第9話
モーリス家の朝は早い。
始めの頃は、慣れなくて、居候のくせにルーカスとフィリィに起こされる始末だった。起きるとモーリスはもう狩りに出掛けた後で、テディはもう洗濯物を干し終わった後だった。
そうそう、この村って、どうやら時計も使われていないの。
獣人さんたちの感覚ってやっぱりヒトとは違うみたい。
太陽と星の動きで時を見てはいるんだけど、時間で行動を決めたりはしない。
今日が何月何日で今何時頃かなんてきっと必要として無いんだわ。
それでも村全体が秩序を持って動いてるのよ。ちょっと不思議な感覚。
「今日は午後から雨になるからね。いつもよりも早めに干したの。」
テディが困った顔で言う。
「ランチを食べたら、チセも洗濯物取り込むの手伝ってね」
そう、テディは、いやきっと皆も?、午後からのお天気だって判っちゃうの。
すごいわ。
「あら、チセだって判るでしょ?変な子ね」
そういえば、風の匂いと向きが昨日とは違うけど。
これがそう?
うーん、やっぱりまだ良く分からないよ。
ランチの前にはちゃんとモーリスも帰ってきた。
大型の鳥を担ぎながら。
「チセ~、ただいま~。」
あ、ハルも。
「お前の家じゃないだろう!」
ジークも一緒だ。
プッ、ハルったら、髪に花を飾ってる。
(女の子みたい!)
なんて思わず微笑んだら、
「これはお土産だよ。」
と自分の頭に一輪残して、あとは私の髪に差してくる。
「お揃いだね。」って。
皆見てるのに素直には喜べないよ~。
ハルは恥ずかしくないのかな?
女の子には皆こうなのかな?
でもやっぱり嬉しくて。
相変わらず、遊ばれてる?
一緒にランチを食べた後、雨が降る前に二人も帰ったんだけど。
帰る前の挨拶がてら、ハルがルーカスたちとじゃれ合ってる間。
ジークが横に立ったと思ったら、耳元で囁いてきたの。
「これは俺からだ。」
木の実…?
色んな色のがあって、凄く綺麗。それにいい香り。
「ハルもが見てない隙に、少しずつ集めた。あいつには見せるなよ。」
耳元に息が掛かって、くすぐったい…。
「ありがとう。」
私が答えると、ジークは満足そうに目を細めて頷いてから、ハルを連れて帰って行った。
「あいつら揃って、狩りより植物採集を優先しやがって。もうしばらくは連れていかん!」
「まあまあ。仕方ないわよ。秋祭りが近いんだもの。あの子たちも必死なのよ。」
テディが笑いながら、答える。
「あなただって、昔はあんな風だったわよ。」
「…そうか?」
モーリスは頭をポリポリ掻いて。
「…実はいつ渡そうかと少々思案してたんだが。あいつらに遠慮せず見せつけてやれば良かったな。」
そう言って夫がポケットに手を突っ込み何かを取り出そうとするのを見て、テディは迷わずほっぺにキスをしたのだった。




