第16話
テディのドレスは、オレンジ色のAラインドレスだった。
肩から裾に流れる、ハリのある素材で作られた大きめのフリルが、大人可愛いくて、朗らかなテディに良く似合っている。
「わぁ、テディ、とっても綺麗!」
「ふふっ、ありがとう。」
「…でも、あれ?」
私の着てるドレスとは、明らかに違うわ…。
形も色も全然違う。
伝統のドレスがあるって言ってなかったかしら?
「ふふっ、ドレスの型は決まってないのよ。この胸元と裾に入った刺繍が、この町伝統の意匠なの。綺麗でしょ。」
…って。
そうなんだ。そういえば、私の着てるドレスも、テディのドレスも、良く似た絹糸の刺繍が入っている。
そういうことなのね!と、納得しかけたものの。
いやいやいや。
じゃあどうして、私のドレスは、
ーーーこんなに露出度が高めなの~!
「ウフフ。イメージ通りよ。貴方のあどけない魅力と、成熟したスタイルの良さのギャップが100%伝わるわ。流石、ミーシャさんね。」って。
テディ姉さん?
注目され過ぎないように、の配慮は、どこへ?
「貴方のこと、いつまでも隠しておけないからね。今宵は思い切り、楽しんで来て頂戴。」
(テディったら。
悪気が全く無いんだから、怒るに怒れないじゃない。)
でも、祭りを楽しむのに、露出度高く着飾るのって、必要??
なんて考えてたら。
「ごめんなさい。でも貴方にはずっとここに居てほしいの。」
後ろで聞こえた、言葉にされたのかどうかも分からないような小さな呟きに、私は少し戸惑ったのだった。
夕方、いつものように小さな花束を持って迎えに来たハルは、私の姿を見た途端、
ーーー予想に反して、目を見開いて固まった。
(あら?)
「これは、ちょっと…。」
ハルはそう言いながら、改めて目が合った所で、
目元を片手で押さえて顔を背ける。
「…反則でしょ。」
(反則?もしかして、やっぱり変?)
だいぶ、不安になった所で。
「僕、鼻血でそう…。」
って。上目遣い。
更に真顔で小首かしげながら追い打ち発言。
「チセ、そんなに食べられたいの?」って。
きゃ~。
今度は私が真っ赤になる番で。
いつものペースに戻ったハルは、直ぐに側に寄ってきて、
「誘惑上手だなぁ、チセは。」
って笑った。
(ハルのばかぁ。そんなわけ、ないじゃない!)
思わずポコポコとハルの胸を叩いてたら。
「ゴホン!」
後ろからモーリスの咳払いと低い声。
「ハル、分かってるよな?」
それなのに、ハルってば、
「何の事かな~?」
相変わらず飄々としてる。
お願い、こういうやり取り、何だか怖いから止めてってば。
モーリスがとうとう唸り出した所で、やっと
「大丈夫!今日は僕が絶対に守るよ。安心してよ。」と答えて。
こっそり、
「僕、自分自身が一番信用出来ないって言ったら、モーリス絶対に怒るよね。どうしよう?」
ってウサ耳に耳打ちしてきた。
どうしよう?はこっちのセリフだよ~。
ハルの発言には相変わらずドキドキさせられっぱなし。
だって、いつもどこまでが本心か、分からないんだもの。
(今夜、私、大丈夫かしら?)
なんて、漠然とした不安に駆られながらも。
実は何について心配したらいいのか、いまいち分からないチセさんなのでした。




