表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
125/172

ホムンクルスの箱庭 第4話 第5章『家族』 ①

今日は山の日らしいです~(*‘ω‘ *)

 第二のアフロの星ことノインを見送った後、一行の元にはぷすぷすと煙をあげながら凍りついているアルケンガーが取り残されていた。


「これ、どうしようかしらね・・・」


 ソフィが途方に暮れたように呟いた。


「まあ、この様子だとすぐに動くとは思えないね。あ、取扱説明書だ。」


 ツヴァイも同じく困ったように笑いながら、アルケンガーの中にあった取扱説明書を取り出す。


「そんなもん残してるのあの人!?」


「みたいだ・・・この取り扱い説明書によると、自己修復機能もついてるみたいだし多少時間がたてば動くようにはなるんだろうけど。」


「ごめんね~・・・私が凍らせちゃったから。」


 しょんぼりとしながら言うと、フィーアはアルケンガーの足元に近づいてそこら辺に落ちていた棒きれでツンツンと突いてみる。

 すると、アルケンガーの足先がぴくっと動いた。


「ひゃあ!動いた!!」


 動いたことにびっくりして、フィーアは慌ててツヴァイの後ろに逃げる。


「嘘じゃろ!?これは・・・まさか本当に生体金属じゃというのか。」


 騒ぎを聞きつけて馬車の方からこちらに来たグレイが、興味津々な様子でアルケンガーをあちこちいじくり回し始めた。


「武器は自分で用意しろって言ってたね?」


「生体金属ってどんな武器持たせればいいのよ。」


 アインの言葉にソフィがお手上げというようにアハトの方を見る。


「まあ、とりあえず修理してみる。フィーア、氷を溶かしてくれるか?」


「あう・・・私凍らせるのは得意だけど溶かすのって苦手。」


 アハトにそう言われると、フィーアは警戒しているのかツヴァイの陰からアルケンガーをちらっと見ては隠れている。


「ふふふ・・・怯えているフィーアもかわいいわ!」


 その隣ではドライがそんな姿を見て鼻血を出していた。


「仕方ない、まずは溶かすところから始めるか・・・」


 アハトが流れるように懐からグレネードを取り出そうとしたところで、ソフィが後頭部に突っ込みを入れる。


「これ以上壊してどうするの!!」


「なあに、すでにぶっ壊れてるんだからもう1発2発変わらないって。」


「あんたのグレネードの威力は洒落にならないのよ!」


 いつも通りの掛け合いをしている2人の横で、ツヴァイが取扱説明書に目を通していた。


「でも、これは仮に修復したとしても出力が足りなさそうだ。」


「どういうことなんだい?ツヴァイ。」


「うん、どうやらノイン・・・いや、アルバートさんが乗っていたドラム缶型の機械に動力源が搭載されていたみたいで、今、アルケンガーには動力源がないみたいなんだ。」


 取扱説明書によるとそういうことらしい。


「なるほど・・・動力源か。

 それに関しては僕がちょっと心当たりがあるからやってみるよ。」


「本当かい兄さん!それは助かるな。」


「アルケンガーが直る頃にはきっと何とかなると思うから、とりあえずはこの村でしばらく皆の体力を回復しよう。

 ここのところツヴァイにもずっと無理をさせちゃっているし・・・。」


 ツヴァイは少しだけ驚いた表情をするものの、すぐに笑顔になる。


「大丈夫だよ兄さん。どちらかというと戦闘中はいつも守ってもらってばかりだからね。

 かえって申し訳ないくらいだよ。」


 そんな会話をしていると、いつの間にか向こうではアルケンガーの修理が開始されていた。


「おーい、クリストフ、悪いが手伝ってくれ。」


「おや、これは驚いたな。生体金属なんて僕も初めて見たよ。」


「わしにも任せんしゃい!最近作る物が多くて楽しくなってきたわい!」


 生体金属などという珍しいものに触れる機会などそうそうない。

 錬金術師である3人にはそれはとても興味深いものらしく、いろいろと調べながらもアルケンガーを直し始める。


