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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第4話 第2章 『始まりの箱庭』 ①

夏休みになりました~(*´∀`)♪

自分にはもう縁のないものですけど、なんとなく心が踊りますね(`・ω・´)

 馬車を走らせること数日、山の中の小道を抜けた先にその村はあった。

 寂れて無人となった村は、どうやらかつては錬金術の施設があったらしい。

 ところどころにそんな痕跡が見られる。


 森の中、柔らかな光に包まれる村の様子は、かつては人々が穏やかに暮らしていたであろうことを連想させた。

 廃墟とも呼べる建物や柵には自然に生えた蔦が張り巡っており、ここに長い時間、誰も立ち入ることがなかったことを感じさせる。

 かつては舗装されていた石畳の小道にも雑草が生い茂っていた。


 まだかろうじて原形をとどめている家などの建物も、朽ちて天井が落ちていたり壁に穴が開いたりと、とても人が住める状態には見えない。

 ガラスもほとんどが割れ、家の中には蜘蛛の巣があちこちにかかっている場所もあった。

 廃墟と化した無人の村。

 ここが、ジョセフィーヌとクリストフの言う『始まりの場所』だというのか。


「これは・・・いかにも捨てられた村って感じね。」


 着いてそうそうにソフィが口にしたのは、そんな言葉だった。

 村を見渡すと見慣れた白い建物が、まだそれほど形を失わずに残っていた。

 アルスマグナの実験施設。

 一目見てそれが何か分からない者は、少なくともこの場にはいない。

 それでも、原形をとどめているのは建物の形くらいで、その壁には他の家と同じように蔦がびっしりと張りつき、窓ガラスも全て割れてしまっていた。


「あれ・・・?」


「どうしたの?フィーア。」


 隣に並んで村を眺めていたフィーアが小さく声をあげたことに気付き、ツヴァイが慌てて話しかける。


「えっと・・・なんだか、懐かしい・・・?」


 どこか戸惑った様子でフィーアはそんな言葉を口にした。


「フィーアもか、実は僕もさっきから何となく懐かしく感じていたんだ。」


 どうやらアインもこの場所に懐かしさを感じているらしい。


「そうなのか・・・僕は、この場所に関してはよくわからないな。」


 どこか残念そうにツヴァイが呟く。


「とにかく、手分けして村の中を見てみましょう。

 ある程度散策し終わったら中央のあの施設で合流でいいかしら?」


「ああ、そうだね。」


「そうね・・・犬っころ、一緒に行くわよ。」


「おう!」


「じゃあ私たちも行きましょうか、アハト。」


「ああ、いいだろう。」


 アインとドライ、ソフィとアハトは2手に分かれて村を散策し始めた。

 それを見ていたフィーアはツヴァイの顔を覗き込んで話しかける。


「ツヴァイ、どうしたの?大丈夫・・・?」


「あ、いや・・・大丈夫だよ。一緒に行こうか、フィーア。」


「うん!」


 ツヴァイが差し出した手を、フィーアは嬉しそうに取る。


「馬車のことはわしに任せて村を見てくるといい。森の安全そうな場所に移動させておくわい。」


「うん、おじいちゃんいってきま~す!」


 馬車の御者席から手を振るグレイに元気よく手を振り返して、そうちゃんを片腕に抱きしめたままフィーアもツヴァイと共に村の中に入った。




「なぜかしらね・・・」


「ん?」


 朽ちた家の中、木漏れ日が差し込むその場所に落ちていたぬいぐるみを拾い上げてから、ソフィは振り向いた。


「私はこの村に関しては知らないと思う。他の子たちみたいに懐かしさも感じない。」


 拾ったぬいぐるみはぼろぼろだった。

 長い時間雨ざらしにされて布は腐食し、色も変色してしまっている。


「でもね、すごく不思議な感覚なんだけど。

 入口に立った時に、この村はすごく平和だったんだなって思ったの。」


「ほほう。それはどういうことだ?」


 それを聞いたアハトは面白いと言うように目を細めてみせる。


「なんていうか・・・私たちがいた村もそうだけど、今まで錬金術の施設のあった村や町には独特の雰囲気っていうものがあった。」


 ぬいぐるみを棚の上に戻し、ソフィは言葉を続ける。


「絶対に抜け出せない要塞。それが幼い頃から私が感じていた印象よ。」


 施設だけではない。

 村や町そのものが、中から人が出ることを許さない作りになっていた。

 閉じ込められた狭いその場所で、子供たちは皆、息をひそめるように生きていた。


「でもこの村は違うわ。

 確かに、人里離れた場所に作られているっていう点では、逃げ出すことは難しいのかもしれないけれど・・・」


「ふむ、ここは今までの場所とは何かが違うっていいたいのか?」


「ええ、ここはまるで箱庭だわ。」


「箱庭?」


 ソフィの不思議な例えにアハトはいぶかしげな表情をする。


「誰かが丹精込めて作った箱庭。誰かにとってとても大切だった場所。

 そんな気がするの・・・。」


「なるほどな。」


 納得したように頷くアハトを見ながら、今度はソフィが問い返した。


「・・・で?私にばっかり語らせてないで、あんたもそろそろ口を割ったらどうなのよ。」


「何をだ?」


「ごまかさないで。

 いつもならなんだかんだでろくでもない感想とかどうでもいいこととか、そういうのを言わずにいられないあんたが、この村に来てから一言も話さない。」


 ソフィが睨みつけるようにしてそちらを見ると、アハトはとぼけるように。


「こんな平和な田舎町と俺とじゃ、イメージはだいぶかけ離れていると思うがな。」


「・・・本当に何も言わなくていいの?」


「それよりソフィ、おまえこそ何か心配なことがあるんじゃないのか?

 相談に乗ってやるぜ。」


 にやにやと笑いながら言うアハトに、ソフィはべーっと舌を出して見せる。


「おあいにく様。十分とは言えないけど、一応は解決策を見出そうとしてるところよ。」


 それを聞くと、アハトはどこかほっとしたような笑みを浮かべた。


「そうか、おまえがおまえであるならそれでいい。」


「何言ってるのよ、あんたが教えてくれたんじゃない。

 何があろうと自分は自分だって。」


 ソフィはいたずらっぽく笑って答える。

 アハトが一度死んだことに関しては本当に大変だったが、それなりに得た物もあった。

 その一つがこの答えだ。


「まあそれはともかく、その程度でごまかされてなんかあげないわよ?」


「そうだな・・・実際のところソフィはこの村のことを何も知らないだろうから、俺がお前に正直に話してやってもいいかもしれない。」


「あら、意外と素直じゃない。さっきまで渋ってたくせに。」


「なあに、一人だけ仲間外れっていうのも気分が良いものじゃないだろう?」


「そりゃあね。」


 施設長たちは言っていた、ここは始まりの場所だと。

 だとするなら、自分以外の仲間たちがここにいたであろうことは明白だ。

 それなら知りたい。

 なぜならそれは、自分の家族たちのことなのだから。

 

 ふうっと軽く息を吐いた後、アハトはどこか懐かしそうな目をして語り始めた。


「それじゃあ、今から昔話をしてやろう。

 遠い昔、まだ全ての歯車が狂う前のこの平和な村の物語を。」


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