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ナナコChannel  作者: 木山碧人
第十一章 オクトーバーフェスト

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第6話 同志

挿絵(By みてみん)






『続いてのニュースです。昨日午後、ミュンヘン中心部で爆発事故発生、高級ホテルが倒壊しました。被害者の数は547名、そのうち、死亡したのは321名となっており、現在も救出作業が続いております』


 耳に入ってきたのは、ニュースを読み上げる女性アナウンサーの声。語られる内容は淡々としているものの、声色にはどこか緊迫感があった。


「……っ」


 私はすぐさま身体を起こし、現場へ急行しようとする。そこはホテルの一室と思わしき場所だった。今どういう状況か、誰に助けられたのか、ナナコChannelをどう運用するか、それらは全て後回しだ。ルドルフが復活したのだから、そもそもオクトーバーフェストどころじゃない。


「動かない方が身のためですよ。傷が治りきっていないので」


 扉の前に立ち塞がるように声をかけてきたのは見ず知らずの女性。白の修道服に短い茶髪に黒の眼鏡をかけている。恐らく、彼女に助けられた。命の恩人であるのは間違いない。それでも……。


「……………」


 忠告を無視して足を進めようとするも、身体がついてこない。バタリと地面に倒れ、顔面から床に激突する。


「ほら、言わんこっちゃない」


 彼女は私を起き上がらせ、肩で支え、再びベッドに寝かしつける。どうやら、動ける状態じゃないらしい。今はアドレナリンが出てるせいで痛覚を感じないけど、たぶん身体の内側はボロボロだ。鬼の治癒力があれば、大抵の傷は治るはずなのに……なんて愚痴をこぼしても仕方がない。今は休めということなのかもしれない。そうと決まれば、話は早かった。


「あの……あなたは……?」


「イブ・グノーシス。白教の修道女」


「目的は?」


「トゥーレ協会の殲滅」


「私……いいえ、私たちを助けていただいた理由は?」


「同じ志を持つ戦力を確保するため」


 質疑応答を重ね、視線の先には、隣のベッドで寝静まるリアの姿があった。目的も動機も明確で、特に裏があるようには感じない。そう思うに至った背景だけが不明瞭だけど、さして重要ではなかった。


「ルドルフが復活しましたが、倒す算段はついていますか?」


「今は見通しが立ってない。私と手を組んでいるマルタ騎士団の幹部が視察中。現状のトゥーレ協会の規模と人員と実力を把握して、これから作戦を立てるところ」


「そちらの人員の数は?」


「私と大政務長グランドチャンセラーの二名。増援は呼ばない」


「呼べないのではなく、呼ばない?」


「敵には拷問のスペシャリストがいる。半端な使い手がいれば即捕縛され、拷問を受け、口を割り、こちらの情報が筒抜けになる可能性が極めて高い。だから、呼べないのではなく、呼ばない。少数精鋭が理想」


 事務的な会話は終わり、私が抱いた疑問の大半は解消される。リアを戦力に含めるなら、トゥーレ協会に対抗できる人員は総勢四名。表立って破壊活動をしていない今はまだマシだけど、相手の目的から考えれば、ミュンヘンが血の海になってもおかしくない状況。失敗は許されないし、責任は重大。行動を共にするのは確定だとして、その上で言っておかなければならないことがあった。


「殺す前提で話を進めていると思われますが、ルドルフに乗り移っているのは、私の娘。助け出す方法を見つけるまで、待っていただくのは可能ですか?」


「ケースバイケースかな。事情も気持ちも分かるけど、鬼一匹の命と、これから殺されるかもしれないその他大勢の命と比べれば、どう譲歩しても天秤が釣り合わない。だから、タイムリミットは作戦を立てて、実行に移すまで。それまでの間に思いついたら試していい。私たちが協力するかは別としてね」


 彼女の言い分には筋が通っている。個人的な感情を別として考えるなら、ベストな判断だと思っていい。そこに彼女のエゴが入ってないし、こちらの意を汲んで譲歩してくれている。……優秀だな。修道女と言ったけど、その身分にそぐわない実力を秘めていることが今のやり取りだけでヒシヒシと伝わる。こういった戦場に慣れた歴戦の将校のような印象を受けた。


「…………」


 実は思いついている方法があるにはある。視線はリアが背負っていたリュックに注がれる。アレの存在や支配の騎士関連の情報を教えるのはリスクが伴う。助けてもらったとはいえ、彼女を全面的に信頼するのは危うかった。ともあれ。


「遅ればせながら、助けていただきありがとうございました」


「いいえ。こちらとしても戦力が増えて大助かりだから問題なし」


 最低限の礼を告げ、いったん会話は一区切りついた。ふっと気が抜けたような感じになり、疲労感と倦怠感が襲ってくる。どうやら、話すだけでもかなりの負担だったらしい。体調が万全になるまで、このままだと数日はかかりそうだった。


「あの……助けてもらった身で恐縮なのですが……」


「ん? なに?」


「血をお恵みいただけませんか?」


 本能には逆らえない。というより、自我を保てるうちに早めに補給しておきたかった。鬼は飢餓状態が続くと、理性を失いやすい傾向にあり、肉体のダメージが深刻だと更に危険度は増す。リスク管理の名目でも、肉体を早く回復させるためにも、黙っているわけにはいかなかった。


「あー、別にあげてもいいんだけど……」


「何か問題でも?」


「聖人の血って飲める?」


 ◇◇◇


 9月11日。午後13時。オクトーバーフェストまで残り9日。ほぼ無計画のまま進行し、様々なトラブルに巻き込まれ、最終的にはトゥーレ協会と敵対することになった。9日後、私たちがどうなっているのかは分からない。ただ、不思議なことにナナコChannelの運営方針は定まろうとしていた。


「世界には化け物がいます。空想ではなく現実に存在しています。現に私は鬼で、彼女は悪魔。そして、幽霊や天使や神も含めて、様々な超常現象を引き起こしています。ミュンヘンで起きた爆発事故も例外ではありません。ナチスの残党であるトゥーレ協会と、その創設者であるルドルフ・フォン・ゼボッテンドルフが復活を果たし、要件に満たない人々を惨殺しようと試みています。私はそれを止めたい。ありのままの真実をお送りしたい。チャンネルがBANにされても構いません。ただ私はありとあらゆる手段をもってして、『化け物』のリアルを世に公表し続けます。その足がけとして、トゥーレ協会を潰します。心の準備はよろしいですか?」


 携帯の配信画面に表示される18歳未満閲覧禁止の項目にチェックを入れ、血みどろの戦いを世間に公表する覚悟を決める。胸元に作ったホルスターに携帯を固定し、両手で三叉槍を握り込む。正面に見えるのは、西洋風の由緒ある屋敷。お金のためでも承認を得るためでもなく、真実を伝えるために一歩踏み出した。

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