を精製しようとすると、それに気づいたアハトが肩に向かってグレネードを投げつけた。

 それによって本来機体を射出するはずだったパイプ部分が損傷して、ノインがよろめく。


「なんだと・・・っ!やるな、アハトにアハトを邪魔された!!」


「そいつはお見通しだ。そもそも・・・俺の名を語るには、その能力は役不足だな。」


「言ってくれる!!」


 ノインがよろめいた隙をついて、フィーアがもう一度魔法を唱えるために術式を形成する。

 迷いさえ振り切ればその攻撃は間違いなく当たるはずだ。

 しかし、フィーアはその術式を完成させることが出来ずにいた。


「フィーア、無理をしなくていい。」


 そのことに気付いたツヴァイがフィーアを後ろから抱きしめた。


「でも、だって・・・私が攻撃しないと、ツヴァイが犠牲になるっておじちゃんが・・・」


「フィーア、さっきも言った通り、君が答えを見つけるまでは僕がいつまでだって守る。

 犠牲になんてならないって約束するよ?だからフィーア、僕を信じて。」


 優しい眼差しで見つめるツヴァイに、フィーアは呪文を唱えるのをやめてこう言った。


「ツヴァイ・・・私は、家族で傷つけあうのなんて嫌なの。」


「うん、分かっているよ。」


「こんなの、いつもの皆じゃない。私は、いつも一緒に笑ってる皆が好き。」


 それに同意するように、ツヴァイはフィーアを強く抱きしめる。

 その温かさと力強さに勇気づけられたのか、フィーアが泣きそうな声で叫んだ。


「どうして私たちが戦わなきゃいけないの!?アルバートのおじちゃん!!」


 その声にぴくり、と反応したものの、何も語らずノインはアインと対峙する。


「行くぞノイン!!」


「来るがいい!!」


「おじちゃん!私の攻撃も喰らいなさい!!」


 フィーアの方を気にしつつも、ドライがアインの刀に『悪意の付与』を行う。

 金色の炎と黒いオーラを纏った刀が振り下ろされそうになると、ノインが斥力場装置を使用してその場から無理やりに移動しようとした。


 しかし・・・


 その視界にフィーアの姿が入ってしまう。

 今にも泣き出しそうなその姿は、彼がかつて愛した女性に重なって見えた。


『どうして家族が争わなくてはならないの?アルバート。』


「あ・・・葵さん?」


 聞こえるはずのない声が頭の中に響き、ノインの動きが阻まれる。

 避けられるはずだったその一撃はノインの肩を捕え、そのまま斜めに斬り下ろされた。

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