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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第4話 第5章『家族』 ⑤

今日の話は皆の本当の名前が出てきます(`・ω・´)

「夕焼け・・・」


 空はいつの間にか、茜色に染まっていた。


「そうね、そろそろ皆のところに戻らないと。

 はあ・・・今はそこそこうまくいったけど、でも、私の求めるところに行くまではまだまだなのよね。」


「ご、ごめんね・・・」


「なんでかっていうとね、フィーア。あんたは今の状態だと、全然覚悟が決まってないんだもの。」


「だって・・・どうしたらいいか分からないんだもん。」


 フィーアにもいろいろと考えるところはあるのだろう。

 アルバートのこと、ヌルのこと、家族のこと。


 特にヌルのことに関してはフィーアは確執が深い。

 安易に助けると言えない事情がフィーアの心の中にはある。

 少なくとも、今の状態では皆を食べようとする彼を助けていいのかすらわからない。

 それが本音だった。


「どうしたらいいか分からない、か・・・私たちの力でいうんだったら、強く想うことね。」


「強く想う・・・」


「そう、それはどんな思いでもいい。私だったらあんたを泣かせたいかしらね!」


 にやっと笑うドライに、フィーアは困ったように笑って尋ねた。


「どうしてドライは私が悲しい顔をすると喜ぶの?」


「・・・あんたは覚えているかどうか分からないけど。」


 ぎゅっと、ドライが繋いでいる手を握ってきた。


「子供の頃、私が暗闇を怖がるようになったのと同時期ぐらいに、あんたは笑わなくなったのよね。」


「え・・・?」


「正確に言えば、本当の笑顔を見せなくなったの。

 あれはあんたなりの保身の手段だったんだと思うんだけど、あんたは誰に対してもにこにこ笑っていた。

 それが自分に嫌なことをする研究員でもね。」


 思い返そうとしてみるが、フィーアにはその時のことは思いだせない。


「あんたは愛想のいい子で通っていたけれど、私は知っていたわ。

 本当はあんたが笑ってなんかいないこと。

 感情を全部押し込めて、笑ってるふりをしているってことを。」


 ドライが横を向いてこちらを見てきたので、フィーアもそちらに向いた。

 自分と同じ色のドライの瞳、どこか悲しげに見える。


「だから、笑うのなんてやめさせたかった。

 私にとっては、私がいじめて泣いてる時がほんとのあんただった。

 私は、本当のフィーアを取り戻したかったの。」


「おねえちゃん・・・」


「でもまあ、そのうち誰かさんが現れたせいで、私はお払い箱になったんだけどね。」


「え?」


 むすーっとした顔をした後、ドライはにぱっと笑って。


「でも今は違うわよ、あんたの泣いてる顔が好き。

 特に笑った後に泣いてる顔が好き。

 そういう時は、あいつからフィーアを取り戻せたって思うの。

 泣いてる時のあんたは私のせいで泣いてるから。」


「よ、よくわかんない・・・」


「あんたが本当に笑うのは、いつだってどっかの誰かさんのためだもん。

 だったらせめて泣き顔くらいは、私のためにとっておきなさいよ。

 ・・・って、変なこと言わせるんじゃないわよ!」


 がばっと起き上がったドライは、照れたようにぺしっとフィーアの額を叩く。


「にゃあ!」


 いきなりのことに驚いたのか悲鳴を上げて、フィーアも起き上がった。


「・・・宝物、あんたさっきそう言ってたわよね。」


「う、うん・・・何かあった時に持って行くようにって、おねえちゃんが言っていたの。」


「そこまで思い出したんなら、まあいいかしらね。

 別に私に何かあったわけじゃないけど、良い機会だと思うし。」


 そう言いながらドライは、ごそごそと懐をあさって何かを取り出した。


「ほんとはもう少しもったいぶって渡すつもりだったのよ?」


 ドライがフィーアの手に渡した物は、記録をするための水晶だった。


「これが・・・宝物?」


「そう、私とあんたの宝物・・・正確に言うと、皆の宝物よ。」


「皆の、宝物・・・」


「あの時、皆どうなるか分からなかったから宝物を作ろうって話になって。

 あんなことがあってあんたも犬も忘れちゃったみたいだけど、私だけは覚えてる。」


「これ・・・皆で聞いてもいい?」


「いいわよ、皆もどうせ思い出してきているんだし。

 紅牙おにいちゃんだって許してくれるだろうから・・・どうせ紅牙おにいちゃんに会いに行くんだったら皆で思い出してから行きましょう。

 そのためにきっと役立ってくれるはずだから。」


「うん!」


「じゃあ、皆のところに行きましょうか。」


 服についた草をパタパタと払って立ち上がると、ドライはフィーアの手を引いた。

 夕暮れの中、2人は手を繋ぎながら仲良さそうに小道を歩いて行く。

 2人の様子を樹の陰からずっと見守っていたツヴァイも、ゆっくりとその後を歩いて行った。




