ホムンクルスの箱庭 第4話 第1章『始まりの場所を目指して』 ①
今日からまた金曜日までがんばりま~す(`・ω・´)
森の中を走る馬車の御者席にアフロのグレイが座っていた。
その表情は無表情で、諦めているのか悟っているのか今一つ分からない。
さらに馬車の荷台の方からはフィーアの泣き声がした。
「ふぇ~ん・・・もうお嫁にいけないよう・・・」
爆発の影響でツインテールがほどけてしまったため、腰までのロングヘアーのフィーアにとっては髪がアフロになるのは大惨事だった。
「だ、大丈夫よ!爆発で傷んでるのが原因だから回復魔法で・・・!?」
「フィーア、フィーアすぐ治してあげるからね?く・・・これはもう時を戻すしか!!」
ボンバーヘッドになってしまったフィーアの髪に、やはりアフロのソフィは回復魔法をかけ、隣では同じくアフロのツヴァイが必死で櫛を通そうとしている。
「あんたどーいうことよ!どーいうことよっ!!
何がアハトを信じろよっ!みなさいよこれ!どうしてくれるのよ!?
ちょっと!このままだと私の悪意が爆発するわよっ!!」
「おうふ!」
アインをけたぐりまわしているドライが爆発しているのは、悪意ではなく頭だった。
黒服の男たちが来るのが怖いので伏せ文字にするが、○ッキーマウスよろしくツインテールが2つの巨大アフロになってしまっている。
ちなみに主犯のアハトに関しては、ソフィがフィーアに回復魔法をかけながらけたぐり倒していた。
「や、やめろっ!やめるんだソフィっ!俺はもう生身なんだぞ!ぐふ・・・っ!」
乙女たちの髪をアフロにした罪は重かったようだ。
ようやく全員のアフロが落ち着いた頃、ツヴァイが真剣な表情で口を開いた。
「皆も気づいているとは思うけど、ヌルの気配がずっと僕たちを追ってきている。
たぶんあれは、周りのものを吸収しながら広がりつつあるんだ。
このまま逃げていてもいつかは捕まってしまう。
僕たちが平和に暮らすためには、あれをどうにかしなきゃいけない。
皆はどう思う?」
その問いかけに、最初に答えたのはアインだった。
「僕もそう思うよ。」
アインの言葉を聞いてから、フィーアは怯えたように小さく震えながらうつむく。
「私、は・・・アレにはもう近づきたくないの・・・」
今にも泣きそうなフィーアを見て、ツヴァイは困ったような表情をしながらも抱きしめた。
「そっか・・・アハトとソフィは?」
「ああ、何とかしてやらないとなぁ。あの子を。」
「ええ。昔の借りを返しにね。それに、これからのことも考えないと。」
アハトはどこか遠い目をしたまま、ソフィははっきりと頷いてみせる。
5人がそれぞれの答えを返したのを見てから、母親、ジョセフィーヌが口を開いた。
「・・・無駄よ。あの方に勝てるはずがないわ。
あなたたちの力は認めるけど、あの方の力はもう人間が遠く及ばないところまで行ってしまっている。」
「確かに、今の君たちでは彼に勝つ可能性は万が一にもないね。」
それに続けるように父親、クリストフが全員を見渡しながら言う。
子供たちはぬいぐるみのそうちゃんの中にまだいるが、2人とは今後のことに関してもいろいろとあるので話し合いに参加させていた。
「ああ、わかっている・・・全てはアインにかかっている。」
自信ありげに答えたアハトに、クリストフは驚いたように尋ねる。
「何か知っているのかい・・・!?」
「いや、俺はただ単に思い付きで賢者の石に対抗するなら賢者の石だと思っただけだ。」
「おもいつき・・・」
全員のしらーっとした視線が注がれるがアハトは特に気にしていないようだ。
食料袋の中にあった人参でアハトのわき腹をどつきながら、ソフィは改めて尋ねる。
「今の私たちでは、といったわね。施設長、あなたは何を知っているんですか?」
「僕の知っていることはそこまで多くはないけれど・・・そうだな。
もともと君たちは・・・特にアイン、ツヴァイ、ドライ、フィーアに関してだが、今持っているスペックよりも高いものを目指して造られているらしい。
本来の力を引き出した君たちが協力すれば、規格外である彼と同等に戦うことができるくらいにはね。」
「な、なんだって・・・!それは本当なのかい父さん?」
「そうだね、言い方を変えるとこうだ。
ヌルはそもそも単体で完全な生命体を目指して作られているらしいんだが、君たちはそうじゃない。