「早く大きくなあれ~。」


 アルケンガーが危険ではないと判断したのか、フィーアは子供たちの持ち物だったであろうチューリップのマークのついたジョウロを使ってアルケンガーに水をかけている。

 意思があるわけではないのだろうが、それ応えるように水をかけた部分の金属は元気よく動き始めたのだった。




 そうちゃんの中の草原では子供たちが遊んでいた。

 コテージのテラスにあるロッキングチェアに腰かけたジョセフィーヌは、そちらを気にしないふりをしながら本を読んでいる。


「あ・・・っ!」


 だが、走り回っていた子供たちの一人が転ぶと思わず声をあげてそちらを見てしまう。

 子供がすぐに立ち上がってまた遊び始めると、ジョセフィーヌはほっとしたように軽く息をついてまた本を読み始めようとした。


 すると・・・


「懐かしいね。」


 後ろから唐突に話しかけられて、ジョセフィーヌは慌てて振り向く。

 そこにはにこにことしながら立っているアインの姿があった。

 どうやら今の出来事を見られてしまっていたらしい。


「・・・何?音もさせずに後ろから忍び寄るなんて、良い趣味してるじゃないの。」


「本を読むのを邪魔しちゃいけないと思って。」


「そう・・・でも心臓に悪いから次からはちゃんと正面から来なさいな。

 私はそういうの嫌いよ。で、何が懐かしいって言うの?」


 先ほどのアインの言葉を不思議に思ったのか、ジョセフィーヌは尋ねる。


「僕たちが子供の頃・・・」


「・・・?」


「母さんは今みたいに僕たちを見守っていてくれていた。」


 それを聞くとジョセフィーヌは何とも言えない表情をして。


「別にそんなことはしていないわ。

 あの時のあなたたちはただうるさいだけだったし、私は苦手だったわ。

 あなたは事あるごとに物を壊すし、ツヴァイとドライは喧嘩ばかり。

 フィーアはすぐに泣くし、ソフィはやけに悟った子供で扱いづらくて仕方なかった。」


「ふふ、そうやって僕たちが子供だった頃のことを覚えてくれているくらいには、母さんが僕たちのことを見ていてくれたってこと僕はちゃんと知ってるよ。」


 しまった、というようにジョセフィーヌは視線をそらすが、アインはその後ろに立つと彼女の両肩に手を乗せた。


「僕たちがここまで大きくなれたのは母さんと父さんのおかげだ。

 父さんはがんばればほめてくれたし、母さんは悪いことをすれば叱ってくれた。

 そうやって僕たちは育ったんだ。」


「・・・回りくどい言い方はやめなさい。私に話があるんじゃないの?」


 さっさと本題に入るように促され、アインは話を切り出した。


「アルバートおじさんと戦うことになったんだ。」


「・・・そう、あの男まだそんなことやってたのね。」


「僕たちのことをずっと気にかけてくれていたみたいだ・・・僕の兄さんのことも。」


 その言葉に、ジョセフィーヌは膝に置いていた本を閉じた。


「あら、ようやく思い出せたの?」


「母さんたちがこの村のことを教えてくれたおかげで、僕はいろんなことを思い出すことができたんだ。

 そのお礼といっちゃなんだけど。」


 そう言うと、アインはジョセフィーヌの肩を揉み始めた。


「ちょ・・・ちょっとやめなさいよ。

 別に私はあなたにこんなことをされる立場じゃないわ。

 あなたは私のことを母親って言うけれど、私は母親のようなことをした覚えはない。

 あなただってそうでしょう?」


 困惑したように言うジョセフィーヌに、アインははっきりと首を横に振ってみせる。


「そんなことないよ。

 だって母さんは僕たちが本当に困っているときは、いつだって力を貸してくれたじゃないか。

 今回のことだけじゃない、ツヴァイを助ける方法だっていろんな場所から情報を持ってきては僕たちに教えてくれた。」


 ツヴァイの身体を直すために各地を回り始めた頃、どこに行ったらいいかも分からない自分たちに場所や情報を提供してくれたのは両親だった。


「僕たちが情報を持ち帰ると、母さんと父さんは喜んでくれただろう?

