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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第4話 第3章 『研究施設に残されたモノ』 ④

本日はちょっとホラーテイスト(ノ´∀`*)

 粘液の通路の脇を通って、6人は順にすり鉢状の装置の縁に降りた。


「フィーア、相手は今もこっちを見ているかい?」


「うん、あの小窓から・・・あれ?移動したみたい?」


 フィーアがそう言った瞬間、ガチャンっと音がして焼却場の錬金灯が一斉に消えた。

 すり鉢の装置の底にいるマグマスライムの赤い光以外が消え、辺りがしん、と静まり返って全員に緊張が走った時だ。

 少し離れた場所から、ぐちゅ・・・ぐちゅ・・・と粘着質な音がしたかと思うと、それはゆっくりとこちらに近づいてくる。

 

「いやーっ!暗くてこわーい!!」


 当然のことながら暗いのが苦手なドライが、パニックに陥りそうになった。


「落ち着くんだ、ドライ。」


 そのことに気づいたアインがドライを自分の方に引き寄せて、かぶってきたキャップについている錬金灯を再びつける。


「わ、わかってるわよ!私のこと放すんじゃないわよ犬!」


 すると、アハトがドライに向かってこう言った。


「おいドライ、以前やった暗い場所を一瞬で明るくするアイテムを使うんだ!」


「はっ!よし、任せなさいっ!」


「そうだ、暗くて不安になった時に使えと言っておいただろう?」


「そうよね!今こそその時っ!」


 ちなみに、他のメンバーにはそれが一瞬でスタングレネードのことだと分かった。

 ドライがこのパーティーに加わってまもなく、アハトがプレゼントしていた物に違いない。

 ツヴァイがフィーアを抱き寄せ、アハトとソフィがサングラスをかけた瞬間。


「きゃーっ!?ちょっとまぶしすぎて目が痛いんだけどー!?」


 辺りを白い閃光が包み込んだ。

 アインもぎりぎりで目をつぶり、慌ててドライの目も塞いでやろうとしたのだが少し遅れてしまった。

 そのせいでドライは一瞬まぶしい光を目にしてしまう。

 そんなドライの隣で、フィーアの声がした。


『えーん、ドライ、目が痛いよぅ。』


「・・・え?ドライ、それは違うのっ!」


 さらにその反対側から慌てたようなフィーアの声がする。


「ちょっとフィーア、大丈夫なの!?」


 眩しさに目をやられているドライには、どちらが本当のフィーアの声かなどわかりようもない。


「大丈夫だよ!」


『ドライ、このままじゃ落ちちゃいそうだから手を貸してほしいの。』


「え?ど、どっちなのよ?ほら、手を貸してあげるわよ、フィーア!」


 隣で聞こえた声の方にドライは反射的に手を伸ばしてしまう。

 その手を誰かが掴んだ。


『ドライ、一緒に遊ぼうよ。』


 にこーっと笑ったそれは、ドライの手を引いてすり鉢状の装置の中に引き込もうとする。


「させるかっ!」


 引き込まれそうになったドライの腕をとっさにアインが掴む。


「え?ちょっと何?何が起きてるのよ!」


 アインの錬金灯が照らした先に、フィーアの形をした何かがいた。


「はう!ドッペルゲンガー見ちゃった・・・わ、私、死んじゃう?」


 それと目があってしまったフィーアが泣きそうになると、ドライが瞬時に反応する。


「は!その泣きそうな声はフィーア!じゃあ、あんたはフィーアじゃないわね!?」


 掴んでいた手をドライが放すと、引っ張っていたアインが勢い余って抱きしめるような形で受け止めた。


「ちょ、ちょ・・・ちょっとアイン、痛いわよ・・・」


 目が見えづらいながらも抱きしめられていることはドライにもわかったのか、顔を真っ赤にしながらしどろもどろに言葉を紡ぐ。


「ご、ごめん!」


「で、でも、ありがとう・・・」


 そんな2人を邪魔するように声が聞こえた。


『ひどいよドライ、私を捨てるの?』


 フィーアの形をした何かは、唐突にナイフを取り出して構える。

 それが戦闘開始の合図だった。


「やれやれ、趣味が悪い。

 安心しろ、ドッペルゲンガーじゃないぞ。

