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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第4話 第6章『それぞれの想い』 ②

昨日の台風はすごかったですね~(´-ω-`)

「そうだアイン、あんたにはちゃんと教えておくわね。」


「どうしたんだい?ドライ。」


 あの後、少し寄り道をした2人は、大きな木の下で寄り添うように座りながら夜空を見上げていた。

 たくさんの言葉を交わしたわけではないが、互いにどこか満足した気持ちで。

 そんな時、ドライが真剣な表情でアインにこう伝えた。

 

「紅牙おにいちゃんの記憶の中で起きたことについて。」


 アインにも、ドライが言いたいことはすぐに思い当たった。


「・・・もしかして、死んだはずの僕が、生き返ったことについてかい?」


「そう、アイン、あんたが死にかけた時・・・ううん、たぶんだけど、あんたかあいつが死にかけた時に、フィーアのあの術式が発動するの。」


 おそらくそれは、組織の人間が秘密裏に施した処理なのだろう。

 賢者の石を持った存在が失われないように、その対象に何かあった場合は、辺りから手当たり次第に命を吸い上げて吸収する。

 そこにいる生き物の生命力を奪うための紋章術。


「あれは恐ろしい術式よ。

 無理をすれば、使った方の命も危ういくらいの強力な術式。

 そもそも、周りにある生命力が足りない場合は、使った当人が命を削って分け与える仕組みになっている。」


 あの事件があってから、ドライはフィーアが暴走させた術式についても調べていたらしい。

 もう二度と、あの術式の発動でフィーアが泣き叫ぶ姿を見たくなかったから。


「あの時は、私がフィーアに精神干渉したことによって負担を軽減させることができた。

 でも、もし仮にあれをフィーアだけで発動していたなら、あるいは吸収する命がもう少し足りなかったら、私もフィーアも命はなかったでしょうね。」


 組織の人間は、フィーアをあくまでも賢者の石のための補助パーツとして見ていたのだろう。

 賢者の石で維持しきれないほどのダメージを負った時、その対象の足りない部分を補うための部品としてフィーアは存在していたということになる。

 

 そして、術式が発動すれば賢者の石に損傷を与えた相手のことを始末し、さらにその場にいる全員の口を封じることもできる。

 組織としては一石二鳥どころの話ではない。

 その術式さえ発動すれば、都市一つ壊滅させることすら容易なのだから。

 術式を発動した存在が負荷に耐えきれず死亡しようとも、組織にとっては痛くも痒くもない。

 何しろ、賢者の石の保持だけは確実にできるのだ。


「だからあの時、私はあんたに絶対に死んじゃだめって言ったわけ。

 それはあんたの近くにいる家族を全員失うことと同義だから。

 家族を全員殺して自分だけ生き残るなんて嫌でしょう?

 あんたは死んじゃ駄目なのよアイン。たとえどんなことがあっても。」


 周りの家族の命を吸い取り、アインだけが生き残る。

 そんな残酷な未来は絶対に見たくない、いや、見せたくない。


「そうだったんだ・・・まあ、もちろん初めから死ぬ気なんてないんだけどさ。

 これはますます死ねないね。」


 そんなドライの思いが伝わったのか、アインが真剣な表情で頷く。


「・・・まあ、あの力をもし本当に使わなくちゃならなくなったら、私が手伝ってやるわ。

 あんたはあんまり気にせずに力いっぱい頑張ってきなさいよ。」


 重い雰囲気を変えるようにアインの背中をポンッと叩いて、ドライは軽い口調で言った。


「あんたそういう難しいこと考えるの苦手でしょ?

 それよりも素直に前を向いて頑張ってるあんたの方が魅力的よ。

 ・・・って、何言わせるのよ!

 最近私の悪意キャラが崩れてるじゃない!ぶっ殺すわよ!!」


「おうふ!」


 自分の言葉が急に恥ずかしく感じたのか、ドライは唐突に逆切れする。


「ま、間違えた・・・ぶっ殺しちゃだめだから、ぶっ飛ばすわ!

 とにかく、あんたがやばくなったら私が助けてあげるから、気合入れてやんなさい!」


 そして、自分の言葉を慌てて訂正するとビッと親指を立ててみせた。


「ああ、頑張るよ!ありがとうねドライ。」


 同じく親指を立てながら礼を言ったアインを見て、ドライは何となく目をそらす。


「ええ、感謝しなさい!・・・って、なんか照れるし!」


「え?キレるの!?」


「照れるって言ったのよっ!」


 いつもと変わらないアインの背中を、ドライはいつものようにべしっと叩いた。




「フィーア、落ち着いたかい?」


 馬車の中で寄り添うようにしながら、ツヴァイがフィーアの髪を撫でる。

 ランタンだけが照らす馬車の中は、今の2人にとっては落ち着ける空間だった。


「うん。大丈夫・・・」


「よく頑張ったね。」


「ん・・・」


 甘えるように身体を預けるフィーアを、ツヴァイはそっと抱きしめてやる。


「あのね・・・」


「ん?」


 小さな声で聞こえた言葉に、ツヴァイがフィーアを優しいまなざしで見つめる。

 そんなツヴァイを、フィーアはじっと見つめ返した。


「最後にヌルが私に手を伸ばしてきた時・・・紅音がヌルに食べられた時の気持ちが流れ込んできたの。」


 その言葉に、ツヴァイが息を呑む。


「・・・いったい、どう感じたんだい?」


 辛そうな表情をしながら、それでもツヴァイは問い返した。

 自分が助けられなかったあの瞬間、紅音がどんな絶望を感じていたのか。

 ずっと想像することしかできなかった気持ちを、ツヴァイは知りたかった。


「それ、は・・・」


 しかし、それに対してフィーアは歯切れの悪い口調で言い淀んでしまう。

 ツヴァイが心配そうに見ていることに気付いたのだろう。

 フィーアはハッとしたように顔をあげると、にこっと笑って。


「ねえ、ツヴァイ。助けに行くのやめよう?」


 唐突にそんなことを言いだした。


「どうしたんだい?」


 当然のことながら、ツヴァイは驚いたように問い返す。


「・・・きっと、ツヴァイは辛い思いをするよ。」


 何かを考えるようにしばらく黙ると目を伏せながら、フィーアは一言だけそう告げた。


「それでも構わない。

 僕が辛い思いをすることなんて別に良いんだ。

 そんなことより、僕は君と一緒に紅音を取り戻して幸せに暮らしたい。」


 そんなツヴァイの決意を、フィーアは悲しそうな表情で聞いている。


「どうしても迎えに行くの・・・?」


「うん、どうしても僕は行くよ。紅音を見捨てるなんて僕には考えられない。」


 今のツヴァイにとっては、それが全てなのだから。


「そっか・・・わかった。」


 フィーアはしょんぼりと俯いたが、すぐに何かを決意したかのようにこう答えた。


「それなら私も、もう覚悟を決める。

 紅音にツヴァイを助ける方法を聞きに行く。

 彼女なら、私の知らない紋章術のことをきっと知っている気がするの。

 どうしたらツヴァイの身体に賢者の石を再適合出来るのか、私が聞いてみるね。」


「フィーア・・・ありがとう。ごめんね、怖い思いをさせて。」


「ううん・・・それは、もういいの。」


「ありがとう、僕を信じてもう少し頑張ってくれるかい?」


 優しく抱きしめながら告げられたツヴァイの言葉に、フィーアはただ小さく頷いた。

 しばらくしてフィーアが眠りについた頃、ツヴァイはふと呟く。


「紅音の気持ち、か・・・」


 その声は小さく、不安に押しつぶされてしまいそうな心を露わしているかのようだった。


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