第8話
午後、テディに初めてのおつかいを頼まれた。
「チセ、ガウディさんのところにケーキを届けて来てくれない?
ジークもあなたのこと心配してたみたいだし。」
と言ってテディは少し笑った。
「ガウディさん?ジーク?」
「ほら、あなたを森で見つけた時、一緒にいたもう一人の狼族の子よ。
ジークベルトっていうの。
ガウディさんもお年だから、時々モーリスと一緒に森に入ってるの。」
…あの銀色の人、犬さんじゃなくて狼さんだったのかぁ…。
でも、私のこと苦手そうにしてたのに、私が行って大丈夫かなぁ?
「実はね。このケーキに使ったブドウ、ジークが持ってきてくれたのよ。
あの子無口だから何も言わなかったけど、多分あなたに渡したかったんだと思うわ。」
…そうなの?
「ね?私は、この子たちも居るからちょっとね。」
「わかったわ。ちゃんとお礼を言ってくるね。」
「決まりね!ゆっくりしてきていいから。」
…おつかい頼むだけなのに、テディが妙に嬉しそうなのはなぜかしら?
最後につぶやいてた「やっぱりフェアじゃなくちゃね。」ってどういう意味?
聞いてた家は、20分くらい歩いたところで、すぐに見つかった。
扉を開けてくれたのはあの人だったけど、やっぱりなんだか様子が変で、
すぐに部屋の隅っこに行って目を合わせようとしてくれない。
(ちょっと傷つくんですけど…)と思いながらも、笑顔であいさつ。
ガウディさんご夫婦は、モーリスとテディに比べるとちょっと年輩な位に見えた。
獣人の年齢なんて、まだ判らないんだけどね。
っていうか、ガウディさん、めちゃめちゃカッコいいおじ様なんですけど~~。
シルバーの髪色。灰色のとがった耳。体格も引き締まった筋肉質、
という感じでめちゃ渋い。
狼さんだけあって目つきは鋭いけど、目じりの笑い皺が超いい感じ。
ほんで、奥様のローズさんが、同じくシルバーのストレートのまたまた美人さんなの。
負けた、って感じの。
すっごい美男美女夫婦。
ほんとに獣人さんたち、綺麗な人が多いなぁ。
「チセさんはホントにウサギなんだね。ウサギ族が居たなんてなぁ。
不思議な気分だ。なんだかチセさんを見ていると本当に試されてるような気分だよ。なぁ、ジークよ。」
いや~、声も渋くて素敵すぎる。ん?何を?
よく分からないから、あはは、と聞き流して。
帰り道。ガウディさんの計らいで、狼さんが送ってくれることになったんだけど。
(なんか話したりとか、できないかしら?)
狼さん、隣歩いてるんだけど、無言なの。
たぶん、歩幅合わせてくれてて、優しい人なんだろうけど、とにかく目が合わない。
ずーっとこれじゃ、気まずい…。
(よしっ!)
内心、ちょっと気合いをいれて、「ジークベルトさん?」と手首をつかんでみる。
ぎょっとしたように、こちらを向いたから、
「ありがとう、今日もこないだも送ってくれて」と微笑みながら見上げれば、
予想通りまたパッと目を逸らされたんだけど。
(うん、やっぱ、顔赤いよね。女性が苦手なのかしら?
でもやっぱり狼さんもイケメンさんだわ。あのご両親なんだから当然といえば当然ね。
怖そうに見えたけど、こうして横に並んで歩いてると全然怖くないし。ウフフ。)
などと考えてたら、ボソッと一言。
「ジークでいい。」
そっぽを向きながら…私が触れた手を握り返されてしまった。
(え?キャ~~~)
自分で仕掛けておきながら、情けないけど。
これは予想外だよ~~~。
そんな私には構わず、狼さん、手をつないだまままた歩き出そうとしている。
ハルといい、ジークといい、獣人さんって皆こんな感じ?
いやいや、違うよね?私が見てる限り、モーリスはテディとそんなにベタベタしてないし…。
(ん?もしかして、私、相当お邪魔虫…?)
「? 行くぞ?」
ジークがそんな私を振り返って不思議そうな顔。
(あ、ジークの目は深い青色だったのね…。すっごく綺麗だわ。)
結局そのまま、帰り着くまで手は繋がれたままだった。




