アダムとイブ
「あなたは神様です」
その日から僕は神様になった。
正しく、全知全能。叶えられないことなどない。神羅万象が自分の掌で転がる。
女も、物も、何もかも、欲しいものは力で手に入れられる。
だけど、僕は、それをしない。
力を力なき者に行使するのは、あまりやっていいことではないと、知っているから。
欲を出せば、溺れてしまう。いずれ過ちを犯してしまう。
神なのだ。人のために力を揮う。
まず、お金のないところにお金を与えた。
争いを食い止めた。
武器を無くした。
誰もが裕福に暮らせるくらいの土地や食料や水を世界中に与えた。
草木や山などの自然、人や動物、虫たちなどの生き物をたくさん産んだ。
宇宙の形や、地球の大きさを変えた。
色々なことをした。
大変だったし、辞めそうになったけど、皆の笑顔が見たいから、必死に頑張った。
かくして努力は実り、世界中が幸福に満ち溢れた。皆、笑っている。
そして。
――世界は壊れた。
幸福が溢れ、不幸が極端に減った結果、世界のバランスが崩壊してしまったのだ。
世界は、幸福と不幸が共存していなければ、存在出来ないのだ。
真っ白な空間で、僕は僕に問いを投げる。
はたして僕は、自分の家族が今まさに殺される現場で、何をすることもなく、笑顔で立っていることが出来るだろうか?
「二人きりだね?」
隣に、僕を神様にした女の子が立っていた。
その姿を見て、僕は、ああ、そうか、と心の中で思った。
結局、僕は、どうしようもなく、人間だ。
その時、なにかが壊れる音がした。力はもう、使えなかった。
「そうだね」
僕は、立ち上がる。
さあ、始まりを始めようか。