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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第4話 第3章 『研究施設に残されたモノ』 ⑥

今日からまた金曜日まで更新がんばりま~す(*´∀`)♪

 その頃――


「い、いったいなんじゃ!?空から鎧が降ってきたぞい!!」


「わーい!鎧だ鎧だー!」


「アイン兄ちゃんが着てた鎧ー!」


 入れる場所を間違えたのか空から突然降ってきた鎧にグレイが驚愕し、子供たちが喜んでその周りに集まっていた。

 そうちゃんの中にいたグレイは子供たちと一緒に草原で遊んでいたのだが、その途中で唐突に鎧が降ってきたのだ。

 幸い子供たちに怪我はなかったが、今日もなかなかにスリリングな体験をしたと言えよう。


「はあ・・・」


 その様子を見て、デッキの揺り椅子に座って本を読んでいたジョセフィーヌがため息をつく。


「あはは、鎧が降ってくる空間か。ここもあんまり安全とは言えないなあ。」


 庭でお昼ごはんの準備をしながら、クリストフがのんびりとした様子で笑った。


「今日は子供たちとバーベキューだよ、ジョセフィーヌ。」


「別に・・・一人で食べたほうが落ち着くわ。」


「そうだね、でも外で食べたほうが気分も変わっていいと思うんだ。」


 にこにこと笑うクリストフを見て、ジョセフィーヌはまたため息をつく。


「勝手にしなさい・・・」


 そう言うとジョセフィーヌは、何事もなかったかのようにまた本の続きを読み始めた。

 冷たくも見えるその表情から彼女が何を考えているのかは、普通なら読み取ることは出来ないだろう。

 だが、空から鎧が降ってきた時に本当は誰が一番慌てていたのかをクリストフは知っている。

 ふふ・・・と口元に笑みを浮かべると、クリストフは熱くなった網の上で食材を焼き始めた。




「さて、嬉しはずかしアハトの尋問のお時間です。」


「まて、この場合、恥ずかしいのは俺だけだろう。」


 逃げようとしたところを簀巻きにされたアハトは、資材室の床に転がっていた。


「そもそも、さっき言った通り俺は記憶が飛び飛びなんだ!」


「それはまあそれとして、わかることもあるんでしょう?薄情なさい・・・」


 上にいたときにある程度の事情は聞いていたソフィだったが、アハトの行動にはまだ納得いかないところがある。

 なので事情を説明するように笑顔で圧力をかけた。


 しかし・・・

 

「はあ・・・で、何か?」


「開き直ったわよこいつ!?」


 どうやって起き上がったのか、簀巻きにされたままどかっと座りなおしたアハトがふてぶてしく言ったのに対しドライがむきーっとなる。


「うむ、どうやら質問がないようだ、先に行こうか!」


「は・な・し・な・さ・い!私にはさっき話せたでしょう?」


 ソフィに詰め寄られると、アハトは大きなため息をつく。


「そこに書いてある通り、俺はここで研究員として働いていたことがあるってだけだ。

 特に何か特別なことをしていたわけでは・・・」


「皆はここについて何かしらの記憶と言うか、懐かしさみたいなのがあるみたいなんだけどそれに関してはアハトは何か知っているかい?」


 アインの質問にアハトがさらりと答えた。


「ああ、そりゃあそうだろう・・・なんと言ってもおまえたちはここの出身だからな。」


 その言葉に、先に事情を聴いていたソフィ以外の全員が顔を見合わせる。

 互いが幼馴染・・・物ごころついた時にはお互い一緒に暮らしていたことは何となく覚えている。


「ちなみに、ソフィは向こうの施設に行ってからおまえたちと出会っているから、ここの記憶はなくて当然だな。」


「・・・僕たちもその記憶がないみたいなんだけど。それはどういうことかわかるかな?」


「すまん、それは俺も知らない。俺もここを抜けだした身だからな。

 ある時期に事件があったってことくらいは知ってるが、それに関しても詳しくはない。」


 ツヴァイの質問に、アハトはやはりはっきりとしない答えを返すばかりだ。


「アハトはこの女性については何かわかるかい?なんていうか、どうも他人とは思えないんだ。」


 アインが先ほどのバツ印がついた女性の資料を指さしてアハトに尋ねる。


「僕は・・・なんだか彼女について少しだけ懐かしさを感じるっていうか。

 昔、誰かがこの人の写真を指さして何かを言っていたような気がするんだ。」


「俺はそれは知らない。知っているのは彼女のことだけだ。」


 アハトが言うには、彼女はやはりアルスマグナの研究員にはふさわしくない人物だったらしい。

 物静かで穏やかな性格から誰にでも好かれ、他の研究員の間だけでなく子供たちにもとても人気があったと。


「確か旦那は一般人でそれについても俺はあまりしらない。

 ただ、一つだけ言えることは・・・」


 どこか遠い目をしながら、アハトは次の言葉を口にした。


「彼女が死んでから、全ての歯車が狂い始めた。」


「歯車・・・?」


「そうだ、そしてその狂った歯車はおまえたちを撒き込み、今もいびつな形のまま動き続けている。」


 アハトが立ちあがるときつく縛っていたはずのロープがぱらり、とほどける。


「昔はここもそれなりに悪くない場所だったんだ。

 今ほど非人道的な実験もそこまで行われていなかった。

 物事の善悪が狂い始めたのは、間違いなく彼女がいなくなってしまってからだな。」


「アハトは・・・ヌルのことは知っているのかい?」


「そうだな・・・さっきも言った通り、おまえたちはここから始まった。

 ここで何があって、どうしてお前たちがここにいられなくなったのか。

 それは俺の口から語るべきことじゃない。自分たちで調べることだな。」


 アインの質問にそれだけ答えるとアハトは資材室を出て行こうとする。

 そして、入り口で一度止まると肩越しに振り返って。


「全てを受け止める覚悟があると言うのなら、この先の居住区に行ってみるといい。

 そこにはつらい現実ってやつが待ってるだろうがな。」


 後ろ手にぱたぱたと手を振りながら先に歩いて行ってしまった。


「そう・・・じゃあ尋問ごっこはこの辺にして、居住区の方に行ってみましょうか。

 何か思い出せるかもしれないしね?」


 全体的にどこか落ち込んだ様子の4人にソフィは優しくそう言って外に出るように促した。


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