ホムンクルスの箱庭 第4話 第5章『家族』 ②
今週はここまでです(ノ´∀`*)
いつでも旅立てるようにと一通りの準備や何やらを終えてから、ソフィはアハトたちがアルケンガーを直している広場に行ってみた。
どうやらひと段落ついたとろころらしい。
少し離れたところではクリストフとグレイが談笑していた。
「そこでわしは言ってやったんじゃ!!」
「ええ、ええ、わかりますよ。」
グレイが何かを熱く語るのに対して、クリストフは穏やかな笑みで相槌を打っている。
それはとても平和な光景に見えた。
そして・・・
「アハト、ちょっといいかしら・・・!?」
樹の幹に背を預けて休んでいるアハトに近づくと、そこには変わり果てた姿があった。
子供たちにいたずらでもされたのだろう。
閉じている瞼にはマジックで偽の目が書かれており、両方の鼻の穴にはニンジンが刺さっている。
それにも関わらず熟睡しているところはある意味大物と言えなくもないが・・・。
ソフィがあまりの光景に茫然としていると、どこからか肩に鳩が飛んできた。
もちろんそれはズィーベンだ。
「汚ねえ顔してるだろう?・・・こいつ、生きているんだぜ。」
それだけ言うと、ぶーんと謎の羽音を立ててどこかに飛んで行ってしまった。
どうするべきかとソフィが途方に暮れていると、
「ぶえーっくしょんっ!!」
アハトが思い切りくしゃみをして、鼻からニンジンがどこかに飛んでいく。
「はあ、冷えたかな。お、ソフィどうした?」
いたずら書きをされたままの顔でこちらを見られて、ソフィが思わず目をそらしながら言った。
「それ以前の問題だから・・・まず、そこの小川で顔を洗いなさい。特に瞼のあたりをね!」
「なんだ、何かあったのか?まあいい、俺もちょうど顔が洗いたかったところだ。」
立ちあがったアハトが言われるがままに顔を洗って、再びソフィを振り向く。
瞼のいたずら書きは何とか落ちていた。
しかし、今度は額に肉と書かれているのが見えてしまう。
「ずいぶんとやりたい放題やられたみたいね・・・」
「ああ、何が起きたかはよくわからんが、子供たちのいたずらだろう?
なあに、気にするほどのことじゃない。」
アハト当人はそれでいいかもしれないが、ソフィとしてはいろいろ気になって仕方なかった。
せっかく真面目な相談をしに来たと言うのに、この男はどこまで自分のペースを崩したら気が済むのか。
・・・でもまあ、それでこそこいつって感じかしらね。
アハトの前ではそう簡単にシリアスはやらせてもらえないらしい。
「はあ・・・実はね、頼みたいことがあるのだけど。」
軽くため息をついてから、ソフィは本題に入った。
「ああ、なんだ?」
顔をタオルでごしごしとこすりながら、アハトは聞き返してくる。
「昨日、私の方で対策しているから問題ないって言ったけど、あれを撤回するわ。
協力してほしいの。」
「ヌルに関してのことか?」
「ええ・・・私の身体について施設長夫人にいろいろと話を伺ってみたのだけれど。
どうやら私の中にはヌルの因子があるみたいなのよね。」
「ヌルの因子・・・?」
アハトがいぶかしげな表情をするとソフィは頷いて話を続ける。
「おそらくなのだけれど、ヌルは私という存在に彼の因子を埋め込んで必要に応じて使ってるみたいなの。」
「なるほど?」
「そしてあんたは、アインからこの間、回収したヌルの体組織を持っているわね?」
「ここにあるぞ。」
アハトが懐から取り出した瓶の中では、触手がぴくぴくと動いていた。
「うーん、これが入ってるのかぁ・・・」
「何言ってんだ、さなだ虫みたいなもんだろう。」
「そっちの方が嫌!!マジできもいから!」
自分の中にその触手と同じような物が入っているのかと思うと嫌な気分になったのだが、その言葉でさなだ虫よりはマシな気がしてきた。
「で、おまえはそのヌルの組織をどうしたいんだ?」
「一時的に動きを止めるかマヒさせるか、そういうことができるかしら?」
「そうか、それだったらまあ何とかなるだろう。
いやあ、てっきりこの組織を殺してくれとか言われるとおまえの体組織まで傷つける可能性があったから
博打にもほどがあると思ったんだが、それを聞いて安心した。」
「そっか、そういう方法もあったわね。」
「おまえがそっちを選ばなくてよかった。
いいだろう、もう半日くれれば何かしらのそういった作用を持つ薬を作っておいてやる。」
「大丈夫なの?あれの作業もあるんでしょう?」
ソフィが視線を送った先には、ある程度形が戻ったアルケンガーの姿があった。
「すげー!合体ロボだかっけー!!」
「ここに色塗っちゃおうぜ!」
「アハト兄ちゃんみたいに肉って書いてやろうぜ!!」
「わーい!アハト兄ちゃんとおそろいだー!」
その周りでは子供たちがきゃーきゃーはしゃいでいる。
こうやって子供たちが喜んでいるのだから、巨大ロボットで子供たちに尊敬されたいというノインの希望は叶っていると言えよう。
「クリストフとじいさんの協力があればあと少しで完成するだろうよ。」
「・・・あんたたちって、やっぱりちゃんと錬金術師なのよね。」
普段が普段なのであまりそのことを実感する機会はないのだが、こうしてその実力を目の当たりにするとさすがにそう思わざるを得ない。
「そこでわしは言ってやったんじゃ!!」
「ええ、そうですともそうですとも。」
視線を送った先では、グレイとクリストフが先ほどと同じような会話を繰り返していた。
「なあに、任せておけ。」
「無茶はしないでね?これから・・・私たちは戦わなければならない相手が多いんだから。」
「無茶なんてことはないさ。
どっかのマッドアルケミストがやっていることに比べればな。」
フッと笑みを浮かべるアハトに、ソフィも似たような笑みを浮かべてみせる。
「ほんとかしら。あんたはそう言っておきながら余計なことにすぐに首を突っ込むし。」
「その言葉はそっくりおまえに返してやろう。
いいか?勘違いするんじゃない。俺の場合は災いが勝手によってくるんだ。
それに対しておまえは災いの中に自分から飛び込んでいる、全く違うからな。」
「そうかしら??」
まったく自覚がないのか、ソフィは不思議そうに首をかしげるのだった。