 こいつは人を模すように作られた錬金生物だ。

 元の形はスライムみたいなもので原型はないに等しいが、学習能力が高くて見た相手のことをそっくりそのまま真似してくる。

 だが、所詮は人まねだ、うわべだけの言葉に騙されるな。」


 アハトが懐からグレネードを取り出しつつ、フィーアの形をした何かに投げつける。

 2発のグレネードが見事に命中し、辺りに黒煙が舞った。


『えーん、アハトひどいよぉ。』


 ダメージを食らったにも関わらず相手は、さして気にした様子もなくにこにこと笑っている。

 それを見れば、アハトの言う通り相手が普通の人間でないことは一目瞭然だった。


「あ、あう・・・」


 それを見たフィーアが、何を思い出したのかは分からないが怯えるようにツヴァイにしがみついた。


「フィーア、大丈夫かい?」


「そうちゃん・・・そうちゃん、ごめんね。」


「紅音・・・?」


 どちらとも分からない口調でフィーアが小さくつぶやいたのに対してツヴァイが問い返そうとするが、それより早く敵が動いた。


『私は2人もいらないよね。』


「あ・・・っ!」


 笑顔のままフィーアの形をした何かは、フィーアに向かってナイフを突き出した。


「フィーアのまねをするのはやめるんだ!」


 いくら姿はフィーアでも敵であるからには容赦しない。

 家族の姿をまねして騙そうとするこいつは間違いなく敵だ。

 アインが刀を構えて全力で切りかかろうとした時だった。


 刃が当たる寸前で、相手の姿が変化する。

 瞳の色はそのままに金色だった髪がルビー色に変わり、キツイ眼差しになった相手はアインに向かってこう叫んだ。


『ちょっと犬!あんたまさか私に攻撃するんじゃないでしょうねっ!!』


「く・・・っ!?」


 相手が唐突にドライの姿に変わったことで動揺したアインは、思わず刀を引いてしまう。

 本人よりも悪意に満ちた笑みを浮かべたドライの姿の何かは、再びナイフを突きだした。


「アインっ!!」


 とっさにソフィが風の障壁を発生させ、アイン自身も慌てて刀を構えたもののナイフは正確にアインの腕を切り裂く。


「ちょっと、あんた何やってんのよ!私の姿でアインに攻撃してんじゃないわよっ!!」


「大丈夫だドライ、あれは君じゃない!」


 半泣きで叫んだドライをなだめるように、アインは傷口を押さえながらも言葉をかける。


『避けたらだめじゃない犬、あんたは私の言うことを聞いていればいいのよ。』


 にやっと笑ってもう一度突きだされたナイフが、再びアインに刺さりそうになる。


「馬鹿言うんじゃないわよっ!

 こいつは私の言うこと聞きそうで聞かないから放っておけないんでしょう!?」


 相手に向かってそう叫ぶとドライがアインを庇うように前に出た。

 アインはそれを止めようとしたが間に合わない。


「ダメだドライ!!」


 ドライの細い身体にナイフが突きたてられるよりも早く、爆発が起きた。

 アハトが放り投げたマイクログレネードが、敵のすぐ近くで爆発してナイフが吹き飛ぶ。


「大丈夫か?」


「助かったよアハト!」


 礼を述べると、アインはすぐにドライを引き寄せて自分の後ろに庇う。


「ドライはそんなひどいことしないもん!」


 それを見て怯えているわけにはいかないと勇気を振り絞ったフィーアが、魔法を唱えて相手を足元の粘液ごと凍りつかせた。


「あんたに本当の悪意ってものを見せてやるわよっ!!」


 それに合わせるように、ドライがアインの刀に『悪意』を付与する。


「犬っ!かまわないからやっちゃいなさい!」


 ドライの声に反応するようにアインが動いた。

 動きを封じられた相手は、今度こそアインの刀に斜めに切り裂かれる。

 悲鳴すら上げることなく真っ二つになったそれは、どろりと液体化して下に流れて行った。


「やったわねアイン!くそ野郎は滅んだわ!!」


「ああ、悪は滅びた!」


 ドライとアインがハイタッチをして勝利を分かち合うと同時に、中央に落ちて行ったそれが音を立てて蒸発した。


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