ホムンクルスの箱庭 第1話 第3章『双頭の竜』 ③
※6月3日に文章の整理をしました。
その晩、囮の牛を1頭引き連れてアインとアハトは山道を登っていた。
「どうやってグレネードを仕込むんだいアハト?」
「そうだな、こいつのケツにでも挿しておくか。」
アハトが牛のお尻の辺りをとんとんっと叩くと牛が声を上げる。
「ブモ~!」
「なんだ?文句があるのか、だったら・・・」
鳴いて抗議しているのかと思ったのだが、どうやらそれは違うらしい。
「アハト違うよ、上を見て!!」
空を見上げると大きな影が上をよぎった。
ものすごい風圧で、あたりの木々が強風に煽られた時のように斜めに揺れる。
それは紛れもなく、目的の竜だった。
「しまった!もう来たのか!?
仕方がない、グレネードはあきらめて俺たちは逃げるぞ!!」
「お、おう!!」
状況を瞬時に把握したアハトが先に走り出し、アインがそれに続く。
しかし・・・
「く・・・!?なんで俺たちを追ってくるんだ!
囮の牛は・・・って何やってるんだあいーんっ!!」
竜がこちらを追ってくる気配にアハトが後ろを振り向くと。
「え?いや、なんかかわいそうになっちゃって・・・」
牛を頭上に担ぎ上げたアインが、こちらに向かって走ってきているところだった。
「囮なんだから置いてこなきゃ意味がないだろうが!!」
「そ、そっか・・・」
そんな話をしている間にも、竜が大きく息を吸い込む。
「やばい!?ブレスが来るぞ!横に避けろ!!」
2人が本道からぴょーんっと左右の茂みに飛び込むと、道の上を真っ赤な炎が舐めるようにして通っていく。
「なんて高熱だ・・・!肌がちりちりする。」
アインの身体をもってしても、その熱さは相当なものだ。
「うおおおおお!あちー!!」
向かい側の茂みでは逃げるのが一瞬遅れたのか、おしりに火のついたアハトがごろごろと転げまわっていた。
「た、大変だ・・・!」
「俺のケツに何しやがる!?これでもくらえっ!!」
近くを流れる小川の水で火を消しておしりの危機を乗り越えたアハトは、ローブの中からグレネードを取り出すとピンを抜いてドラゴンに投げつける。
大きな音とともにそれは空中で爆発し、辺りに黒い煙が立ち込めた。
「今のうちに逃げるぞアイン!」
「おう!!」
竜の視界から逃れた2人は一目散に走り出す。
「どうしようアハト!?」
「さすがにこのまま村に戻るわけにはいかない。
一度隠れて体勢を立て直すしかないな。」
「でも、隠れるって言っても一体どこへ・・・!?」
身を隠そうにも、周辺に竜の視界から逃れられそうな場所はない。
森の中に逃げたとしても、ドラゴンは追ってくるだろう。
2人に焦りの色が見えた時だった。
「兄ちゃんたちこっちだ!」
「君は・・・!?」
「いいから早く!!」
小川の向こうで、例の少年が手を振っている。
「俺はもう1発お見舞いしてから行くからアイン、お前が先に行け!」
「わかったよ、アハト!」
アインが牛を担いだまま勢いをつけて川を飛び越えると、それに気づいたドラゴンが滑空してくる。
そこを狙って、アハトがグレネードのピンを抜いて叫んだ。
「2人とも目をつぶって耳をふさげ!!」
「兄ちゃん牛を担いでるのに!?
っていうか、なんで担いでるの!!」
「気合いだ!!」
「わかった!!」
「ええ!?」
少年の見事な突込みの数々をスルーして、アハトが空に向かってグレネードを放り投げた。
ギャオオオオウ!!
目も明けていられないような閃光と、耳をつんざくような音が辺りを一瞬で支配する。
少年は言われたとおりに、アインは牛を担いだまま気合いで目をつぶってぺたん、と獣耳を伏せたがそれでもその威力の高さは十分に感じられる。
そんなものをまともに食らえば、いくら竜とはいえただで済むはずもない。
閃光で一時的に目が見えなくなったのか、むちゃくちゃに飛び回りながら、怒りに任せて炎を吐きまわっている。
「よ、よし!今がチャンスだ一度・・・!?」
逃げよう、そう言おうとしたアインがアハトの方に視線を送ると。
「ぐああああ!目が!目があああ!?」
「なんで自分はつぶらないの!?」
少年のキレのある突っ込みの通り、アハトは自分の投げたグレネードの光をまともにくらって、地面を転げまわっているところだった。
「何を言っている!!俺が華麗なグレネードの爆発の瞬間を見逃すはずがないだろう!?」
しかも、つぶり忘れたわけではなくわざわざ見ていたようだ。
「し、仕方がない!僕が牛とアハトを担ぐから、君は道案内を頼む!」
「両方担げるの!?すごいな!兄ちゃん。」
宣言通り右側に牛、左側にアハトを担いだアインは、少年の案内に従ってその場を後にした。
「まったく、酷い目に遭った・・・これで牛を囮に竜のねぐらを確認するのは難しくなったな。」
「ごめん、僕が連れてきちゃったから・・・」
少年が案内してくれた小さな洞窟で、アインとアハトは次の作戦を練ろうとしていた。
「でも俺、兄ちゃんのそういう優しいところ好きだな。」
一連の出来事で泡を吹いて気絶した牛を介抱しながら、少年はアインに向かって笑いかける。
「ありがとう、君が来てくれなければ、僕たちは危ないところだったよ。」
少年がどうしてここまで来てくれたのかはわからないが、少なくとも2人がそれによって救われたのは間違いない。
「でも、どうしてここに?」
「兄ちゃんところのツインテールの姉ちゃんが。」
「フィーアがどうかしたのか?」
「え、え~と・・・2人のことを、とても心配していたので。」
少年の言葉にアインとアハトは納得したように頷く。
「フィーアは優しいからね。僕たちのことを心配してくれたんだ。」
「ああ見えて頭もいいからな。竜の危険さは十分に承知しているんだろう。」
「そ、そうだね!俺もそう思うよ!!」
少年は慌てて何かをごまかすかのように大きく頷く。
本当のことを言えないうしろめたさを抱えながら、少年は視線をそらした。
少年が一体何を見たのか、それは少し前の村での出来事までさかのぼることになる。
ところでアハトの中の人ってどうしてあんなにグレネードとケツを愛してるんだろう。え?そんなことない?またまた御冗談を(*'ω'*)