甘え過ぎてはいけません
「は?今更何言ってんだ。アーノ」
衝撃の事実に気付いたクリスティアーノに、呆れたと言わんばかりの一言がかかる。
彼女が目を向けた先に居るのは、実は朝から部屋に来ていた幼なじみのレオナルドだ。
面会に来たわりに会話はそこそこに済ませ、今はアーノから右にあたる壁に何かしらを刻んでいる。
レオナルドの言葉に、これまた朝からいてお茶を用意しているメイドのタリアが続いた。
「監禁というより、軟禁でしょうか。まだまだ甘いと思いますよ」
アーノにベッドから椅子へ移動するよう促しながら、にっこり笑う。
「甘いか?足枷だぞ」
レオナルドが作業の手は止めないまま、不思議そうに聞いた。
「本気でアーノ様を監禁しようと思うなら両手両足にすべきですわ。片足だけで何が拘束ですか。片腹痛いです。それ以上にお二人は未だ清い関係を維持したままですし」
「うわーへたれ」
「本当に!全くなんのための監禁ですか。一度、進言して」
「やめて」
流すに流せなかった最後の台詞をアーノが止めた。
椅子に座って、胸を張る。
「レオもタリアも何よ。いいじゃないの清い関係。爽やかで。問題は監禁よ。私は監禁だか軟禁だかをされてたわけ?」
「本気で気づいてなかったのか!」
「鈍いですわアーノ様」
「だって、いつもの癖が妙に長引いてるだけだと」
「癖?何ですかそれ?」
首をかしげるタリアに、レオナルドが困ったように答えた。
「あータリアは知らないか・・・。あいつ、疲れがたまるとアーノから離れなくなるんだ。というか、まだ続いてたのかあの悪癖。俺は子どもの時だけだと」
「いや時々ね、時々・・・」
わかりやすく目をそらしたアーノから、何らかを察するのは容易い。
タリアは愕然と頬に手を当てた。
「陛下に・・・!御年二十三歳の一国の王ともあろう方に甘え癖ですか・・・!」
そう、一国の王。
クリスティアーノを現在進行形で監禁している現在二十三歳の甘え癖のある男は、大陸の南にある大国シルケットを治める若き王、フィリップ・ルータ・シルケットだった。
あらためて言われると余りにいたたまれなくてアーノは椅子で身を縮める。
代わりに陛下に仕える騎士のレオナルドが手を止めて振り返り、タリアを諫めた。
「タリア!甘え癖っつー言い方は止めろ。威厳がなくなる」
「言い方を変えても甘え癖は甘え癖では・・・。それに女の子を監禁していらっしゃる時点でもう威厳も何も」
「う・・・・・・」
そしてあっさり負けた。
レオナルドも元々思っていたことらしく、明らかに分が悪い。
三人の周りに気まずい空気が漂った。