だって、好き
「……す、き」
そう言ってその人は、公衆の面前で私を強く抱き締めた。
それこそ骨が折れそうなくらいミシミシと。
周りから上がる、沢山の悲鳴とざわめき。
真っ青な空に白い雲。
弾けるような陽の日射しに煌めく、金茶色の長い髪が私の首筋を擽る。
甘く爽やかな香水の匂いはきっとシトラス系。
白い肌がとても綺麗なその人の腕の中、私七瀬円は呼吸も忘れて納まっていた。
長身痩躯の、校内一美人で美形と謳われる彼。
チャラチャラした不良みたいな見た目にそぐわない穏和で甘やかなフェイスマスクに、女子は皆骨抜きにされその美貌の虜になる。
そして圧倒的な強さの前に同じ男子達は強い憧れと尊望を抱き、焦がれて彼の前に膝を着く。
─白凰の狂犬─
その人の名を、久瀬飛鳥と言う。
私の一つ上。
白凰高校2年4組、実質この学校のトップに君臨している最強の不良さん。
仲間には慈悲深く敵には非情。
とにかくフワフワな外見や性格からは想像も付かないくらいに、喧嘩が強くて有名だ。
そんな人に抱き締められている現実がどうしても上手く理解できない。
すきって……『好き』って、意味だよね。
先輩が私を?
何で?
私の記憶が正しいなら、今までにこの人との接点はなかった筈。
地味で質素であまり目立たない女。
それが私だ。
特別可愛くもないしだからって明るく元気な性格をしているわけでもなく、普通。
だけどだからこそ、対極に居るこんな華やかな人に好かれる要素なんかミジンコ程も無いと思う。
のに……。
「円ちゃん、好き。大好き。俺と付き合って…」
「……………」
名前まで知られてる。
どうやら人違いじゃなさそう。
人生初の相手からの告白が、こんなギャラリーだらけの朝の校庭だなんて。
さてどうしたらいいのだろうか。
「……………とりあえず、苦しいので離してください。久瀬先輩」
冗談抜きでそろそろ、背骨が粉砕されそうです。
─最強不良さんは
ヤンデレわんこさん─