ホムンクルスの箱庭 第4話 第6章『それぞれの想い』 ⑤
今週はこれで終わりとなります(`・ω・´)
その日の明け方、ソフィはアハトに部屋に呼び出されていた。
「イーヒッヒッヒ!」
錬金鍋に入れた薬をアハトがかきまぜる姿を、ソフィは引きつった表情で眺めている。
「てか、その掛け声って必要!?」
魔女が薬を混ぜています的な笑い声と共に鍋をかきまぜたかと思うと、アハトは唐突に懐に手を入れた。
そして・・・
「仕上げのグレネードだ!!」
ちゅどおおおん!!
鍋にグレネードを投げ込んだ。
「ちょっと!?それ必要?本当に必要な動作だった!?」
いつも通りといえばいつも通りなのだが、さすがに自分が摂取するものにグレネードを投げ込まれるとは思わなかった。
「さあ、出来たぞ。」
「私のライフライン・・・こんなんでいいのかしら。」
いろいろと考えるべきところがあるような気がするのだが、考えるだけ無駄というか、考えた方が負けというか・・・。
「これ・・・飲んだら爆発するとかじゃないでしょうね?」
「ああ、それは大丈夫だ。
おまえがもしヌルの組織を毒殺するとかいうんだったら、爆発したかも知れんが。」
「そっちを選ばなくて心底よかったと思うわ。」
深いため息をつきつつ、ソフィはその薬を眺めた。
器に入っているそれは無色透明な液体で、特ににおいもしない。
「試作品だ。」
「・・・ありがとう。」
素直に受け取っていいものかどうか迷いどころだが、一応お礼を言って受け取る。
「じゃあまあ、さっそく・・・」
一度深呼吸をした後、覚悟を決めたソフィはそれを勢いよく飲み干した。
「あ、あれ・・・?」
それと同時にソフィをめまいが襲う。
それだけではない、節々が痛み、身体がやけに熱っぽい。
よろけたソフィは反射的に近くにいたアハトによりかかった。
それを受け止めたアハトはソフィの額に手を当てて。
「は!!実験は成功じゃああ!」
と唐突に叫ぶ。
「ちょっと・・・大丈夫なのこれ?なんかものすごくだるいんだけど。」
「身体の中の異物に手を出すわけだからな、風邪と一緒だ。」
さっきとは打って変わった真面目な答えに、ソフィはこくこくと頷く。
「な、なるほど・・・?」
言われてみれば、そんな気もする。
「っていうか・・・なんか、気が遠く・・・」
そのまま気を失ってしまったソフィを抱き上げると、アハトは自分のベッドに横たえた。
「安心しろ、おまえは俺が助けてやる。」
眠ってしまったソフィの髪を撫でると、アハトはそのまま明け方まで薬の改良に取り組んだ。
――そして、翌日。
「あれ?ソフィはどうしたんだい?」
食卓に降りてきたアインが、皆に尋ねた。
いつもなら一番早く食事の準備をしているはずのソフィがいないのは珍しいことだ。
すると、アハトがしれっとした表情でこう言った。
「ああ、ソフィならまだ俺の部屋で寝ているぞ。」
問題発言にしばし全員の思考が停止した後、フィーアが真っ赤な顔をしながら言った。
「お、お赤飯炊いた方が良いかなっ!?」
「おまえは何を言ってるんだ!?」
さすがのアハトも、それに対して思わず突っ込みを入れる。
「そ、そうだよフィーア!?
