鎖をつけてはいけません
クリスティアーノは困っていた。
何に?と言われると多すぎて抜き出せないのだがさしあたっては現状に。
クリスティアーノのいる四角のだだっ広い部屋には、不自然に小さな二つの窓がある。外側に、手を触れないとわからない鉄格子が存在している。
ドアは三つ。彼女の座るベッド(どう見ても一人用ではない)の正面にあるドアは廊下につながっている。衛兵が二人並んでるらしい。
左側はトイレとバスルームに行くためのドアだ。はじめて部屋に来たとき、「トイレに行きたいから出してという手は使えない・・・」と彼女が呟いたら従僕から「牢屋じゃないんですから」と返された記憶がある。
右側のドアは一番、役に立たない。
なぜなら彼女をこの状態に追い込んだ本人の部屋に続いてるからだ。
クリスティアーノはなぜこんなことになったのか。
彼女がこの部屋に置かれるようになったのは三カ月前からだった。
きっかけを彼女は理解できない。
とりあえず最初は部屋に備え付けてあった本棚の膨大な数の本を楽しく読んでいたが、二週間で飽きた。
暇だと原因の男に文句を付けると今度は面会人が現れた。
家族と幼なじみと使用人。
両親と兄は頑張れ!とクリスティアーノを応援し、姉は愛ってすばらしい!とわけのわからない感動をし、弟妹は腹を抱えて爆笑していた。
幼なじみは苦笑し「また来るから」の言葉通り時々、ここを訪れている。
使用人は二人の馴染みの従僕とメイド。
三週間目に感動の再会をし、一ヶ月目にしてクリスティアーノ付きを許された。
面会があろうと暇は暇で、とにかく外に出ように励んだ。
大概は防がれたが、一カ月と十五日目にして成功。
だが、久しぶりに庭で寝転んでいたところをクリスティアーノに忠実であるはずの従僕に発見されて部屋に戻された。
優秀な従僕曰わく、「置いてかれたと思いましたので」
クリスティアーノが次は連れてこうと誓ったのは言うまでもない。
さらに、いつも自分の部屋があるにも関わらず同じベッドのちょっと離れた所で寝る男に、その日はがっちり捕まえられて眠るはめに陥った。
クリスティアーノが懲りずに外に出ようとしまくると男はついに行動を起こした。
三カ月目の昨日、男はやけに上機嫌な顔で部屋に入ってきて、「アーノに、贈り物」と照れながら言ってきた。
あまり良い予感がしないクリスティアーノへにっこり笑いかけて、男はいそいそと彼女の右足首に足枷をはめた。
細く長く上品な金色の鎖がベッドの脚につながっていて、クリスティアーノが動くたびしゃらしゃらと鳴る。
うるさいと苛々したときに、はじめてクリスティアーノは気付いた。
「――もしかして、監禁されてる?」