第9話 会見
「吾輩はリア・ヒトラー。第一級悪魔であり、ヒトラーの子孫である」
会談の翌日、スタジオを貸し切って行われた会見での一言は、ネットを騒然とさせた。ナナコChannelの暴力的コンテンツの配信、ひいては鬼龍院みやびの炎上で注目を集めているタイミングでの共演者リアの情報開示。そこから語られる言葉の数々は、普段なら聞く耳を持たない聴衆の心を惹き付けた。
地獄、煉獄、天国、それに付随する化け物の話。説明するだけでなく、実際に何ができるのかを実演して見せた。プラットホームはダークウェブ。今度は放送を止められる心配はなく、アングラな場所だから仮に事実だったとしても、ありがちなオカルトで済まされる。とはいえ、一部始終の情報は切り取られ、SNSで拡散され始めていた。違法ミラーというべきか、本来ならアクセスするのが困難なサービスに接続し、その映像を大手配信サイトで垂れ流す物好きも現れた。
場は温まった。前提知識は共有された。世間の注目は集めている。同時接続数はどれぐらいか、コメントの流れはどうか、高評価の数はどうか、そんなものはどうでもいい。私はここで『鬼龍院みやび』という呪縛を解き放つ。
「では、本題と参りましょう。先日行われた配信が憶測に憶測を呼び、私と大手Vtuberを結び付ける事態となり、『775プロダクション』に多大なるご迷惑をおかけしてしまっているようです。私に求められているのは誠意ある回答であり、事実を明らかにした上で、謝罪するのが礼儀でしょう。……ただ」
正面にある撮影用の大型カメラを見つめ、私は十分な前置きを挟む。静かに呼吸を整え、生放送に協力してくれているスタッフの顔を一人ずつ見つめ、次にリアやヴァルブルガやセレーナに目線を送り、示し合わせたようにこくりと頷く。そして。
「私と『鬼龍院みやび』は一切関係がございません。三次元の問題を二次元に持ち込まれては困ります。暴力的コンテンツを配信したからといって、謝るつもりなど毛頭なく、私は私のやりたいことを好き勝手にします。そもそも、人間のコンプライアンスを押し付けられても困るんですよね。根っからの鬼なので」
場の空気が一変したのを肌で感じる。特に撮影スタッフの顔が青冷めたのが分かる。取って食われる可能性を頭に浮かべたのが手に取るように伝わる。
「ともあれ、暴れ回るつもりもなく、私のやりたいことは皆さんに共有しておこうと思います。こちらの画像をご覧ください」
打ち合わせ通りに私は話を進め、ディレクターと思わしき男性スタッフは冷や汗を拭いながら、インカムで指示を送っている。サブモニターに表示されているのは、ナツキの自撮り。花魁風の金髪に灰色の着物姿という一目見たら忘れない奇抜な恰好が世間にさらされている。
「名前はナツキ。私の実の娘であり、先日起きたミュンヘンでのホテル爆発事故により行方不明となっております。彼女を見つけ出すのが私のやりたいことであり、それにはナチスの残党……トゥーレ協会が関与している可能性が極めて高い。もし、見かけられたら、安易に接触せず、ハッシュタグ『行方不明ナツキ』で呟いていただきたい。もちろんただというわけではなく、最も有力な情報をくれた方には協力金として、100万ユーロを差し上げます。どしどし呟いちゃってください」
肝心なルドルフの情報は伏せ、綺麗な部分だけを説明して、私は会見を終える。炎上を利用した捜索願。100万ユーロという情報が先行して、話題は完全に逸れていた。これが私なりの尻拭い。『鬼龍院みやび』という二次元の存在は、この日を境に忘れ去られていく。苦渋の決断ではあったものの、娘の命には代えられなかった。




