ホムンクルスの箱庭 第4話 第4章『箱庭の子供たち』 ①
今日はアインたちが昔暮らしていた居住区のお話です(*´ω`)
「これはアインに渡しておくね。」
「ありがとう、受け取っておくよ。」
女性の資料のページをアインに渡すと、フィーアは残りをそうちゃんに詰めた。
部屋を後にしてしばらく歩くと、アハトが言っていたとおりそこには居住区と書かれた扉があった。
扉を開けるとまっすぐな廊下が続き、左右はいくつもの部屋が並んでいる。
ここはおそらく、研究員と子供たちが暮らしていた場所なのだろう。
「・・・ここからは自由行動!フィーア、一緒に来なさい。」
「え?え・・・」
「ツヴァイ、あんたは来ちゃだめ。」
居住区に入った途端ドライにそう言われ、フィーアはおろおろとしてからツヴァイを見つめる。
「いいよフィーア、行っておいで。」
「う、うん・・・」
戸惑いつつも、フィーアは先に歩いて行ってしまったドライの後を追った。
「じゃあ、僕たちもそれぞれ部屋を見て回ろうか。」
ドライの意図を汲んだツヴァイは、別の部屋に向かって歩き出した。
「ねえ、ドライ、どうしたの~?」
「いいから、あんたは黙ってついてくればいいのよ。」
ドライにはどうやら目的の場所があるらしい。
彼女が迷うことなく開けたのは手前にある部屋だった。
そこには部屋の左右に対称にベッドが置いてあり、奥の壁には引き出しの付いた机と椅子並んでいる。
雰囲気からすると女の子の部屋らしい。
床には綿のはみ出たぬいぐるみがいくつも落ちていた。
ドライは何も言わずにとぼとぼとその部屋に入りフィーアを振り向く。
「どうしたの?ドライ。」
フィーアが小さく首をかしげると、その様子をしばらくじっと見つめてから。
「・・・なんでもないわよ。」
どこかがっかりしたように言ってベッドにぼふっと座った。
長い間、誰も立ち入っていなかったその場所には埃が積もっており、座ると同時に埃が舞った。
「そうなの?なんだか元気がないみたい・・・」
心配になって尋ねたがドライは何も答えてくれず、フィーアはしょんぼりとしていた。
だが、すぐに足元に落ちているぬいぐるみに気を引かれたのかそれを抱き上げる。
「このぬいぐるみそうちゃんに似てるー!」
それは破れて綿の出てしまったくまのぬいぐるみだった。
「フン、そんなぬいぐるみいらないでしょ!」
それを見るとドライはむっとした表情をして、フィーアの手からそれを奪うと床にペッと投げ捨てる。
「あ・・・どうしてそんなことするの?」
「あんた今のぬいぐるみの方が大事でしょう?だったらそんな古いのいらないじゃない。」
「う~・・・」
フィーアが悲しそうにすると、ドライがぱっと表情を明るくした。
「ちょ、ちょっとフィーア。その表情もう1回やって見せて!」
「え?」
「ほら、これあげるから。」
ドライはベッドに落ちていた同じく綿の出てしまっているウサギのぬいぐるみをフィーアに差し出す。
「わ~い♪」
「じゃあもう1回投げるからね♪」
フィーアが笑顔でそれを受け取ろうとしたところで、ドライがそれを取りあげてぺいっと床に捨てた。
「なんで~??」
涙目になるフィーアを見てドライは満足そうに微笑んだ。
仕方なくフィーアはもう一つのベッドにあった、壊れていないぬいぐるみをそうちゃんに詰め始める。
それが一通り終わると、今度は落ちているぬいぐるみを詰め始めた。
「こっちのは持っていかなくていいわよ。」
「だって、こんなところでおいて行かれたらかわいそうだもん。」
「ぼろぼろなんだから持っていっても仕方ないでしょうが。」
「縫いなおせばきっと、子供たちがまだ遊べるもん。」
にこっと笑うフィーアを見て、ドライはフンっとそっぽを向いて机の方に向かった。
「ここはもう用済みね。」
ドライは机の引き出しを漁ると、何かを取り出してそっと懐にしまい込む。
「ドライ、今のはなあに?」
そのことに気付いたフィーアがすぐに尋ねるとドライはこう答える。
「おいしい宝物をゲットしたから私のものにしたのよ。
それよりあんた、ここがなんなのかわからないんでしょう?
だったらこんなところに価値はないわ。さっさと行きましょう。」
「う、うん・・・」
ドライの言うとおり、フィーアにはここがなんなのかは分からない。
それでも、どこか懐かしいような名残惜しいような気がしてフィーアは入口で振り向いた。
その時だ、何かの記憶がフィードバックしたのは。
『ちょっとあんたのくまの方がかわいいじゃない!私によこしなさいよ!』
『やだぁ。ドライ返してよう~!』
小さなドライと自分が、くまのぬいぐるみを取り合っていた。
手加減を知らない子供同士の引っ張り合いだ、くまは簡単に壊れてしまった。
『あ・・・』
『あう・・・ふえぇん!』
『・・・この破れたやつの方が私は気に入ったわ。だからこっちあげる。』
ドライは泣きじゃくる自分に、壊れていない方のくまのぬいぐるみを渡してくれた。
「あ・・・」
足元がふらっとして、フィーアはドアにもたれかかる。
続けて別の記憶が脳裏をよぎった。
『ここのところに私たちの宝物を入れておくからね。』
小さなドライが、机の中に何かをしまってこちらを振り向きながら言った。
『いい?私に何かあった時には、必ずこれを持っていくのよ。』
次の瞬間には、現実でドライに肩を掴まれていた。
「ちょっとフィーア、あんた大丈夫なの?」
「たから・・・もの・・・」
思わずフィーアの口からこぼれたその言葉に、ドライは一瞬だけ驚いた表情をするが。
「・・・ほら、さっさと先に行くわよ。」
「う、うん。」
何も聞こえなかったというように、部屋を出て行ってしまった。
フィーアはもう一度だけ部屋を見てから、ふるふると首を横に振ってドライの後を追いかけた。