ホムンクルスの箱庭 第4話 第2章 『始まりの箱庭』 ⑤
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「念のため全員に飛行魔法をかけておくわね。」
ソフィがいつものように全員に妖精の鱗粉をかけてくれ、2組ずつ順に降りて行くことになった。
「よし犬!私を肩に乗せなさい!」
「おーう!」
最近すっかり定位置となっている肩の上にドライが乗ると、アインは念のために新しく下におろしたロープを伝っており始める。
「ていうか、こわーい!くらーい!こわいっ!」
暗くて狭い場所が苦手なドライはキャーキャーと悲鳴を上げるが、ヘッドライトをつけたアインはドライを乗せたままどんどん下に降りて行く。
「フィーア、僕と一緒に行こう。」
「うん!」
ツヴァイにしがみつくようにしてフィーアが抱きついた。
落ちないようにしっかりと抱き寄せると、ツヴァイもそれに続いて下におり始める。
「さてどうする?おんぶでもしてやろうかソフィ。」
「おあいにく様!いくら私が小さいからってお子様扱いはごめんだわ。」
にやにやと笑うアハトにソフィが珍しく機嫌悪そうに答えて先に行こうとする。
すると・・・
「え?ちょ、ちょっとアハト!」
「誰も子供扱いするとは言っていないだろうが。」
ひょいっと抱き上げて換気口の中に飛び込んだ。
「ひゃっほー!」
「うひゃああ!?」
そのまま落ちるかに思えたが、飛行魔法をかけていたのでさすがにそれはなかった。
「おいおい、自分で飛べるのに怖いのか?」
「たとえ飛べてもいきなり飛び込まれたら驚くわよ!」
さっきから心臓に悪いことばかりされて、ソフィとしては踏んだり蹴ったりだ。
はあっと大きくため息をついて、ソフィは仕方なくアハトにしがみついた。
先頭のアインとドライが無事に通り抜けてすぐ、ファンが軋むような音を出し始める。
「ツヴァイ、ぎゅーってしてて?」
「了解だよ。何があっても絶対に離さないから安心して。」
ツヴァイに優しく笑いかけられると、フィーアは安心したように笑って再びファンを凍り付かせた。
全員が下の施設におりた後、重い音を立てながらまたファンが回り始める。
「下も明かりがついてない!
しかも犬!あんたがでかいから余計に狭いー、暗い!こわいー!!」
「大丈夫だドライ!ここに明かりがあるよ。」
アインが頭に付けたヘッドライトを指さすとドライは、はふー、はふー!と気持ちを落ち着けるように数回深呼吸する。
2メートル半四方の部屋はアインが大きいことと、6人もいることによってかなり狭く感じられた。
「とにかく、まずはここを抜けましょうか。」
下に着いた瞬間に、アハトから離れたソフィはさっさと歩き出す。
「あ、待ってソフィ危ないよ!」
それを見て慌ててアインが後を追いかけると、他のメンバーもそれに続いた。
部屋は先の廊下とつながっているのだが、そちらからは機械音がする。
残念ながら先は暗くなっていて見えないのだが、装置の部品か何かなのだろうか。
機械が振り子のように揺れる音と熱処理でもしているのかスチームのような音、それとプレス機のように重い何かが落ちてくる音が繰り返されている。
「とりあえず先が見えるようにたいまつでも投げてみるよ。」
道具袋の中から取り出してつけたたいまつを、アインが下をスライディングさせるようにして投げ入れた。
たいまつはぎりぎりのところで向こう側に抜けてあちらの様子が見える。
「ここを抜けた先は安全地帯みたいね。」
「といっても、兄さんがここを抜けるのはちょっと難しそうだ。」
降りた部屋とあまり変わらない狭さの通路を、障害物をかわしながら通り抜けるのはかなり難しそうだ。
距離にすれば10メートル前後といったところだが、これだけ大掛かりな装置だと先ほどのようにフィーアの魔法で凍らせるのは少し無理がある。
すると・・・
「ソフィ、ここに石がある。」
「ええ、そうね。」
先ほど部屋までの高さとファンの位置を確認するために換気口から入れた石を、アハトが拾ってソフィに差し出した。
それだけのやり取りで察したのか、石を受け取るとソフィが魔法を使って細工をする。
「それをいったいどうするんだい?」
アインが不思議そうに尋ねると、アハトがにやりと笑みを浮かべる。
「なあに、こうするのさ。」
ソフィから受け取ったそれを、アハトは華麗なフォームでたいまつと同じように投げ入れた。
危なげなく3つの障害を通過した石は計算されていたかのようにたいまつの横に転がる。
それと同時に向こう側に移動魔法の起点が発生した。
「さ、ファンのおかげでぎりぎり風も通っているし、何とか移動できそうよ。」
茶目っ気たっぷりに片目をつぶると、ソフィは風となって全員を向こう側に移動させた。
狭い通路を先に進んで行くと、今度は金網が左右をふさいでいる場所に辿り着いた。
それには触るな危険、と書かれたプレートが取り付けられている。
2つの金網の間は通路になっておりそれに触れさえしなければ、これといって危険なものはないように見えた。
しかし、先頭を進んでいたアハトが全員を手で制して止める。
「感知式のセンサーだ。触るとトラップが発動するぞ。」
どうやら、高圧電流の流れている金網の奥の装置から、触れると罠を発動させるレーザーを発生させているらしい。
「どうやって抜けようか?」
「ふむ、ソフィ、フィーア、おまえたち鏡は持っているか?」
「まあ、手鏡くらいは。」
「私も、くまさんの鏡。」
ごそごそと荷物を漁ると、ソフィは普通の手鏡を、フィーアはくまのキャラクターが描かれたかわいらしい鏡をアハトに手渡した。
右手と左手に鏡を外側に向けるようにして、アハトはレーザーを左右の鏡ではじき返す。
「さあ、今のうちに通るんだ!」
「あんたがグレネード使わないで頭を使うと、なんだか少し違和感があるわね。」
「えー・・・そこ通るの?なんかいやなんだけど。」
アハトが両手に鏡を持って狭い通路を封鎖しているのだから当然、弊害はある。
具体的にはアハトの股の下をくぐらなければならない。
「我慢しなさい、正直、私もすごく嫌だけど。」
ドライの文句に対して諦めたように言ったソフィが、先陣を切ってアハトの股下をくぐりぬけた。
「フィーア、絶対に途中で立ち上がったらだめだよ?」
「うん、気をつけるね~。」
続いてツヴァイとフィーアがくぐりぬけ、ドライが通り抜けようとした時だ。
「あ、ネズミさん。」
「いやあああ!どこにいるのよー!?」
足元をネズミが走り抜けたのをフィーアが見つけたらしく嬉しそうに言うと、ドライが大慌てで立ち上がろうとした。
ちょうど股下を通り抜けているところだったので、アハトの股間に立ち上がりかけたドライの頭が強打される。
「ぐふうっ!!」
アハトが悲鳴をあげてよろめいたがなんとかその場にとどまった。
「ちょっとやだー!今なんか頭に変な感触が!変な感触がーっ!!」
「よかったねドライ、アハトが以前の機械の身体だったらすごく痛い思いをしていたよ!」
「よくないっ!機械の方がまだマシだったわよっ!!」
アインのフォローにドライは涙目で叫びながら股下を通り抜けた。
「よし、それじゃあ僕も早速・・・」
「ま、待てアイン!早まるな。おまえの巨体で俺の下を通り抜けるのは・・・ぐふっ!!」
自分の巨体を理解していないのかアハトの股下を通り抜けようとしたアインの頭が、再びアハトの股間を強打した。