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ナナコChannel  作者: 木山碧人
第十一章 オクトーバーフェスト

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第18話 企業理念

挿絵(By みてみん)





 意思の力を扱えるのと、意思能力を持っているかは、全くの別物だ。前者は体術や魔術で幾分か補うことができるけど、武器や道具を持たない状態に滅法弱い。一方で後者は武器や道具がない状態でも、どこからでも固有の能力を出力できる。


 あたしは持たざる者だ。意思の力の基本は抑えているものの、意思能力は備わっていない。パパの強権的な教育方針というやつで、頑なに守り続けていた。その教えに背く日がきたのかもしれない。


「「………」」


 舞台中央へ鬼と共に降り立つ私は、一見すると何も持ってなかった。夢と魔術のショーを謳ってはいるけど、意思の力を使った者同士の戦いは一般人に視認不可能。このままだと超人的な演舞を観客に見せつけるだけになる。


 だから――。


「あたしは……いいえ、わたくしは主人のいないメイド。世の中を清潔に保つことが至上命題。セレーナ商会から魔術商社に、武器流通から魔術流通に鞍替えしたとしても、その企業理念は変わっておりません」


 言葉が届かないと分かっていながらも、わたくしは敵に事情を説明する。言うまでもなく、ナナコの目は虚ろで返事はない。観客にも声は届かず、長々と説明を続ければ、場が冷える一方。それでも、この工程には意味があると信じていた。


「箒一つあれば、事足りる。お掃除される覚悟はよろしいか? 悪鬼羅刹」


 虚空から出でるのは、毛先の長いヤシ葉の箒。原型そのもので、名前はついていない。固有の意思能力なのか、長年愛用したメイド服が魔術道具として機能したのかは分からない。ただ、手に馴染む。しっくりくる。これ以外ないと魂レベルで感じる。問題はどこまで使いこなせるか。実戦で試すしかない。


「―――――ウゥッ!!!」


 ナナコは呻くような声と共に、背中の槍を片手で掴み、強引に横薙ぎに振るった。わたくしは箒の柄でそれを受け、テント上空に吹き飛ばされる。突き破るほどの威力はなかったものの、大した腕力。先ほどの違和感はやはり勘違いだったのかもしれない。とはいえ、感心している場合じゃなく、ここからはわたくしのターン。


「…………」


 観客の息を呑む音が聞こえる。一同の視線が空中にいるわたくしに注がれる。箒に跨いで浮く……それは前時代的な魔女のイメージだ。馬鹿にするつもりは毛頭ないけど、わたくしはあくまでメイド。一線を画した存在でなければならない。


挽回開花ドリームブルーム


 箒を植物の状態に戻す。受けた威力を生命エネルギーに変えるカウンター型の能力。生じるのは赤いヤシの木だった。薄くて細いしなやかな葉っぱが羽のように左右に伸び、舞台中央付近にしっかりと根を張っている。


 わたくしは木の頂点に立っていた。空中で自由自在に飛び交うわけでもなく、しっかりと現実世界の法則に合わせ、地に足ついたやり方で能力を実現した。詳細は不明。ただどうやら、観客が見えていることから魔術に該当するらしい。


 さてさて、これをどうしてくれようか。自分のことながら理解できない代物を生み出してしまったわけだけど、不安より興奮の方が勝っている。いかようにも変化できる余地を残し、わたくし自身も能力の底が知れないことが気に入った。


「……」


 頂点から幹を伝うようにして降り、途中で手に取ったのは、赤いヤシの実。固い殻に包まれており、中身の効能は見当もつかない。


「――、――――、――――――!!」


 それを投げる、投げる、投げる。ヤシの実を投擲物として利用し、手あたり次第にナナコへとぶつけた。


「――!! ――――!!! ――――――!!!!」


 ただ、彼女も素直に受けてくれるはずもなく、槍を乱雑に振り回して投擲物を叩きつけるように迎撃していく。そこでようやく芸だと認識したのか、観客の声が聞こえ始めた。プロレスを観戦しているような歓声が飛び交っている。私は正義のプロレスラーで、彼女はヒール役といったところ。あくまで演技上の戦いだと思ってくれるなら都合がいい。なんの気兼ねもなく、思いっきりやれる。


「………」


 迫られた選択肢は、ヤシの実を食べるか、食べさせるかの二択。毒にも薬にもなり得る可能性を秘めており、下手に口にすれば、自滅する恐れもあった。安全な選択肢を取るなら、敵に食べさせて様子を見るのが最も無難ではある。


「――」


 ただわたくしは、地面に転がるヤシの実を食べた。黒い果肉を口いっぱいに頬張り、味を確かめる暇もなく、胃に流し込んだ。


 ドクンと心臓が脈打つ音が聞こえる。何らかの効能が働いたのが分かる。その瞬間、嫌な予感が頭を巡った。鬼の攻撃を受けて生まれた木なのだから、それに付随する効能になるかもしれないと。つまるところ、わたくしは類まれな膂力と引き換えに、鬼に変わってしまう可能性が存在していた。


 しかし、すぐに杞憂だと気付いた。鬼とは相反する成分であることが判明した。この場限りのものか、半永久的に続くものか分からない。ただそれは、わたくしに変化をおよぼし、観客もその違いに気付いていた。言うなればそれは……。


「仏、様……」


 観客の誰かが言った。異国の地でありながら、東洋の仏教に心得のあるものが理解を早める補助線を引いた。見た目に大きな変更点があったわけじゃない。千本の腕が背中から生えたり、仏を象ったものが具現化されたわけでもない。わたくしに生じた変化は二点に凝縮されている。


「――――」


 光背と法輪。蓮の花弁を模したような神々しい光が背中に生じ、地面には八本のスポークで支えられる船の舵輪のような幾何学模様が地面に浮かんでいる。能力も詳細も不明。全く持って理解不能。だけど、このカオスが心地いい。後はこれを遺憾なく存分に悪に堕ちた鬼へぶつけるまでだった。

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