第5話
歩けるようになって最初にしたことは、町に買い物に出ることだった。
町っていってもすぐ近くなんだけど。
どうも、小麦畑や果樹園が広がってる、モーリスや村長の家がある辺りの地域を村って呼んで、そこから道で繋がった商店が並んでる辺りを町って呼んでるみたい。地名もないし、通りの名前もないし、なんか妙にざっくりしてる…。
とにかく、今日はそこでモーリスとテディが服なんかを買ってくれるらしいの。
これまではテディの服を借りてたんだけど、ものすごく大きかったから。
今日は自分のローブを着て、町に繰り出してきた。
買ってもらうなんて、非常に申し訳なくて、最初は断ってたんだけどね。
「うちの父は村長で一応この村の領主なのよ。」とテディ。
「そして俺はこの村の若頭で、村一番の狩人だぞ!」とモーリス。
だから経済的な心配はしなくていい、ということらしい。
決して、そういうことを偉そうに言うような人たちじゃないってことは
この数日でよく分かってる。
私のためにあえてそういう言い方をしてくれてるのよね。
ああ、もう…。なんて良い人たちなんだろう。
私、最初に出会えたのがモーリスたちで本当にラッキーだよ。
ここは、素直に甘えちゃって、…いいんだよね?
それにしても、籠の中から顔出してる小熊ちゃん達、
可愛すぎなの!もうメロメロ。
最初に小熊ちゃんたちと遊んだ時のあの幸せっていったら!
モフモフ感を堪能してたら、実はちょっと噛みつかれたんだけど。
「お前たち、食べちゃダメ!」なんて言ってテディが心配して飛んできたから、
思わず笑っちゃった。…まさか、ね? じゃれ合ってただけだよね~。
そんなこんなで連れてってくれた洋装店。
予想通り、女性用の服はどれもサイズが大きくて。
子供服から選ぼうと思ったら胸の所がやっぱりきつくて。
結局、採寸して、一から作ってもらうことになっちゃいました。
うん、ほんとごめんなさい。いや、ありがとうございます。
でも、テディはなんだかものすごく楽しそうだ。
洋装店の店主の黒猫のおばさんと、ああでもない、こうでもないと
本人そっちのけでデザインを考えてくれる。
「金髪に白耳。何色でも似合いそうな組み合わせだこと。」
「うんうん。でもチセには淡い色のほうがきっと似合うわ。」
「胸も意外と大きいからそれはあえて強調しない方が良いわね。」
「そうね。あんまり出しすぎるのは、やっぱり不味いわよね。」
「そうだね。男どもが噂してたウサギがこれほどとは思わなかったよ。」
「そうなのよ。う~ん、でもやっぱり可愛いの着せたい!!私が見たい!」
なんだか、相当盛り上がって下さってますが、いまいち話が見えないよ。
もう二人にお任せしちゃおう。
服見るのは実は私も大好きなんだけど、この町とか村の流行もまだ分からないしね。
そして二日後には出来上がったワンピース数着。
黒猫のおばさん、仕事早いですね!
早速お店で試着。
(キャーーーーー!)久々に叫びそうになるのを必死でこらえた。
デザインは文句なく可愛いんですが…。
清楚なワンピなのに、おしりの所に穴が開いてますよ……。
…獣族は皆尾があるものね…。
…採寸の時もおばさん尾の位置とか動きとかチェックしてたもんね。
でも、自分の尾をその穴から出して歩くのにはすごく勇気が要った。
そう、実は変化した場所、耳だけじゃなくて、尾もついてたの。
真っ白、ふわふわ。
ウサギの尾なんて対して動かないし、飾りみたいなもんなんだけど。
(私だって今は獣族。恥ずかしくない、恥ずかしくない。)
念じながら着た。
おばさんもテディも満足そうだったんだけど。
外で待ってたモーリスにも、笑顔でお礼を言ったら、
はじめてちょっと目を逸らされた。
(似合わないかな~?)
ちょっと不安になったんだけど、
「心配ないわ。とっても素敵よ。」ってテディがモーリスの尾をこっそり握るもんだから、
モーリスも慌てて「ああ。似合っている。」と声をかけてくれた。
(うわ~、仲良しさんですね…。)
今度は私がちょっと目を逸らす番だった。




