第19話
声をかけてくれたのは、まさに、ガウディさん一家だった。
ローズさんに、…ジークもいる。
今ちょうど思い浮かべてた所だったから、一人でちょっと恥ずかしくなる。なんだか変な気分だわ。
「チセ、会えて良かったわ。さっき人だかりが出来ていたから、もしかしてと思ってたのよ。ドレスもとても似合っているわ。ね、ジーク?」
「…ああ。」
ジークの、こっちを見ずに答えているその顔はやっぱり赤くて。
最近は割と普通に話してくれてたから、こういうの、久しぶりだ。
そんな時だった。
広場の隅で楽器の演奏が始まったのは。
「あら、早速ダンスが始まるわね。
ハルくんと踊ったら、次はこの子とも踊ってやってくれるかしら?ね?」
そういうと、息子を置いてガウディさんとローズさんは颯爽と広場に進み出て行ってしまった。
あぁ、気付けばもう日は完全に暮れて、ランプの明かりに皆、影を落としている。
老若男女問わず沢山の人が、手を取り合って広場に進み出てきた。
「じゃあ先ずは僕と、ね?」
ハルが改めて手を、差し出して。
「あぁ。」
ジークは一歩後ろへ下がる。
あーん、もう逃げられない…よね。
私は、覚悟を決めて。
手をとった私を、ハルが皆の輪の中まで連れていった。
ワンツースリー、ワンツースリー。
知らない曲だけど、軽やかな三拍子のリズム。
案ずるより生むが安しってこういう事なのかな。
思っていたよりずっと自然に身体が動く。
(ハルのリードが、上手いのかしら?)
気付けば、始めの緊張感は和らいで。
周りの皆も、とても楽しそうだ。
一曲目が終わると、次はスローテンポの四拍子。
またリズムが身体に馴染んでくる頃には、周りで談笑する声が沢山聞こえてきていた。
「チセ、楽しい?」
「ええ、楽しいわ。」
ハルはいつものいたずらっ子のように笑っている。
手を取り合って、向かい合って。
改めてこうして見ると、薄暗いのにハルの笑顔は不思議と眩しい。
どう言えばいいのかしら?
ハルは、私に無いものを持ってる気がするの。
それが何かは分からないんだけれど。
その彼が、私を自然に受け止めてくれていて。
私にはその理由が分からないの。
そんなことを考えてたら、つい思ったことをそのまま口にしてしまった。
「ハルは本当に、どうして…私を誘ったの?」
「どうしてって?」
「…モーリスの家で過ごしてるだけでは気づかなかったけど。
この町には思っていたよりずっと沢山の人がいるのね。」
「…そうかな?」
「うん。周りの皆の顔見てたらね、思ったの。
秋祭りってやっぱり大切な行事なのね。」
「そうだね。」
「…皆、……本当に大切な人と過ごすんじゃないの?」
「もちろんだよ。」
「だって…それじゃ…。」
話しながら、なんだか、ハルの顔が見れなくなって。
それが分かったのか、ハルもさっきまでみたいに直ぐには答えをくれない。
スローテンポのダンスは続く。
周りの皆はやっぱり楽しそうで。
たっぷりの沈黙のあとに、ハルが耳元で囁いた。
「どう思う?当たってるかもだよ。そんなに真っ赤になってるんだもの。」
うわわわ。息が掛かってくすぐったい。
動揺してたら、テンポずれちゃう。
「わ、分かんないよ。私はウサギだし。いつもからかって遊んでるだけでしょ?ハルは、豹族の女の子を誘わなくて良かったの?」
「へー。そんなこと言っちゃう?」
だから、耳元から顔を離して…。
恥ずかし紛れに、
「だって…それじゃ。ハル、…私のこと、好きなの?」
わ~、とうとう聞いちゃった。
自分の気持ちもはっきり分かんないのに…。
そーっとハルを見たら。
目があった途端、ニヤリと笑って。
とうとう、立ち止まってしまった。
「うん。そうだよ。分かってるくせに聞くなんて、悪い子だね。
あ~あ、まだ言うつもりなかったんだけどな。
でも良い顔してるから教えてあげる。」
良い顔?ひゃああぁ。私今どんな顔してる??
そんな私の反応を楽しむかのように、私の手を口元に寄せて話しだした。
「初めて見た時はさ、もちろん可愛いし、ふわふわしてて、なんて美味しそうな子なんだろう、って思ったんだ。まさかウサギの子が居るなんて思ってなかったしね。
それで見てたら、そのままでも充分可愛いのに、表情コロコロ変わるし、結構顔に出てるし。意外と男慣れしてないとこも苛めがいあるなって思って。興味の方が強かったかも。
…ごめんね?
でもさ、そのうち分かっちゃったんだよね。
…ああ、この子は甘え方を知らないんだなって。
そう思ったらね、もう引き返せなくなっちゃったんだ。」
って、手の甲にキス。
こちらを見るハルの顔、わ~、いつもと全然違う。
相変わらず笑顔なのに、何か黒い…。
でも、ハルの言う通り。
私はこの顔、もう知ってた気がする…。
(あぁ~、もう恥ずかし過ぎて無理だよ~。)
と心の中で叫んでたら。
「あー、もうホント、無理。」
ハルも同じような事言った。
(あれ、同じ気持ち?)
そう思ったのに。
「我慢の限界。花の匂いで誤魔化せるかと思ったんだけど。チセの匂い、甘過ぎ。誘惑してるとしか思えない。もうモーリス達に怒られても良いから、ちょっと味見を…。」
「いやーー。」
思わず叫んで逃げ出してしまいました…。
あ、ダンスも一旦終わったみたい。




