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ナナコChannel  作者: 木山碧人
第十一章 オクトーバーフェスト

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第5話 トゥーレ協会

挿絵(By みてみん)





「トゥーレ協会?」


 ミュンヘン上空を小結界で駆ける私は、話題に上がったワードを口走る。ナツキが行方不明になり、次の目的地に目星をつけた後のことだった。


「あぁ。ドイツのミュンヘンで活動していた秘密結社の一つだ。表立って動いていたのは、第一次大戦前後。北欧人種こそが至高というスローガンのもとに設立し、後にヒトラーが党首となる政党を創設した。ルーン文字や占星術などのオカルトに傾倒し、古代遺物の分析や研究を進めていたらしい。ヒトラーと思想は同じだが、オカルトをよく思ってはおらず、政治家として躍進した後に切り捨てられた団体。ヒトラーに振られたのに、一方的な片思いを続ける『きしょい奴ら』と思っていいだろう」


 背中の蝙蝠っぽい羽根を使って飛翔するリアは、解説を加える。否定的な物言いから考えて、普段から親交があるようには聞こえなかった。


「その団体が今も活動していると?」


「恐らくな。吾輩が四首領だった時代はなりを潜めていたが、結社解散と同時に活動が再開したと小耳に挟んだ。空白を埋める性質というやつか、『イリーガル』に取って代わるつもりらしい。表立って被害者が出たという報告もなく、吾輩は地獄にいたから放置していたが、過去の亡霊と向き合う必要がありそうだ」


 足取りを進めながら、おおざっぱな情報整理が完了する。掘り下げる要素は残っているものの、前提知識としては十分。ナツキがさらわれたと思わしき場所には目星をつけており、私たちはその施設を見下ろせる場所で停止していた。


「五つ星ホテル……フィーア・ヤーレスツァイテン」


「ここにナツキは囚われている。まず間違いなくな」


 ◇◇◇


 私たちは屋上に着地し、潜入を開始する。一部屋ずつ隈なく探す……なんて効率の悪いことはしなかった。リアはズボンのポケットから小型の枝を取り出し、ポキンと折った。と同時に現れたのは赤い装飾が施された魔術書。ペラペラとページをめくり、お目当ての場所で停止し、右手を乗せる。


「――――」


 そして、リアは赤いセンスを込めると、円形状の波紋が発生。ホテル全体を包み込み、X線で荷物検査するように建物の屋上から一階まで照射している。オカルトに精通しているなら、妨害される心配もあった。むしろ望むところであり、それこそが彼らの居場所を教える道しるべになる。


「ふむふむふーむ。想定通り、反応がない箇所があるぞい」


「どの辺りでしょう」


「一階ロビーと二階の間……いわゆる中階の会議室と思わしき場所よ。空白から逆算するに、三フロアほど貸し切っておるようだな。魔除けやトラップが用意されていると予想されるが、それでも行くか?」


「当然!」


 必要最低限のやり取りを交わし合い、流れるように移動を開始する。屋上からホテル内に通じる階段を降り、あっという間に二階まで辿り着く。中階というのは、ロビーを見下ろせる位置にある吹き抜けに作られた空間のことだ。ラウンジの延長線上として機能し、休憩用の座席があり、一階と中階を結ぶ階段と手すりが備わっている光景がパッと頭に浮かぶ。正面から堂々と行くのも手ではあるけど、人目につきすぎるし、当然ながら警戒されている。魔術の発動で私たちの存在はバレているだろうし、無難な選択肢とは言えない。


「どのルートでいく? 正面か? それとも」


「裏口一択!!」


 中階と二階の接点に当たりをつけ、私は廊下に三叉槍を突き立てる。地面に亀裂が走り、一部が崩落。見取り図的に見れば、中階の空白フロアに辿り着ける計算。何が来るかはお楽しみ。色々と対策を立てるのも一興だけど、手遅れになれば意味がない。私たちは最速最短でトゥーレ協会の根城に到達する。


「「………」」


 真っ先に耳に入ってきたのは、優雅で壮大なオーケストラの音色。曲名は分からないけど、作曲者は多分ワーグナーだ。ヒトラーが好んでいたことは、教養のない私でも知っている。ただ、そんなことはどうだっていい。知っていようが知っていなかろうが、目の前の出来事には関係がない。


「馴染む、馴染むねぇ。やはり、若い鬼は器が規格外に頑強だ。人間では例外なく溢れ出してしまう私の存在を抑え込めている」


 悠々自適に語り出したのは、ナツキに宿った何か。周囲に倒れるナチスの軍服を着た面々と、儀式めいた刻印に視線を落としながら、興奮を抑えきれずにいる。


「まさかお前は、アドルフ……」


「二番煎じと同じにしてもらっては困る。私こそが崇高なる思想の源泉だ」


 リアの予想をキッパリ否定し、彼女……ではなく、彼は起源を主張する。恐らく、前提知識の延長線上にいる存在。ヒトラーに見捨てられた側の人。


「トゥーレ協会団長……」


「ルドルフ・フォン・ゼボッテンドルフ」


 その声に呼応するように、彼は両目を見開き、黄金の瞳を輝かせている。鬼固有の赤目から遠く離れた色彩を放っている。


「いかにも。異世界人至上主義を実現するためにも、その他大勢にはご退場願おうか!!!」


 ルドルフは右手を突き出し、何らかの衝撃波を放つ。


「「――――っっ!!!!」」


 私たちは否応なく壁に叩きつけられ、次々と部屋を突き破り、空中に放り出される。規格外の実力。今まで戦った中でも、群を抜いて強い。恐らく、瀧鳴大神とも引けを取らないレベル。少なくとも今の私たちじゃ足元にも及ばない。


 予想もしていなかった急展開に必死で頭を回転させながら、次の手を考える。ただ、意識は薄れ始め、目の前は霞み、頭がぼーっとしてきた。何も考えられない。思考巡らせる余地がない。視界が暗転する狭間に見えたのは、五つ星ホテルが倒壊する光景だった。

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