確かにアインは個体としての強さを求めて造られたが、それすらも全てを合わせて一つの完成した形を目指して造られたんだ。」
クリストフが何を思ったのかは分からないが、次の言葉を口にした彼はどこか悲しげにも見えた。
「まあもっとも、その力が使えるようになったところで君たちに幸福が訪れるかどうかは分からないが・・・」
少し沈黙した後、彼は一枚の地図をアインに手渡した。
「でもそうだな・・・もし君たちが彼の追跡を逃れたい、もしくは彼をどうにかしたいと思うならばここに行ってみるといい。」
「父さん、これは・・・?」
「これは・・・全ての始まりの場所さ。」
「始まりの場所・・・」
「ここで君たちが真実と向き合うことができたなら、あるいは彼と戦う力を手に入れられるかもしれない。僕に言えるのはそれだけだよ。」
それを聞いたアインは何かを確認するように、決意した表情で皆を見渡した。
そんなアインの様子を見て、ツヴァイはフィーアを抱きしめながら頷く。
フィーアも怯えた表情ではあったが小さく頷いた。
ソフィもアインをまっすぐに見つめ返してからアハトに視線を送る。
それを受けてアハトは大きなため息をつきながら一度だけ確認するようにじっと見つめた。
「アイン・・・本当に行く気なのかおまえ。」
「もちろん。」
まるで値踏みするようにアインを見つめていたアハトはその返事を確認すると、尋ねた時とはまるっきり違う軽い雰囲気でアハトは御者席にいるグレイに向かって声をかける。
「・・・わかった、よし!じじい、早く行こうぜ!」
「そうじゃのう。皆で平和に暮らすためにも頑張ってみるかのう。」
「老い先短いんだから、頑張りすぎるなよ。」
「短くないわいっ!!」
いつもと変わらない雰囲気に戻った全員を見ながら、アインは一瞬だけ物思いにふけってしまう。
そのことに気付いたのだろう。
「何?どうしたのよ犬っころ・・・」
「いや、なんでもないんだ。」
心配そうに顔を覗き込んできたドライに、アインは笑顔で首を横に振った。
本当は何でもなくはない。
ここにいる皆を守らなければならないという気持ちの他に、何か引っかかるものがあった。
ヌルを倒さなければならない。
そう思う度に彼の姿がちらちらと頭をよぎってしまう。
それがいけないことだと分かっていてもだ。
「ドライ、そういう君こそ大丈夫なのかい?さっきから黙りっぱなしだけど。」
いつもなら何かしら言いそうなものなのだが。
その質問に対し、ドライは何だかものすごく複雑そうな表情をしてからいつもの強気な表情に戻って。
「うるさいわね。なんでもないわよ!
・・・犬っころのくせに余計な心配しなくていいんだからね。」
そんな風に言って背中を向けてしまった。
何か悪いことでも言ってしまったかとおろおろするアインに、聞こえないくらい小さな声でドライは呟く。
「あの場所に帰る日が来るなんて・・・思いもしなかった。」
その表情はどこか悲しげでそれでいて、それでも懐かしそうに遠くを見つめていた。
「ごめんね、フィーア・・・勝手に決めてしまって。」
「ううん、大丈夫。」
フィーアが先ほど頷きながらも怯えていたことに気付いていたツヴァイは、彼女を抱き寄せて声をかけた。
「怖いのは分かるんだ。でも・・・僕は君を守り、君を助けに行きたいんだ。」
「・・・?私はここにいるよ。」
言葉の意味が理解できないのだろう。
フィーアはどこか不思議そうにツヴァイをじっと見つめる。
その瞳にはやはり怯えの色はまだ残っていたものの、ツヴァイのことを信じ切っているようだった。
「そうだね、君はここにいる。でも、あそこにもいるんだよ。」
困ったように微笑むツヴァイに、フィーアはただ小さく首をかしげることしかできない。
「今は分からなくてもいい・・・でも、僕を信じて?君は必ず僕が守るから。」
それを聞くとフィーアは何も言わずに、ただツヴァイにぎゅっと抱きついた。
信じていると言葉にせずとも伝えるように。
応えるようにフィーアを抱きしめながら、ツヴァイもまた心の中で誓っていた。
たとえどんな手段を用いることになっても自分は必ずフィーアを守り、紅音を助け出してみせると。
ズキっと鈍く心臓が痛んだ気がしたが、ツヴァイはそれに気付かないふりをしていつものように微笑んだ。