 アハトとソフィが休んでいるところに、フィーアとドライ、少し遅れてツヴァイが戻ってきた。

 グレイはアルケンガーの修理でかなり疲れたようで今は部屋で休んでおり、クリストフはジョセフィーヌと子供たちのところに戻ったようだ。


「いやあ、いろいろやってたら遅くなっちゃったよごめん。」


 アインが最後に部屋に入ってきたところで、フィーアが駆け寄った。


「これ、皆の宝物だって!ドライがくれたの!」


「おお、なんかすごい!」


「へえ、綺麗だねフィーア。」


 アインとツヴァイがそう言うと、フィーアの後ろに立っているドライがこう言った。


「それは記録用のクリスタルよ。皆が忘れてしまった、皆の言葉が入ってるわ。」


「え・・・?いつのだい?」


「そうね・・・あの村に住んでいた時。

 まだ皆が幸せだった頃の宝物よ。

 まあ幸せなんて言ってみても、いつ誰が欠けるか分からない、

 普通の子供たちから見れば、幸せとはかけ離れた状態だったんだけどね。」


 尋ねるアインに苦笑しながら、ドライはそう教えてくれる。


「だから紅牙おにいちゃんが、皆がその村を出たときに何がしたいか、将来何になりたいかって夢をこれに語らせたの。」


「これに・・・僕たちの夢が。」


「それじゃあ、聞いてみるね♪」


 フィーアがそう言ってクリスタルを起動させると声が聞こえてきた。


『ぎんがです!

 しょーらいはアルバートおじちゃんのつくったロボットに乗って、みんなで『れんきんせんたい』をやりたいです!』


 まず聞こえてきたのは、幼い頃のアインの声だった。


『悪いやつをやっつけて、せーぎの味方になりたいです!』


 それにかぶせるように、離れたとこから声が入ってきた。


『ふーはははは!悪役参上っ!!

 ふふふ!貴様のライバルが現れてやったぞ、正義の味方銀牙!』


『わるものめー!僕が退治してやるー!』


 アインのかけていく足音が遠ざかって行くと、今度は女の子の声が聞こえた。


『しぐれです!

 私は・・・ほしいものとかなんにもいらない、今の皆がいてくれればそれだけでしあわせなの!』


 その声を聞いたドライがプイっとそっぽを向く。

 どうやら、それはドライの声らしい。


『それ以外いらないんだからねっ!変なの混ざってきても入れてあげないんだからね!

 ちょっとあかね!あんたもいれなさいよ!』


 横からグイっと引っ張ったのだろうか、唐突にフィーアの戸惑った声が入ってきた。


『ふえ・・・あ、えーっと。あかねです!』


 その自己紹介に、ツヴァイがぴくっと反応する。


『私は~、ここを出たら、大好きな人たちと楽しいところにいっぱい行きたいです!

 世界中を旅して、おいしいものとか食べて~、えっと、みんな笑っていられたらいいと思います!』


 その願いに口元を緩ませていたツヴァイの表情が、次の人物の声で固くなった。


『よし、アカネよく言えたな。』


 それは、ここにいる誰もが聞いたことのある声。


『えーっと、最後は俺か?』


 確認するような言葉の後に、咳ばらいが一つ聞こえる。


 そして・・・


『紅牙だ。

 そうだな、皆が今言ったような夢を叶えられる場所に連れて行ってやることが、俺の一番の夢だな。

 いつか、皆に兄らしいことをできるようになれば一番幸せだ。

 ・・・こんなもんでいいか?』


『きゃはは、紅牙おにいちゃん、かっこいーい!』


『こら、もう切るからな?』


 フィーアがじゃれつくような声がして、その人物は笑いながら言った。


『ところで腹減ったんだけど、夕飯まだかな。』


『ごはんの時間はー、あと30分後です!』


『はあ・・・なんかつまみでも食うか。おいアルバート、なんか食い物くれよ!』


 そんな言葉と共に、音は遠くなって行った。




「そっか・・・そうだよね。」


 聞き終わった後、真っ先に言葉を口にしたのはツヴァイだった。


「彼の言う通りなのかもしれないな・・・」


 言葉の後半は聞き取れないほど小さい。

 その隣では震える手で、フィーアがそっとクリスタルを抱きしめていた。


「なんとなく、覚えてる・・・おにいちゃんがいたってこと。」


「そうね、私たちにはおにいちゃんがいた。」


「私も・・・私も知りたい、どうしておにいちゃんが、ああなっちゃったのか。」


「そう・・・もしそれが見えたとしたら、とても辛いものが見えると思うわ。

 でも、そうね、あんたが頑張っていろんな物を見て泣いて帰ってきたら。

 いっぱいいじめた後に抱きしめてあげる。」


 ドライにそう言われると、フィーアはぎゅっとその手を掴んで。


「えっとね、私ひとりだと怖いだから。おねえちゃんと皆と一緒に行きたいな。」


 えへ、と笑ってじっと見つめた。


「・・・そっか、そっちの方がいいかもね。

 でも、私も手伝うけどあんたが基本的には皆を守るのよ?いいわね?」


 珍しく甘えてくれたフィーアの言葉に、ドライはくすっと笑うとそう答えた。



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