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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第4話 第7章『孤島の護り人』 ②

明日からはノインさんとの戦闘開始となります(`・ω・´)

「・・・懐かしい夢を見たな。」


「あら、どんな夢?」


 アルケンガーでの移動途中に居眠りしていたアハトが、目を覚ますと同時に呟いた言葉をソフィは聞き逃さなかった。


「いや・・・大した夢じゃない。俺がマリージアでおまえと会う前の、ちょっとした出来事の夢だ。」


「へえ・・・私とあんたが出会った頃っていうと、私がまだ、皆と会う前ね。」


 アハトがマリージアで皆の情報を集め始めた頃に、アルスマグナの施設で出会ったのがソフィだった。


「おまえは悟っていて、かわいげのない子供だったな。」


「はいはい、自覚はあるわよ。私は子供のころから悟ってて、かわいくない子供でしたよーだ。」


 いじけたように言うソフィに、アハトは思わず苦笑する。

 種族的なこともあるが、出会った頃からソフィはほとんど変わっていない。

 成長しても子供のような姿で居続けることのできるソフィは、組織にとっては使い勝手のいい駒だったのだろう。

 工作員として育てられていたソフィとアハトの出会いは、お互いに第一印象はいいものではなかったが、2人はいつの間にか一緒にいることが多くなっていた。


 そして、それは今も変わらずに続いている。

 もし誰かがその関係を尋ねたならば、2人は迷うことなくこう言うだろう。


『単なる腐れ縁だ』と。


「ひと雨、来そうね。」


 空を見上げながら、ソフィが呟いた。

 いつの間にか風が強くなり、厚い雲が空を覆い始めている。


「そうだね、でも、もう少しで目的地に着きそうだ。」


 ツヴァイが指さした先には、地図に示されていた孤島が見え始めていた。

 あと数十分足らずで着くはずだ。

 一行が気を引き締めるように。そちらを見据えた時だ。

 フィーアが嬉しそうに下を指さした。


「見て!くじらさーん!」


 高速で移動するアルケンガーの上からそれが見えたのは一瞬だったのだが、巨大な何かが海の中を泳いで移動していた。


「あう・・・でも、少し大きい?」


 フィーアの言うとおり、その巨大な生物はくじらよりも大きく見えた。


「確かに少し大きいけど、くじらであってるんじゃないかな?

