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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第4話 第3章 『研究施設に残されたモノ』 ②

今日も蒸し暑いですね(;´Д`)ハァハァ

『○年○月△日。私がこれから研究を進めて行くにあたって、日記を記して行こうと思う。

 私たちの研究で生命というものがどこまで高みを目指せるかという挑戦を記すと共に、その偉業が完成した時の研究資料として残そう。』


 日記の最初のページだったと思われるその残骸を、フィーアがみんなに向かって声に出して読み始めた。

 棚を漁ったり何かを調べたりしながらも、皆はそれに耳を傾ける。 


『ただ、最近の研究はとてもつまらない物として進んでしまっている。

 一般的に賢者の石というものは我々錬金術師の夢のように語られているが、それがなんだというのだ。

 どんなに褒め称えたところで賢者の石は単なる触媒でしかなく、人間はそれだけで秘めたる力を持っているというのに。だが、まあそれも全ては上の決定だ。

 一研究者の私が出来ることは、それを完成させた後の次点を考えることが限界だろう。

 まったくつまらない話だ。』


「まさか、これは・・・フィーア、僕が以前、父さんたちの部屋から持ってきた資料はまだそうちゃんの中に入っているかい?」


 後ろからのぞき込んでいたアインがそう尋ねると、フィーアはこくりと頷く。


「うん、ここにあるの。」


 抱いていたクマのぬいぐるみの中から、アインが以前、施設長室の隠し部屋から見つけてきた資料を出して手渡す。

 それを見てすぐにアインがこう言った。


「やっぱり・・・字が同じだ。」


「え・・・!?これを見て誰が書いたのかわかったのかい兄さん?」


 アインの言葉にさすがのツヴァイも驚いたようにその2つを見比べる。

 古びた羊皮紙に書かれた文字とこれらの日記の文字は酷似していた。


「なるほど・・・前に見たものをよく覚えていたね、兄さん。」


「なんていうか、懐かしい感じがする字だったからさ。」


 アインとて今まで見たもの全てを覚えている記憶力は持ち合わせていない。

 ただ、あの隠し部屋で見つけた羊皮紙の字を見た時に、郷愁というか、なぜか懐かしい感じがしたのだ。

 そして今、目の前にあるそれを見た時にも同じものを感じた。


「確かに似ているけど、これだけだと何とも言えないわね。

 先をフィーアに読んでもらいましょう。」


「お願い出来るかい?フィーア。」


 ツヴァイに促されると、フィーアは次のページを声に出して読み始めた。


『○年○月○日。賢者の石の被検体が決まったらしい。』


 その書き出しに、アハト以外の全員が緊張した雰囲気を見せた。


『まったく、賢者の石などというわけのわからないものに、彼女の子供を使うとは何を考えているんだ。』


「彼女の、子供・・・?」


 皆の疑問を誰かが小さくつぶやく。


『私はこれから抗議しに行くことにする。』


「・・・えっとね、ここから先はすごく乱暴な字で書いてあってうまく読めない。」


 フィーアが言うにはそのページは書きなぐるようにして書かれているらしい。

 解読できたのはそこまでのようだった。


「そうか、次のページは読めそうかい?」


「うん!」


 フィーアは最後のページを手に取ると同じように声に出して読み始める。


『○年○月×日。

 残念ながら私の提案は受け入れられなかったようだ。

 所詮、今の主力は賢者の石の派閥だということか。

 彼女ももちろん反対していたようだが、組織には逆らえない。

 今の私にできることは、この賢者の石の実験が成功するように死力を尽くすことだけだ。

 願わくは、彼に何も起きなければいいのだが。』


「どうやらこの研究者は賢者の石の研究に深く携わっていたみたいだね?」


「賢者の石の実験っていうと僕かツヴァイのことなのかな?」


「いや・・・これだけだとまだわからないな。」


 アインの言葉に頷けない何かがあるのか、ツヴァイは少し悩むように腕を組んだ。


「そうね・・・アハト、あんた心当たりはないの?」


 一人だけつまらなそうに、棚に残っていたホムンクルスの頭蓋骨を放り投げて遊んでいたアハトにソフィが話しかける。


「さあな。」


「さあなって・・・あんたも賢者の石の研究をしていたんじゃないの?」


「アルスマグナはでかい組織だからな。

 賢者の石に携わるっていうだけならそれこそ五万と研究者がいる。」


「それはそうかもしれないけど・・・」


 本当に知らないのか話す気がないのか、アハトはこちらのことには興味がなさそうだ。


「でもまあ、珍しい奴だとは思うぞ。」


「え?」


「賢者の石にとりつかれた研究者は数多くいるが、それを真っ向から否定する奴はそうはいない。

 しかも賢者の石の実験に関わる機会を与えられてそう言い張れるっていうのは、よほどの馬鹿か天才のどちらかだ。」


「なるほど?で、その馬鹿に心当たりは?」


 その問いかけにアハトは上に投げては掌で受け止めていた骨を棚に戻して、真顔でこちらを見た。


「悪いな、俺も一度死んだせいか記憶に混乱が生じている。

 何か思い出せそうな気もするんだが、それがはっきりとは浮かんでこないんだ。」


「ええ!そうだったのかいアハト!?」


「そうだったの・・・ごめん、ちょっと無神経だったわ。」


「いいや、別に気にしちゃいないさ。」


 心配そうに自分を見る他のメンバーと謝るソフィに、アハトはにやりと笑ってみせる。


「じゃあ、この資料はそうちゃんにしまっておくね。」


 フィーアはそうちゃんの背中のチャックをジーっと開けると、その中に修復した資料をぐいぐいと詰め込んだ。


「ねえ、いつも不思議なんだけどそれって中の草原に落ちちゃってるの?」


 フィーアはそうちゃんの中にいつも資料をしまっているのだが、同じところに入れているとすれば子供たちの目に触れてしまうのではないか?

 そんなソフィの心配をよそに資料を詰め終わったフィーアは笑顔で。


「大丈夫~、そうちゃんの資料スペースにしまってあります♪」


 資料スペースと言うのがいったいどういう物なのかは分からないが、どうやら別に入れる場所があるらしい。


「それじゃあ、ここにはもう何もなさそうだし先に進もうか。」


「おーう!」


 ツヴァイが言うとアインが元気よく答える。

 全員がそれに続いて歩きだしたのをドライはどこか遠い目で眺めてから、視線を廃棄物の置いてあった棚に移した。


「・・・ばかね、おじちゃん。こんなところに残しておくから読まれちゃったじゃない。」


「どうしたの?ドライ~!」


 移動している途中でドライがいないことに気付いたのか、フィーアが声をかける。


「なんでもない、今そっちに行くわよ!」


 ハッとしたように顔をあげると、ドライは皆の方に走っていった。


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