ホムンクルスの箱庭 第4話 第1章『始まりの場所を目指して』 ④
今日も暑いですね~(;´・ω・)
熱中症には気を付けてください(´-ω-`)
「ねえ、フィーアちょっと・・・」
「ひゃあ!?」
ソフィがフィーアの元に行くと、彼女は何かしているところだったらしい。
後ろから声をかけると面白いくらいにびくっとはねて、手元にあった物を慌てて隠した。
「何やってたの?」
「あ・・・ソフィでよかった~。」
「ああ、なるほど。」
察しのいいソフィはそれだけで状況を理解した。
どうやらフィーアはツヴァイのために何かしていたらしい。
「こ、これは内緒にしてほしいの・・・」
フィーアは後ろ手に何かを隠している。
ペンダントか何かだろうか?
その手には鎖のような物が見えた。
「わかってるわ、ツヴァイに内緒ね?」
「うんうん!」
片目をつぶって人差し指を口にあてるソフィに、フィーアは嬉しそうに頷いてみせる。
「それで、どうしたの~?」
ほっとしたようにして笑ってから、フィーアがソフィに尋ねた。
「施設長たちと話がしたいんだけど、そうちゃんの中に入れてもらえないかしら?」
「はい、どうぞ。」
こくこくと頷くと、フィーアは近くにおいてあったそうちゃんをソフィに向けた。
ソフィの身体が光に包まれその場から消える。
気がつくと、ソフィは例の草原に立っていた。
何度経験しても不思議な感覚だ。
あのぬいぐるみの中にこんな空間があるなんて。
草原も外と同じように夜だった。
驚いたことに空には星が輝いている。
その上、ツヴァイが用意したのか、アインたちが作ったのかはわからないが、いつのまにか大きなコテージのような物まで用意されており、レンガ造りの煙突からは煙が出ていた。
おそらく、施設長たちも子供たちもあの場所にいるのだろう。
意を決して、ソフィはその建物に入って行った。
中に入ると夕食後だったのか、クリストフはキッチンで食器を洗っており、ジョセフィーヌは暖炉の前で分厚い専門書のようなものに目を通していた。
「施設長夫人、少しいいですか?」
ソフィがジョセフィーヌに話しかけると、クリストフはちらっと視線を送ったが、すぐにフッと笑みを浮かべて食器を洗う作業に戻る。
「で、私に何の用?」
「少し・・・ヌル、いいえ、私のことで確認したいことが。」
「そう、今更知ったところで、何がどうなるものでもないと思うけど。」
冷たい口調で言いながらも、ジョセフィーヌは読んでいた専門書に栞をはさむとテーブルに置いてソフィを見た。
どうやら、話を聞いてくれるようだ。
視線でテーブルをはさんで対面の椅子に座るように促され、ソフィは暖炉側の椅子に座る。
「何を聞きたいわけ?あなたが聞いたことにだけ答えてあげる。」
いつもの突き放すような口調でそう尋ねられると、ソフィは聞きたいと思っていたことを素直に口にした。
「私は、あの場でヌルに明らかな操作を受けたわ。
あなたが知る限り、ヌルにそういう能力はあるの?」
「知っているかという意味では答えはイエス。ただし、詳しい事情はノーよ。
どうやって行ってるかは知らない。
ただ彼はそういったことができる。
それこそ、彼は世界の全てを取り入れて王になることも可能だと私は考えていたわ。」
世界の全てを取り入れる、その言葉がソフィの中でひっかかった。
おそらくはヌルが相手を操るには、自分の中に取り入れる必要があるとこの人は遠まわしに教えてくれているのだろう。
だとするならば・・・
「・・・やっぱり私は、あの時、死んだのね?」
アハトが自分を救うために爆死したあの数年前の出来事。
今思い返せば思い当たることがあった。
あの時、後ろからかけられた声に振り向いた時に見た紅い瞳、それこそがきっと・・・。
「さあ?今あなたがここに存在している以上、生きているんじゃないの?
生命体として存在していて、生命活動を維持しているんだから。
ただ、それがあの方の意思ですぐに止められるかどうかまでは保障できない。」
だが、予想に反してジョセフィーヌから帰ってきた言葉はそれだった。
「・・・ありがとう、ためになったわ。」
そのことに少し驚きつつも、ソフィは礼を述べる。
「あら?聞かないのね・・・あなたこれが聞きたかったんじゃないの?
あなたは本当にあなた自身なのかって。」
「聞かないことにしたわ。
私は今のアハトが以前のアハトと変わらないって信じてる。
だから、今の私も私でしかないってそう思うことにしたの。」
口元に笑みを浮かべて答えたソフィをつまらなそうに眺めてから、ジョセフィーヌはまた本を読み始めてしまう。
「そう・・・つまんないわね。
あなたがそう尋ねてきたなら、なんてつまらないことを聞くのかしらと鼻で笑ってやるつもりだったのに。」
「ちょっと前だったら聞いていたかもね。
だったらそのつまらなかった分、一つ協力してもらえないかしら?」
いぶかしげな顔で見つめるジョセフィーヌに、ソフィはいたずらっぽい笑みを浮かべてみせた。
アインが再び訪ねた時には、グレイが大いびきをかきながら眠っているところだった。
目の下にはクマがあり、彼がほとんど寝ていないことを示している。
おそらく、例の村に着く前にとかなり無理をして装置を完成させてくれたのだろう。
「アイン、おまえに言われたとおり、この斥力場装置を使えるようにしておいた。」
いつもと変わらないように見えるアハトは、斥力場装置を搭載した小手を手渡してくれた。
「ありがとう。」
「正直言うと出力調整がうまくできてないからなんともいえないが、まあ、お前なら使えるだろう。」
実際のところ、どういう原理で斥力場が発生しているのかはまだ解明できていないらしい。
「アハトとグレイさんが作ってくれたんだ、絶対にうまくいくよ!」
それにもかかわらず、アインは明るい調子で答えてみせる。
「ああ、俺もうまくいくと信じているぜ。
それとだな、万が一のことがあった時はここのボタンを押すといい。」
「ちょっとあんた何つけたのよ!?」
一緒に様子を見に来ていたドライが、思わず小手を奪い取って調べ始める。
「まさか爆発するんじゃないでしょうね?!」
「何言ってるんだ、小手が小手でしかないこと自体がつまらんのだよ。」
ドライの至極まっとうな意見に対し、心配でしかない答えが返ってきた。
「ちょっと!爆発する小手なんてつけたくないわよ!
爆弾外しなさいよ、ぶっ殺すわよっ!!」
「なあに、問題ないさー。言っておいてやるが爆発するわけではない。」
「ほ、本当でしょうね・・・?意外だわ。
爆発しない物をあんたが作るなんて頭がおかしくなったの?」
驚いたように言われて、アハトは心外だと言うように首を横に振る。
「おまえこそ何を言ってるんだ・・・俺はいたってまともだぞ。」
「わかった、いざって時に押せばいいんだね!」
「ああ、押すがいい。その時が来ればわかるさ。」
「何が起きるんだろうわくわく!」
「あんたよくのんきにしてられるわね・・・こいつが作ったっていうのに。」
そんな会話をしていると、クリストフとジョセフィーヌがその場に現れた。