結界を張ってはいけません
微妙な空気に耐えきれずアーノが声を上げた。
「そ、そんなことよりお茶飲みましょ。ほらレオも!」
二人もそれ以上は何も触れず、レオナルドは席に座り、タリアはお茶を淹れた。
さっさと話を変えようとアーノはレオナルドに話しかける。
「そういえばレオ、やけに長い時間いるけど仕事は?」
いつもなら面会にきても三十分がせいぜいの陛下の近衛騎士がやけに長居している。
レオナルドは壁をちらりと見て笑った。
「今日は休日返上でここの結界の張り直しだ。一日かけて強化しろと、陛下からのお達しでね」
「アーノ様が五日単位でダメにしてしまいますから・・・。必死ですわね陛下」
この部屋には特定の人物以外が出入りできないよう、結界が張ってある。
拘束の魔術を得意とするレオナルドの作った、実は王の部屋のより強い特別製だ。
しかし、器用なアーノは結界の解除など朝飯前で、フィリップを悩ませていた。
アーノは心持ち体を小さくする。
「そんな手間かけるくらいなら、逃げない女の人見つけた方が早くない?ほらフォール家の令嬢とか」
若くて美人で魔力が強いと評判である友人を挙げるが、すげなく拒否された。
「却下。陛下が認めるわけないだろ」
「そちらの方が無駄な労力ですわね」
アーノは頭をかかえる。
「私は外に出たいのに。もう、どうしてこんなことに・・・」
「どうしてってアーノ。あんなことがあったら当たり前だろ」
「あんなことって?」
「ああ、あの事ですね」
「あの事だ」
二人だけで通じ合っている様子にアーノは困惑する。
タリアは新しく紅茶をついで、そんなアーノに目を合わせ、いい笑顔で言った。
「婚約者からいきなり婚約破棄を申し出られたら、驚いて監禁くらいしますでしょう」
次は監禁の原因です。
やっとフィリップが出せそうですが、まさか初登場が過去話・・・。