第4話
ホントはすぐにでもセントルーモスに戻る方法を見つけたかったんだけどね。
魔術の話は、尋ねてもシロクマ村長さんは「さてのう?」ばかりで、結局何も分からなかった。
きっと、ここには魔術に詳しい人?なんていないのね。
それに足のケガが思ってたよりひどくて。
「いつまでも居ていいんじゃよ。」と村長さんが言って下さって。
皆、悪い人たちじゃなさそうだし、思い切ってしばらくお世話になろう、って決めたの。
私はしばらく、熊さんの家においてもらえることになった。
熊さん、名前はモーリス。もう結婚してて、やっぱり奥さんも熊族の人だった。
奥さんの名前はテディさん。あの村長さんの娘さんなんだって。
だからテディさんの耳も真っ白。モーリスの耳はこげ茶色だ。
子供さんも二人いて、ルーカスとフィリイ。小っちゃくて可愛くて、何と本物の小熊。
獣族は、子供の時は獣の姿で過ごして、二歳か三歳くらいになると、安定して
人型をとるようになるらしい。
やっぱり知らないことだらけね。
ケガのことにしても、私は治癒魔術もできないし、って悔しく思ってたら、
モーリスが薬草で作った湿布を持ってきてくれて。
すぐに痛みが治まったの。
足がずいぶん良くなって、動けるようになってからは、少しでも役に立とうと
テディの家事を手伝うようになったんだけど、最初は失敗ばっかりだった。
おじさんの家では、ちっちゃい頃から家事手伝ってたから、これでも貴族や商家の子に比べたら
出来るほうだと思ってたのに。
生活魔術無しでの生活がこんなに大変だとは思わなかった。
そう、本当に色んな習慣が違いすぎて分からないことだらけなんだけど、一番驚いたこと!
なんとここでは、生活に魔術が使われてないってことなの。
セントルーモスでは、皆が魔術を使えるわけではないけど、
魔力をこめた魔石が売られていて、簡単な呪文で割と当たり前のように
生活魔術が使われてたのに。皆の様子を見てたら、誰も魔術を使わない。
そういえば、このウサギの姿になってから、一度も杖を振る機会なんて無かったから、
もしかして私も他の獣人さんたちみたいに魔術が使えなくなってたらどうしようと思って、
一度、魔力のランプの灯を灯してみた。
「へぇ、チセ、すごいのね!」って見てたテディが楽しそうにしてくれたんだけど。
また少しだけ調子にのって、何度もやったらすぐに息が上がってきちゃって、
「チセの魔術はしばらく禁止!」って怒られてしまった。
おじさんの家では、あれもこれもと魔力要求されること多かったから、
魔術禁止、なんて初めて言われたわ。
要領もいい方だったはずなのに…。
ここでの私は……全然役に立ってない…。
「上手く出来なくてごめんなさい。」
思わずテディに謝っちゃう。
あ、自然にウサ耳もたれちゃって。
そしたら、
「謝る必要なんてないわ。チセ、そういう時はありがとう、の一言でいいのよ。」って。
テディ、優しい。お姉さん、だ。
今までそんなこと言ってくれる人なんて周りに居なかったよ。
嬉しくなって、満面の笑みで「ありがとう。」って言えた。
不思議だな~。なんか言葉が自然に出てくるこの感じ。
「…うん。ウサギだからかしら…。なんだか私までおかしな気分になっちゃうわ。」
ん?
テディのつぶやきだって、このウサ耳はちゃんと逃さずキャッチしちゃってたんだけど、
それ以上何も言われなかったからとりあえずスルーしておくことにした。
今では、魔力無しでもちゃんとお湯も沸かせるし、洗濯だって出来るの。
すごいでしょ?(ウインク)