そういうのは何も言わないであげるのが優しさというか花というか!」
「ツヴァイ、おまいも落ちつけ!!」
大慌てする2人とは対照的に、アインは不思議そうに首をかしげる。
「家族なんだからそれくらい普通だよね?」
知らんぷりをしてうさぎのようにしょりしょりとサラダを食べていたドライは、アインに話しかけられるとプイっと目をそらして。
「そ、そーね。」
真っ赤な顔をしながら一言だけそう言ったのだった。
ちなみに、この後、起きてきたソフィが皆の異様な空気に首をかしげたのは言うまでもない。
「待たせたわね。ほら、作っておいたわよ。」
「母さん、ありがとう!!」
アルケンガーの完成と同時に現れたジョセフィーヌが、アインに例の水晶を手渡した。
「この状態なら大気のマナを吸収しながら循環させて、半永久的に起動できるはず。」
「すごいな・・・永久機関じゃないか。」
アハトが珍しく褒めると、ジョセフィーヌは軽くため息をついて。
「何言ってるの、あなたと違って私は・・・」
「母さんすごいよ!!」
何かを言いかけたジョセフィーヌの言葉を遮って、アインががばっと抱きついてきた。
「ご、ごほん・・・」
咳払いをしてから両手でアインを引き離すと、彼女は再びため息をつく。
「なんか疲れたわね・・・私ができるのはここまで。あとはあなたたちで好きになさい。」
「必ず期待に応えてみせるよ!」
力強く言ったアインに、ジョセフィーヌは首を横に振って苦笑した。
「違うでしょう?私の期待なんてどうでもいいじゃない。
あなたがやりたいことのために作ったんだから、好きに使いなさいな。」
「うん!」
にこにこと笑いながら大事そうに水晶を抱きしめるアインを、ほんの一瞬だけどこか優し気な表情で見た後。
「じゃあ、私は寝させてもらうわよ。」
ジョセフィーヌはさっさと帰ろうとする。
「ありがとう母さん、そうだこれ!作っておいたからまた使ってね!」
「・・・今度は力の加減を覚えなさい。そしたらやらせてあげるわ。」
さしだされた肩たたき券を、若干、眉間にしわを寄せてから2本の指でピッとはさんで受け取ると、ジョセフィーヌはそれを白衣のポケットに無造作に突っ込んだ。
「がんばるよ、母さん!」
「そう・・・がんばりなさい。」
小さな声で言うと、ジョセフィーヌは馬車の荷台に置かれたそうちゃんの中に消えていく。
「・・・よくあの人が協力してくれたね、兄さん。」
その様子を驚いたように眺めていたツヴァイが言うと、アインは笑顔でこう言った。
「だって、僕たちの母さんだからね!」
その答えに、ツヴァイは思わず苦笑してしまう。
「はあ、まったく兄さんにはかなわないな。」
「これをアルケンガーにつければいいのかな?」
3体に分離したアルケンガーは、今は飛行型の機竜の形をしていた。
いわゆるワイバーンと呼ばれる竜種を機械で模ったような形態だ。
首にはたずながついており、2人ずつ乗るにはちょうどいい大きさをしていた。
中央に位置する飛竜の胸元に水晶を設置すると、アルケンガーが起動する。
その両肩についている宝石が光ったかと思うと、3体のアルケンガーが大きく翼を開いた。
「か・・・かっこいい!!」
「ほんとにかっこいい~!」
フィーアもそれを見て、隣でぴょんぴょん跳ねている。
「よし、それじゃあ兄さん。」
「ああ。行こう!!」
『お~!』
アインの掛け声と同時に、全員が応える。
それぞれ2人ずつアルケンガーに乗り込んだ6人は、下で見送るグレイとクリストフに手を振った。
「わしらはお主らの行く孤島の出来るだけ近くで、待機しておるからの~!
気をつけて行ってくるんじゃぞー!」
グレイが大きな声で言ってくれるのに対し、全員が手を振り返す。
その隣では、腕を組んだクリストフが口元に笑みを浮かべて、何も言わずにこちらを見上げていた。
「む、いかん。浮力が足りないな。」
『え!?』
アハト不穏な言葉に、全員がそちらを振り向いた時には遅かった。
ちゅっどおおおん!!
アハトが投げたグレネードが地上で爆破して、アルケンガーが空高く舞い上がる。
「こらあああ!いきなりグレネードを投げるのはやめんかい!わしの髪がアフロになったじゃろうが!」
「・・・ははは、これはジョセフィーヌに怒られそうだ。」
下にいたグレイとクリストフがその爆発に巻き込まれ何か言っていたような気がするが、それは聞こえなかったことにして6人は旅立った。