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ナナコChannel  作者: 木山碧人
第十一章 オクトーバーフェスト

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第7話 屋敷強襲

挿絵(By みてみん)





 今までは偽りの鬼を演じていた。Vtuberというフィルターを通して虚構を伝えてきた。別にそれ自体は悪いことじゃない。道徳的にも倫理的にも配信者的にもそれが正しい。実写で鬼だとコールすれば、リターンに余りあるリスクを負うことになり、社会から爪弾きにされるに決まっていた。


 でも、これは現実だ。目を背けることができない私たちの問題だ。評価されるかどうかは重要じゃない。世間に公表し、是非を問わせることで目標に一歩近付く。


「――――」


 私は屋敷の廊下を駆け、三叉槍を振るい、襲い来るトゥーレの面々を次々と壁に叩きつける。むやみな殺生はしない。あくまで今回の騒動はルドルフが主犯であり、構成員は必ずしも悪とは限らないと判断した。オタク君が扱った能力のように操られている可能性も高く、後々になって彼らが善人だったという事実が明らかになれば、私たちは終わりだ。イブたちとも事前に話をつけており、やんごとなき事情がない限り、本作戦上では殺さないことを約束させている。


 とはいえ、ここは敵の本拠地だ。一筋縄ではいかないと覚悟している。大政務長グランドチャンセラーの調べでは、屋敷内にいる構成員は34名。そのうち幹部クラスが2名いるとの報告がある。ルドルフの居場所は不明で、幹部と接触し、居場所を聞き出すことが今回の目的と言える。


「「………」」


 私とリアは二人一組で行動し、十数名の構成員をものともせず、無力化に成功する。今頃これがネットに拡散されている頃だろう。世間がどういう反応をしているか分からないけど、不思議と心は晴れやかだった。漠然と感じていた後ろめたさはなく、今までに感じたことがない熱量と躍動感が全身に漲っていた。


 廊下を駆け抜け、突き当たりの両扉を開き、たどり着いた先は居室。オカルトじみた素材や儀式道具や本棚がズラリと並び、中央の床には魔法円が描かれている。専門家じゃないから何を意味しているものか分からない。警戒すべきなのは間違いないけど、私たちの注意を引いたのは魔法円の上に立つ赤髪の貴婦人。


施錠コンクラーベ


 ラテン語と思わしき簡易的な呪文と共に、背後の扉が独りでに閉じる。その一部始終をバッチリカメラに収め、押して引いても開かないことを確認する。リアルを伝えるにはふさわしい。フィクションのような現象が実際に存在すると証明してこそ、ライブ配信をしている意味があるというもの。


「お名前を、聞かせてもらっても」


 再び胸前で固定されているスマホのカメラを正面に向け、問いかける。


「ヴァルブルガ。またの名を戦争の騎士。どちらでも好きな方でお呼びなさい」


 若々しい美貌を保つ彼女は快く名乗り、宮廷衣装のような赤いドレスの左腰から杖剣を抜き、構える。短い言葉ながら情報量が多すぎる。支配の騎士関連とは完全に別件だと思っていたけど、そうじゃないらしい。偶然か必然か分からないけど、トゥーレ協会と四騎士には深い繋がりがあるのは確実だった。


「では、ヴァルブルガさんにお尋ねします。ルドルフの居場所はどこですか? 大人しく答えていただけるなら、見逃してあげてもいいですよ」


 前提情報を一つ一つ確認するほどの時間はない。こちらの要望を一方的に伝えて、彼女の反応を待った。戦うにせよ、逃げるにせよ、和解するにせよ、交渉するフェイズは必要不可欠だった。


「ずいぶん偉そうな物言いね。アタシよりも、アナタたちの方が上だとでも?」


「ええ。恐らくは」


「へぇ。だったら、アタシに勝てたら素直に教えてあげる」


「……ただし?」


「アナタたちが負ければ、トゥーレ協会に加わってもらうけど、構わない?」


 告げられたのはシンプルな条件。たぶんだけど、イブたちも似たような状況に陥っているはず。飢餓の騎士か死の騎士が選択を迫り、負ければトゥーレ入りを勧める展開だ。片方が勝つ前提で話を進めるなら今の条件で申し分ない。ただ、両方勝つ前提なら片方が得しないことになる。だから……。


「それで構いませんが、こちらの勝利条件を変更します」


「言ってちょうだい」


「私たちが勝てば、ヴァルブルガさんは『ナナコChannel』の一員に加わってもらいます。それで条件は対等」


「ナナコ、なに? 噛み砕いて説明してもらえる?」


「この戦いはインターネット上で配信されています。配信主の名前がナナコであり、それを放送しているのがナナコChannel。私たちだけの放送局です。化け物のリアルをお届けするのが運営方針であり、人ならざるあなたも例に漏れない。私たちに負けた暁には、こちらの傘下に加わってもらいます」


「へぇ。リアルをお届けするなら何をしても構わないの?」


「非人道的な行為や周りに迷惑がかかる行為は禁じます」


「言ってることはもっともだけど、それ……リアルじゃなくない? オカルトを使って、サーカスでもやるつもり?」


「細かいところを煮詰めるのは、あなたが加入してからのこと。まさか、もう負けた気でいるのですか?」 


「いいえ。矛盾したことを言っているから、突っ込みたくなっただけよ。そうと決まれば、さっさと済ませましょう。魔除けの効いた、この空間でね!!」


 互いに同意の上で勝負が成立し、ヴァルブルガは向こうが一方的に有利な条件を告げ、杖剣を横薙ぎに振るった。リアは跳躍して避けており、


「――っ!!」


 私は三叉槍の持ち手を使って、ガードする。杖剣に特殊効果が付与されているような感触はなかったものの、異様に重たい。恐らく、鬼固有の怪力が使えないフィールドが展開されている。膂力は人間状態と同じと考えてよく、非力そうに見える彼女よりも筋肉量で劣っているのが今の接触で理解できた。だとしても……。


「なんの!!」


 槍を押し込み、杖剣を前に弾き、こちらも負けじと横薙ぎの槍撃を放つ。リアも時を同じくして空中から赤い意思弾を四発ほど放ち、回避すると思わしき四方をあらかじめ潰していた。槍を受けるか、意思弾を受けるか。どちらにしても防御は必須の状況であり、彼女のタフネスが試される場面になっている。


「おっそぉい」


 しかし、ヴァルブルガは一足で私の懐に忍び込む。意思弾の被爆圏外を的確に見切り、槍を低姿勢で潜り抜け、杖剣を私の腹部に突き立てている。どうやら、今の私では滅葬具を扱えるだけの力はないらしい。武器を使っているのではなく、武器に使われている状態。鬼の膂力で重さを活かすのが売りの一つだったけど、それを活かし切れない今だとただの重りと化す。鬼の治癒力がない状態で刺突を受ければ、一撃で勝負が決する展開も十分あり得る。


 ……だから、なんだ。滅葬具だけが私の全てじゃない。私は刃が腹部に突き刺さる感触を肌で感じながら、右手人差し指を彼女の額に突き立てた。


「…………さきみたま!!」

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