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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第4話 第5章『家族』 ⑥

ブックマークしてくださった方、ありがとうございます~(*ノωノ)

これからもがんばります( *´艸`)

 夜を迎えた空には蒼い月が昇っていた。

 今日は満月だ。

 月は魔力と精神力を増強させる力があるので、儀式は外で行うことになった。


「見ろ!紅い月が昇っているぞ!!」


「えー・・・蒼いよ?」


 アハトがふざけて空を指さしたのに対し、月を見上げたフィーアが困惑したように言う。


「フィーアを混乱させるんじゃないの!」


 ソフィがいつも通りアハトに突っ込みを入れた。

 村の中央にある広場で、6人とグレイは焚き火を囲むようにして座っている。


「これから交霊術を始める!!」


「おばけやだー!」


「アハト・・・いい加減にしないとどつくわよ。」


 ソフィの鋭い突きが、アハトのわき腹に命中した。


「ぐふうっ!も、もうどついてるじゃないか。」


 それを見ていたドライがため息をついてからこう言った。


「あほなことやってないで、みんな手をつなぎなさい!」


 言われるがままに手をつないで互いを見る。

 手をつなぐ際、フィーアが何か言いたげにしながらツヴァイを見た。


「どうしたんだい、フィーア。 」


 それに気付いたツヴァイは、その手をぎゅっと握って笑いかける。


「あの、ね・・・ツヴァイ、言っていたでしょう?

