第13話
「秋祭りか…。ああ、もうすぐだな。」
ジークに送ってもらう帰り道。
今では、ガウディさんの家へのおつかいの後は、こうしてジークが送ってくれるのが恒例となっている。
「テディによろしくね。」と言ってローズさんからも色々頂くことが多いので、その荷物持ちも兼ねているのだけど。
「ハルと行くことに決めてるんじゃないのか?あいつ、嫌に機嫌が良いし。」
「う~ん。多分、そうなるかな。秋祭り、行ってみたいし…。」
チラッとジークの顔を見るが、表情は読めない。
「あなたはどうするの?」
思い切って聞いてみる。
「最近は、行ってはいなかったんだがな…。今年は俺も行こうと思ってるよ。」
前を向いたまま話すジーク。
「そう…。」
「飴細工が綺麗なんだ。…向こうで会ったら、買ってやるよ。」
「うん、ありがとう。楽しみにしてる。」
(あれ、私…。もしかして、がっかりしてる…?あぁもう、テディが変なこと言うからだわ!)
ジークも私を誘ってくれるんじゃないかって。
何だか恥ずかしくなって、
「ダンスの他に、何か儀式もあるって聞いたわ。どんな儀式なの?」
って尋ねたら。
さっきまで、淡々と話してたジークが、急に目を見開いて。
(あれ、どうしてそんなに驚くの?)
ため息を付きながら、
「やっぱり聞いていないのか…。そうだろうな…。」
と呟くように言った。
それから帰り着くまでに聞いた話は、
「お前には気分の良い話じゃないぞ。それでも聞きたいか?」
って何度も念押ししてから始めてくれた話で。
それは、
ーーー私を現実に引き戻すには、十分な話だった。
つまり。
秋祭りは、一年の豊穣を感謝するために行われているということ。
これだけなら、どこでも似たような祭りが行われてると思うのだけれど。
ここでは、月夜に広場の中央で大きなかがり火を焚くのだという。
なぜなら。
この村と町では、山の恵みで失われた命は月に行くと信じられているから。
その鎮魂のために、沢山の干し草をかがり火にくべて、感謝の祈りと共に満月に捧げるのだそうだ。
―――満月に。
そう、月のウサギに。
…気づいてた。
でも、…深くは考えないようにしてた。
誰も『ウサギ族』を見たことがないっていう事実。
この村には、実は肉食の種族しか居ないっていう事実。
だって…。
だって、私も本物の『ウサギ』じゃないんだもの。
それなのに、私がこんな姿でここに現れちゃったから、私が『ウサギ』のふりをしてしまったから、皆実は色々考えちゃってたのかもしれない。
多分、きっと。
私が現れるまで、モーリス家の食卓には、ウサギ料理が並んでたのかもしれない。
それなのに。
私は、気付かないふりをして。
私一人が、何も考えていなくて。
町に行く度に人目を集める理由も、そうなのかもしれない。
まるで自分たちの仲間みたいに、同じような姿をした『ウサギ』が現れたから。
それなのに。
「お前に出会えたから、今年は俺も行こうと思ったんだ。」
そう言ってジークは微笑む。
「きっと皆にとって、大切な夜になる。楽しもうな。」
と手を振ってくれて。
私はその日、浮かれてた自分がとても恥ずかしく思えたのだった。




