第2話
すばやい動きで、目の前に現れたのは、三人の男たちだった。
「なんと、ウサギか?」
その中の一人が小さくつぶやく。
三人ともこっちを凝視している。
でもチセも呆然としてしまった。
だって、三人とも、いや、三匹?とも、獣人なんだよ!
獣人って、王都にも、前に住んでた街にも、ほとんど見かけなかったんだもの。まさか一番最初に遭遇するのが獣人とは思わないでしょ。
豹柄の耳の男は目を細めてこっちを観察している。
最初につぶやいた熊耳の大柄の男も、それきり無言だ。
最後に犬?みたいなとがった三角耳の男と目が合った。表情を無くしてこっちを凝視している。
その視線に耐えられなくなって、いつもの習慣でニコッと微笑んでみたところ、見る見る顔が真っ赤になっていく。
(なに、あの人超かわいい…)
なんて思ってたら、「ピュ~」豹男さんの口笛。
はっと我に返る。
「キャ~~~!!」
本日、二度目の大絶叫。
わたし、ふとももまで、素足丸出しにしちゃってました…。
その後、足を痛めて動けないことに気付いたリーダーらしき熊さんが、自分たちの村まで運んでくれました。なんとお姫様だっこで。
もちろん、タイツもブーツも穿いてからね。
「しかし、ウサギとは珍しい…。」としきりにつぶやいてたけど、名前だけ聞かれて、あとはほとんど聞いてこなかった。
どうやら事情は村長の所で話せ、ってことらしい。
村までは結構距離があるようで、それからずいぶん長い時間、熊さんの腕の中でした。
びっくりしたけど、見つけてもらえてホント良かった。
自分で村を探したんじゃ、何日かかったか分かったもんじゃ無かったね。
運んでもらってる途中、周りの景色やら三人を観察しちゃった。
豹さんも犬耳さんも、よく見ると小動物と複数の大型の鳥をぶら下げてて、どうやら狩りの途中だったらしい。
豹さんは、目が合うたびにニコニコこちらを見ていて、どうやら私を気に入ってくれてるみたい。
逆に犬耳さんは、視線を感じるのに、振り向いて目が合うと速攻で逸らされて、微妙な気分。
徐々に森が拓けて、村が見えてきた。綺麗な小麦畑が、一面にひろがっている。
のどかな田園風景だけど、見覚えは全然無い。
(いったいどこまで飛ばされたんだろう…まさか別の国、なんてことないわよね?言葉通じたし)
でも、その悪い予感、的中してるみたい。
だって、セントルーモスにこんな獣人の村あった?ううん、聞いたことない。
(ここって獣族だけの村よね…?一人も見かけてないし。ヒトってばれちゃってもいいのかしら…?)
これまで、王都で獣族を見かける機会はあったものの、話したことはない。
ごく少数、街で仕事をしている者たちもいたけど、そもそも、あまり関わるものではない、と教えられて育ったし、
生活習慣も考え方も違うから、特にそれを不思議に思ったことはなかった。
(うーん。様子が分かるまでは言わないでいよう。王都に戻るまでの間だけだし。)
チセはウサギのフリをすることに決めた。…っていうか、ウサギだしね。
そんなこんなで、村での生活が始まった。