 だから、僕は今まで頑張ってこられたんだ。

 こんな僕でも、2人の・・・家族の役に立ててるってそう思えたから。」


「・・・そう。で、あなたはこれからあのお方・・・いいえ、ヌルと戦うのよね?

 今のあなたたちでは彼の元に辿り着くことすらできないわ。

 そこはどうするつもりなのかしら?」


「そうなんだよね、実を言うと僕も正直自信がないんだ。」


 自分から話題を振ったジョセフィーヌだったが、思いもしないアインの弱気な言葉に少し驚いた表情をする。


「まあ、難題というものは自分一人で立ち向かえるものではないから、あなたがそうやって悩むのも仕方のないことなのかもね。

 特に、この問題はあなたのスペックを超えている。

 そうね・・・まずあのお方を倒すと言うのならいくつかピースを揃えなければならない。

 それはなんだと思う?」


 謎かけをするようにジョセフィーヌはアインに尋ねた。


「・・・ほんと言うとね、僕は兄さんを倒すつもりはないんだ。」


「あら、じゃあどうするの?」


「兄さんはいつも僕たち家族を守ろうと頑張ってきたんだ。

 だったら、今度は僕が兄さんを助けてあげたい。」


「それは倒すより難しいと分かっていて言っているの?」


「もちろん、だから僕は母さんの力を借りたいんだ。

 子供の時みたいに、僕に母さんの知恵を貸してもらえないかな?

 僕だけじゃもうどうしたらいいか分からないんだ。」


「私は、あなたを甘やかしてあげるつもりはないわよ?

 物事、特に自分にとって大切なことに関しては人に頼るだけでは何も解決しない。

 だから私はあなたに答えは教えてあげないわ。」


 珍しく甘えてきたアインをジョセフィーヌは突き放すように言った。

 アインの耳がほんの少し下を向く。

 彼が困ったときや悲しい時にする癖だ。

 どうして自分がそんなことを知っているのか、それを考えたときに少しだけ笑えた。

 ジョセフィーヌは微かに笑みを浮かべて。


「ただし、あなたが私を母だと言うのならば、せめて一つくらいはそれらしいことをしましょうか。」


「母さん・・・!」


「ヌルを助けるにしろ倒すにしろ、ヌルの中心までたどり着かなくてはならない。

 もちろん、中心とは賢者の石のことよ。それはわかってるわね?

 彼は多くの物を取り込んで今は本来の身体がどこにあるかすら分からない状態。

 不用意に近づけば、あなたたちも簡単に彼に飲み込まれてしまうでしょう。」


 ぱっと表情を明るくして期待したように見つめてくるアインは、子供の頃とまったく変わっていない。

 そう感じた時、ジョセフィーヌは初めて自分が今までヌルだけでなくアインのことも見ていたのだと思い知らされた。

 自嘲の笑みを微かに浮かべた後、ジョセフィーヌは肩越しにアインを振り返る。


「だから私は、あなたたちが中心にたどり着くための協力はしてあげる。」


「ありがとう母さん!やっぱり母さんは優しいや!」


 ジョセフィーヌは大喜びして後ろから抱きついてくるアインの額に軽く手を当てた。


「まったく、やめなさいアイン。あなたはもう子供じゃないんだから。

 ・・・そうね、明日までにはクリストフが作ったあの宝玉を改造しておくわ。

 それであの変態が作ったロボットは動かせるでしょう。」


「すごいや母さん!どうして僕がしてほしいことが分かったの?」


 それには答えず、ジョセフィーヌは立ちあがって振り向いた。


「・・・でも、私がしてあげるのはここまで。

 兄弟げんかに親が口を出すほどくだらないことはないでしょう?

 分かったらさっさと行きなさいな。あなたには時間はないはずよ。」


「うん!僕頑張るよ!」


 嬉しそうに立ち去るアインの後ろ姿を見ながら、ジョセフィーヌは小さくつぶやいた。


「・・・どうして分かったかって?

 そんなの、私があなたの母親だからに決まってるじゃない。不本意ながらね。」


 持っていた本を開くと、ジョセフィーヌはアインが置いていった例の水晶に触れる。

 その表情は今までで一番穏やかで、優しい表情だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