だって、好き
そんな中でクラスのSOS信号が久瀬先輩の保護者兼親友の、芹崎先輩に掛かる。
何で保護者かって?
何となく。
そんな感じがしたから。
「俺は知らん。そのアホに食らわされた格闘技のせいでまだ首が痛ぇんだよ、ちくしょう」
視線を巡らすと中央列の最後尾に芹崎先輩が居た。
頻りに首を擦りながら外方を向いて、見るからに不機嫌そうだ。
言葉の刺々しさが彼の怒りを表しております。
意外に根に持つタイプなんですね。
「っ、ぐすっ……せ、泉里ちゃんまで俺の事知らないって言うっ。どうせ円ちゃんだって俺の事なんか知らないし、変な人!くらいにしか思ってないんだ………俺はこんなに好きなのにぃ!」
「テンメッ、飛鳥あぁっ!ちゃん付けすんなっつってんだろおお!!」
手が付けられないくらい泣く久瀬先輩に、芹崎先輩の憤怒の怒声が飛ぶ。
まさかとは思うけど、これを授業中ずっとしてたんだろうか。
だとしたら何て迷惑な……
呆れて暫くの間、ボケッとその光景を眺めてた。
子供みたいな人。
好き、好きって。
私の何が好きなんですか、先輩。
「…………失礼します」
私の事、何も知らないのに。
教室に足を踏み入れ、スタスタ机を避けつつ彼の元へ向かう。
途中何人かが私に気付きギョッとした顔をする。
芹崎先輩も、ポカンと口を開けて間抜け顔で私を凝視していた。
人の輪を潜り床で泣いてる久瀬先輩の前に立つ。
そしてさっきのお姉様方の命令を遂行するため、目下の背中へと声を掛ける。
「久瀬先輩、お昼食べましょう」
私の言葉にピタリと泣き止む、わんこ。
水を打ったように静かになった教室には、何とも言えない空気が漂った。
「…………ぇ?」
ソロソロ~っと久瀬先輩が顔を上げる。
真っ赤な目が何度も瞬きを繰り返し、その度にキラキラ落ちる雫が頬を伝った。
どんだけ泣いたらそうなるの。
兎だ兎。
茶色のモコモコ兎さん。
……………
ピッタリかも。
「だからお昼。一緒に食べましょう」
そう言って先輩の手を掴んで引き起こせば、一拍の間を置いて轟く歓声。
あちらこちらから「やったな久瀬!」だの「ほらやっぱり嫌われてなかったでしょ!」だのと騒ぎ立てる先輩達は、自分の事みたいに喜んでる。
それだけで、この人がどれ程皆に好かれてるのかが分かってしまう。
流石は人気者。
「……え、え?円ちゃん?っ、あれ、これ幻覚?ああ~っ、到頭俺円ちゃん好きあまりに幻覚まで見るようになったの?!もう終わってる!!」
「まぁ幻覚でも何でもいいですけど、とりあえずご飯食べますよ。昼休みは無限じゃないんですから」
「っ!やっぱ幻覚だ!だって円ちゃんが俺をお昼に誘ってくれるわけないしっ………う~でもでも嬉しい!円ちゃん好き~っ!幻覚でもいいから俺と付き合ってぇっ!」
「じゃ、この変な人借りていきますね」
「「「どうぞっ!」」」
腰に抱き付く久瀬先輩を引き摺りながら出入口へ。
芹崎先輩はまだポカンとしてたけど、少しして何かを悟ったのか右手を上げてすまないのポーズを取っていた。
頷いて未だに膝歩きしてる久瀬先輩を立たせる。
さあ、どこで食べようかな。