だって、好き
「あの、こういう時は普通、久瀬飛鳥に近付くな的な事を言うべきなんじゃ…」
私がそう問い掛けたら、先輩達は頭にクエスチョンマークを浮かべ首を捻る。
「何で?」
何でって、そんな。
「普通はそういうものだと思うんですが……」
「えーでも近付いてくんなきゃ困るし。ねぇ?」
「うんうん、教室がカビる。キノコの栽培所になる」
「一時限目から悲惨なんだよね、もう泣くわ泣くわ。ティッシュ足んないからトイレットペーパー持ってきたくらいだよ。挙げ句の果てには泉里にエルボーするしラリアットかますし、生きてたくないとか言って窓から飛び降りようとするし。それ過ぎたら円ちゃん円ちゃん好き好き円ちゃんloveって変な歌まで歌い出すしさぁ」
「……………」
「更には新品のノートに相合い傘書いて七瀬さんと自分の名前を書いて、それだけでノート一冊使いきるし、先生に当てられたら答え全部「円ちゃん!」だよ?もう、先生呆れちゃって後半「はい正解、よく出来ました~」とか言ってんの。やー笑った笑った。お陰で授業になんなくて、うちのクラスだけ異様に騒がしかったわ」
「うわあぁ………」
ごめんなさい、かなり引きました。
ドン引きです。
どこまで残念なイケメンなんだあの人は。
………可哀想に。
何だか色んな部分で損をしてしまってる久瀬先輩を思わず哀れんだら、ショートボブのお姉さんが笑いながら一言を付け加えた。
「ま、最終的に泉里が卍固めで気絶させたけどねー」
「!!?」
卍固め……?
ちょっと芹崎先輩、貴方一体何者?
確かに格闘タイプだけど。
ああ、望んでもいないのに彼らの情報が私の脳に蓄えられてゆく。
グスン。
「……で。ところで七瀬さんさぁ、彼氏とか居んの?」
「え?………いえ……別に」
「じゃあ飛鳥と付き合えばいいじゃん。てか何で断るのか分かんない。飛鳥イケメンだし優しいよ?」
「っ、………私、は」
先輩達の疑問に言葉が詰まる。
だって、興味ないから。
恋愛とか、恋人とか、友達とかも……そういうの。
不必要なものだと思っている私には理解できない。
「…………………」
私は昔から他人と関わるのが苦手で。
冷めた性格をしていると、よく言われていた。
他人を知るって事は他人の心に踏み込む事。
それはつまり他人も私を知るために、私の中へ踏み込んでくる。
それが嫌だった。
億劫だと思った。
「「「…………?」」」
黙る私にお互い顔を見合わせる先輩達。
真ん中の人がもう一度こっちを向き、そして口を開く。
「とにかく、つべこべ言わず2年4組へゴー」
鬼だ。