 あそこに、ヌルの中にもう一人の私がいるんだって。」


 その表情はとても不安そうに見えたが、ツヴァイははっきりと頷く。


「そうだね、僕はそう言った。」


「私ね・・・そのこと、なんだか怖くてあまり考えないようにしていたけど。

 でも、ツヴァイの言うことが本当なら、もう一人の私なら何か知っているかもしれない。」


 震える声で、今にも泣きそうなのをこらえながら言うフィーアを、ツヴァイは優しいまなざしで見つめる。


「もう一人の私なら、何か教えてくれるかもしれない。

 私はまだ何も知らないけれど・・・アカネなら知っている気がする。

 だから・・・話しかけてみようと思うの。」


「そうか・・・そうだね。フィーアがそれが良いと思うんだったら、僕はそれに賛成するよ。

 あとは僕が全てどうにかするから。思いっきりやってごらん。」


 ヌルの中の紅音に干渉する。

 それはこちらのフィーアが危険であると同時に、向こうにいる紅音にとってもかなり危険なことだと言えるだろう。

 それでも、フィーアがそう決めたのだからツヴァイにはそれを反対する理由はない。

 たとえもし何かがあったとしても、自分が全力でどうにかすればいいのだから。


「うん、がんばる!」


 ツヴァイにそう言ってもらえて安心したのか、フィーアはそうちゃんをぎゅっと抱きしめた。


「それじゃあ、僕も手をつないで出来るだけ力添えできるようにするから。一緒に頑張ろう?」


「うん!」


「もちろん僕も協力するよ!」


 ドライの隣に座っていたアインも大きく頷く。


「ありがとう、アイン。あの・・・さっきは、逃げてごめんね?」


「でも、こうやって帰ってきてくれたし。ありがとう、フィーア!」


 そう言ってがしっと肩を掴んでくるアインに、フィーアは笑顔で頷き返す。


「ちょっと犬!私も手伝うんだからね!」


「頼りにしているよ、ドライ。」


 アインに肩を掴まれると、ドライは困ったように目をそらして言う。


「た、頼りにしなさい。」


「おう!」


 ビッと親指を立てるアインを見ると、応えるようにドライも親指を立てて。


「任せなさい!頼りにしてもよくってよ!!」


 今度はいつものノリで答えてみせた。


「わしは何も力添えはできんかも知れんが、やれることはやるぞい!」


「ありがとう、おじいちゃん!」


「なんだ・・・一番幼いと思っていたフィーアが、一番やる気になってるじゃないか。」


 フッと笑いながら言うアハトに対して、フィーアは少しいじけたように答えた。


「私、もう子供じゃないもん。」


「そうだな、今の覚悟を見ていれば分かる。がんばれ。」


「がんばる!」


 笑顔で頷くフィーアを見て、アハトは満足そうに頷く。


「皆で行けば怖くない!」


「そうね・・・一人では怖いかもしれないけれど。」


 最後にソフィが、アインと隣にいるアハトの手をつないで言った。


「こうやって皆で一つになっていれば、怖くないわね。」


 焚き火を囲むようにして、7人が互いに手をつなぎあった。

 フィーアが静かに目をつぶり、彼女を中心に全員を囲むように光の紋章陣が現れる。

 月の光がそれに魔力を与えたところで、全員の意識がここではない場所に移った。




 そこは、始まりの村の研究所の中だった。

 ここに実体はないが、第三者の視点で皆の視界にはその光景が映っている。

 そこでは、紅牙とアルバートが何かを話していた。

 ごちゃごちゃと足の踏み場もないその場所は、どうやらアルバートの部屋のようだ。


『おい、この部屋もう少し何とかならないのか・・・』


 あまりの汚さに、紅牙が渋面になりながら言った。


『何を言ってるんだ、こんなに整頓されているだろう!』


『これがか・・・』


 あきれ果てたように、紅牙は辺りを見回す。

 どこからどう見ても整頓されているようには見えないのだが。


『私は天才だからな!ここにある物など全て把握している。』


『・・・で、その天才様の計画はどうなんだ?』


 ここからが本題というように、紅牙が問いかけた。

 それに対してアルバートはにやり、と笑ってみせる。


『今回において私に抜かりはない。ついに準備は整った。

 私としてはそうだな、今夜ここを発って、明日には馬車や食料なども全て整えることができるだろう。

 ・・・やっとおまえの願いが叶うな、紅牙。』


 感慨深げにそう言ったアルバートに、紅牙も頷いてみせた。

 2人の心が伝わってくる、この時、明日は皆の願いが叶う日だと信じて疑っていなかった。


『私としてもここにやり残したこともない。

 まあ、これからは自分の研究に取り組みつつ・・・そうだな、悪役というのをやってみるのもいいかもしれない。

 なにしろ、私は正義の味方のライバルになってしまったわけだからな。』


 フフっと笑って嬉しそうにしているアルバートに、紅牙は苦笑しながら言った。


『銀牙がおまえに言っていたことか。あれは良かった。正義の味方にはおまえみたいな悪役がいないとな。』


 それから少しの間、2人は明日の段取りについて話し合うと、その日のうちにアルバートは施設を後にして出かけて行った。


『それでは、私は出掛けてくるぞ。

 新しい住み家も用意したからな、そこの準備も整えてこなければならない。

 なあに、今回は孤島だ。そう簡単に見つかることもあるまい。』


『ああ、その間に俺は皆の準備を整えておく。

 最近、上の連中の動きがおかしいからな。すぐにでも動き出した方が良い。

 おまえに教えてもらった戦闘技術、今こそ役に立てばいいが。』


 今日という日までずっと、紅牙が子供らしく遊ぶこともせず、ただひたすらに家族を守ろうと知識を得てきた姿を知っているアルバートにとっては、その姿はとても頼もしく思えた。


『では、私は行ってくるからな!子供たちの準備をよろしく頼んだぞ、ではな!』


 自分が戻るまでは紅牙が子供たちを守ってくれる、そう信じて、アルバートは出掛けて行く。

 アルバートを見送った後、部屋に戻った紅牙は机に置いてある写真に話しかけていた。


『母さん・・・やっと、皆を助けることができそうだ。

 もう少し待っていてくれ。

 あいつが皆一緒にいられるように、住み家も用意してくれたらしい。

 あとはそこまで無事にたどり着くだけだ。』


 母親である葵をたった5歳で亡くしてからというもの、紅牙にとって家族は絶対に失えないものになっていた。

 それは弟の銀牙や、妹のように可愛がっている双子の時紅と紅音のことだけではない。

 ここにいる子供たち全てが、紅牙にとってはかけがえのない家族だった。


 長かった・・・少しずつ実験によって失われていく家族たちを守ることができないのが、歯がゆかった。

 母親が死んでから狂っていったこの研究所のやり方を止められないまま、無為に時間を過ごすのがたまらなく辛かった。

 だが、これでもう時紅や紅音が心ない実験の道具として扱われて、泣いている姿を見なくて済む。

 今まで時間がなくてほとんどかまってやれなかった銀牙を、弟として存分に甘やかしてやることができる。

 そう考えるだけで、心は満たされていった。


『さて、今日はそろそろ寝るか。

 明日はきっと、俺にとって人生最高の日になるはずだからな。』


 明日は施設長であるクリストフとジョセフィーヌが本部に出かける日だ。

 研究所の警備は、今までで一番手薄になる。

 アルバートと紅牙はこの日をずっと狙っていたのだ。

 子供たちを傷つけることなく、安全に連れ出すことのできるこの日を。

 

 そんな紅牙の想いが皆の心に伝わってくる。

 誰も何も言えないまま、皆はその光景をただ見つめていた。


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