 あのサイズの生き物で考えられるのはくじらか、

 そうでないならきっと、見たこともないような化け物かだ。」


 ツヴァイは冗談交じりに言うと、フィーアを後ろから抱きしめる。


「少し風が出てきたからね。フィーアの身体が冷えないように。」


「ぎゅー!ツヴァイもあっためてあげる~。」


 振り向いたフィーアは、いつものようにツヴァイに抱きついた。


「ちょっとツヴァイ!あんまりフィーアにくっつくんじゃないわよ!」


「ドライ、あんまり身を乗り出すと危険だよ?」


 その光景を見てツヴァイに文句を言おうとしたドライだったが、ここが上空であることに気付いて慌ててアインにしがみつく。


「ちょ、ちょっと、私のことしっかり捕まえておきなさいよね犬!」


「おーう!」


言われるがままにアインは後ろにしがみついていたドライをひょいっと抱き上げると、自分の前に移動させる。


アインがかなり大きいので、ドライはすっぽりとその腕に間に収まっている感じだ。


「し、仕方がないから抱っこさせてあげるわ!感謝しなさい!!」


「おうふ!」


 いつも通りのドライにアインが困ったように笑っていると、アインにしか聞こえない小さな声でドライが言った。


「あのね、アイン。アルバートおじちゃん・・・ううん、ノインはおそらく今回は本気で私たちを倒そうとしてくるはずよ。

 あんたは甘いから先に言っておいてあげる。全力で倒しなさい。やられたら絶対に許さない。

 だってそれは、おじちゃんに対しても失礼なことだから。」


「もちろんだよ!あの人に僕たちが成長した姿を見せてあげるんだ!」


「分かってるじゃない犬!じゃあ、さっさと行くわよ!」


「おう!」


 島が近づいてその形状が把握できるようになってきた。

 全体が見渡せる程度の小さな島には森と小さな川、それから・・・


「おうちがあるー!」


 フィーアの指さした先に、赤い屋根の白い家が見えてきた。

 人が一人きりで住むには大きすぎる家は、崖の少し手前に建っている。

 アルケンガーが島に降りるために高度を落とすと、その様子はさらに鮮明にわかった。


 遠目だが家の奥にある崖の方に何か小さな石碑のような物があり、その前で誰かが跪いているのが見える。

 この場所で待つ相手は一人しかいない。

 崖はアルケンガーが3体が降りるには狭すぎたので、少し離れた丘に6人は降りた。


「ここは・・・」


 家に近づくと、まず最初に見えたのはきれいに手入れされた庭だった。

 子供たちが遊ぶための遊具や砂場、整えられた花壇には葵の花が植わっていた。

 それらはまるでいつ子供たちが遊んでもいいようにと、手入れが行き届いた状態に見えた。


「くまさんだ~!」


 フィーアが嬉しそうに窓辺に走り寄った。

 庭から見える窓にはぬいぐるみが並べられており、それは昔フィーアがかわいがっていた物にとてもよく似ている。


「そうか・・・ここが、ノインとヌルが言っていた家なんだね。」


「そうだな・・・そしてここには、この孤島をずっと守り続けていたやつがいる。」


 ツヴァイに同意するように頷いたアハトの視線は、家の裏手にある崖の方に向けられていた。

 ここからはまだ見えないが、おそらくそこに彼がいるのだろう。


「行こう!僕たちは彼に、アルバートおじさんに会いに来たんだ。」


 ぱらぱらと冷たい雨が落ちてきた。

 庭を抜けて先に進むと、視界が急に開ける。

 そこは、海が広く見渡せる場所だった。


 崖の先にある小さな石碑には葵の花が添えてあり、その前では彼が祈りをささげていた。

 会った時と同じように白衣を着た彼の雰囲気からは、以前とは違うものを感じる。

 ここに辿り着くまでに感じたアルバートの想いで胸がいっぱいになっていたアインは、それを見て何も言えずに立ちつくしてしまう。


 アルバート、彼は今、何を思ってこの場所で祈りをささげているのか。

 皆の楽園となるはずだったこの小さな孤島を、どのような思いでたった一人守り続けてきたのか。

 それを考えるだけで、アインは泣きそうになってしまう。

 

 しかし、静かに目をつぶるとアインは一度、気持ちを落ちつけてから目を開いた。


「狂気のマッドアルケミスト!正義の味方がおまえを倒しに来たぞ!びしっ!!」


 相手を指さす動作までしっかり言葉にしたアインは、子供の頃と同じように名乗った。

 それを耳にすると、ノインはフッと口元に笑みを浮かべて立ち上がる。


「ふーはははは!よく来たなアフレンジャー!」


 ばさっと白衣の裾を翻し、ノインは狂気のマッドアルケミストを演じた。


「よくも恐れずにここまで来たものだ!ここがおまえたちと私の最終決戦場だ!

 私に勝てないようならば、ヌルを助けるなど言語道断!!

 もし本当に意思を見せたいというのなら、ここで私を超えるといい。」


 悪役らしく言い放った後、ノインは今度はアハトの方を振り向く。


「アハト・・・約束の時は来たぞ。」


「ああ、そうだな。」


「まさか、この期に及んで手はずが整っていないとは言うまいな?私は・・・今度こそ完璧だぞ。」


「俺の準備は完璧だ。今からそれを、この子たちが見せてくれるだろう。」


 にっと笑ったノインに、アハトもにやりと笑って答えた。


「それは楽しみだ。ならば・・・今こそ私の真の姿を見せよう!

 悪の首領というのは、そういうものでなくてはな!!」


 そう言うと、見る間にノインの姿が変形していく。

 それは、彼がこれまで皆を助けるために、自身に行ってきた研究の成果なのだろう。

 生体金属と化したアルバートの身体は、質量を増し機械の鎧をまといながらその姿を変えていく。


 目の前で行われた変形はほんの数秒だった。

 そのわずかな間に、ノインの身体は髪の色と同じ白銀の鎧をまとった人型の機竜に変わっていく。

 肩からは触手のように伸びたアームが幾本も生え、その先端と胸の中心の宝石は赤褐色に燃えている。


 腕にはズィーベンのレーザーを武器化させたようなブレードを一対携え、光の粒子が舞っていた。

 竜の頭にはもはやノインの顔はなく、金属の仮面で覆われている。

 爪のはえた2本の足、一振りで全てをなぎ払いそうな鋭く長い尾、2メートルを軽く超える大きさの鋼の竜騎士の姿がそこに在った。


「さあ、かかってくるがいい。」


 くぐもった機械的な声が辺りに響く。

 アインは決意したように頷くと皆を振り向いて、号令をかけた。


「いくぞ、みんな!!」


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